第29話
「サンプル手に入りました!12と24の二種類です」
御戸部達に同行させていた連絡員が紙袋を掲げていた。
「バカヤロウ!」
直ぐに、近くにいた職員が連絡員の男を捕まえて引き摺り倒していた。
そうしておいて、耳元に口を寄せ小声で叱っている姿が見える。
「お前は超が付く機密だって分かってるのか!「サンプル」何て言いやがって!そう言う時は「出張の土産です」とか言っとくんだよっ!」
そう言った直後に、ゴチンッ!と拳骨が落とされる音が聞こえた。
ここまで聞こえるってことは、相当良い感じに罰が下ったのだろう。
「室長、これを」
そう言って俺に手渡されたのは連絡員が持っていた紙袋だった。
直ぐに受け取って中を確認する。
掌に乗る程度の箱と両掌に乗る程度の箱の二つが入っている。
直ぐに中を見てみたい衝動に駆られるが、それを抑え込んで「確認してくる」とだけ告げる。
俺は紙袋を持って、部屋の奥にあるエレベーターに乗った。
このエレベーターは、さっきの部屋と今向かっている部屋の二つにしか繋がっていない。
勿論、セキュリティーのためだ。
ここまで厳重にしているのには訳がある。
今私達が扱っているのは、世界のエネルギー事情を一変させる物だからだ。
現代社会の根幹と言ってもいいエネルギーは石油と電気である。
まあ原子力発電だとか太陽光発電などもあるが、そんな物は全体のごく一部で、発電の半分以上を火力発電に頼っているのが現状なのは間違っていない。
その発電された電気で、ほぼ全ての生活が成り立っている。
そんな世界のエネルギー事情の根幹を成す石油と電気の両方にどれだけの人間が携わっているだろう?
数万、数十万、数千万、いやいや億を越えていてもおかしく無いかもしれない。
世界の人口六十数億人の内の一億人が携わってるとすれば、その影響力の大きさも簡単に理解できるだろう。
そんな基幹産業に大打撃を与える可能性、それを実現するであろう物が今俺の持っている紙袋に入っているのだ。
とてもこの程度のセキュリティーで充分だなどとは口が裂けても言えない。
私からしてみれば、全く足りないとしか考えられない。
だが、ここでこの程度のセキュリティーしか無い状況も、理由を聞けば納得せざるを得なかった。
それは・・・国内にもエネルギー産業があるからだ。
世界がどうの、と言う前に国内にも存在を漏らせない状況があり、そのために一部の人間以外を完全に排除するために小規模にしかできなかった。
それに過剰な施設や警備などでは、簡単に「何か重要なことをしている」とバレてしまう。
そんな訳で、五階建ての中古ビルを改造しただけのこの場所が重要施設だとは、隣のビルの人間も気付かないだろう。
そんなことを考えている間に、エレベーターが到着しドアが開いた。
「サンプルが到着した。確認をしてくれ!」
俺は紙袋を部屋にいた男に渡す。
「これがアレですか?」
「そうだ。12と24の二つがあるらしい。使うのは12に小さい石、24に中くらいの石だ。間違えるなよ」
部屋にいた男達(と言っても四人だけだが)は紙袋から二つの箱を取り出し、中身を確認しているところだった。
「おい、模様が変わっているぞ」
「こっちもだ」
「この変更で電圧の制御をしているのか?」
「分からん。だが、その可能性はあるな」
「取り敢えず、両方を確認してみよう」
彼等は二人ずつに分かれて、箱の中身を確認しだした。
暫く待つと「室長、両方とも指定された数値を確かに確認できました。誤差は1%以下です」と告げてきた。
「その誤差の値と言うのは、どうなんだ?誤差として大きいのか?小さいのか?」
「はっきり言って、誤差が無いと言って良いくらい小さいです。これほど安定した電力源など、今の科学技術では再現できないでしょう」
・・・そうか・・・やっぱり凄いものなんだな、魔法と言うのは・・・
*** *** *** *** *** ***
「おはようございます、御戸部さん」
「おはようございます、涼木さん」
御戸部さんがやって来て三日目の朝だ。
「それで、本当にやるんですか?」
「ええ、確認は必要だと思いますので」
御戸部さんがやって来た初日に俺が準備していたサンプルを渡したのだが、魔法陣の方は送ったようで、今日は武器の方を実地で確認したいと言われていたのだ。
「そうは言いますけど、その武器が必要になるような場所には連れて行けませんよ。そう説明しましたよね?」
「しかし現状、この武器の性能を確認できるのは私達しかいないんですよ」
「それでも無理です。せめて実戦経験のある人が訓練をしてからでないと許可が出ませんよ」
「何とかなりませんか?」
御戸部さんはそんな風に言うが、はっきり言って無謀も良い所だ!
彼等はモンスターを甘く見ているのだろうか?
いや、今の俺は「ただの賢者と話ができる一般人」でしかないから、説得力が足りないのかも知れないな。
さて、どうやって危険だって説得するか・・・
「じゃあ、死んでも良いってことですね?それで武器の性能が確認できると?」
「・・・死・・・ぬんですか?」
「そう言ってますけど?」
「・・・でも・・・これは有効な武器なんですよね?」
そうか、この人達って実戦を経験して無いから、その辺の感覚が無いのかも。
「モンスターに有効な武器ですよ。でも、御戸部さんソレ使えますか?達人級に・・・」
「・・・達人?」
「そうですよ。前に殺意バリバリで襲ってくるモンスターを見てますよね?その武器が有効だって確認できるレベルのモンスターって、実戦経験のある達人級じゃないとマトモな評価なんてできませんよ」
「そ、そ、そんな!・・・じゃあ、いったい涼木さんは、どうやって私達が敵わないって判断してるんですか!」
「俺ですか?俺は、あなた達と賢者を繋ぐ係ですから、実際に見せて貰ってますよ、戦闘を・・・」
「なっ!本当ですか!」
「ええ。あっ、そうだ!良い物があります!それを見れば、少しは分かるかもしれません!」
そうだよ!ネットにあげてる動画を見せれば判断ができるかも知れないじゃないか!
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