2章 ダンジョン公開に向けて

第27話

ベンチャーで始めたEV電気自動車製造会社だが、今非常に困った状況に置かれている。

と言うのも、いきなり政府関係、要は経済産業省から問い合わせがきたのだ。


「はい、社長の江藤ですが?」

「初めまして、経産省 製造産業局 自動車課の沢渡さわたりと申します。本日は、御社に少し御相談がありまして御電話差し上げました」


経産省の役人なのに妙に腰が低いなぁ?


「どのような相談でしょうか?」

「詳しい内容は電話では難しいので、直接御伺いしてお話したいのですが、御都合の方はどうでしょう?」


都合を聞いてくるなんて初めてだぞ?


「今週は特に出張は無いので、問題は無いと思いますが?」

「そうですか!では、明後日の朝、そちらに直接伺わせていただきますので、どうかよろしくお願いいたします」


本気で腰が低過ぎて、つい警戒してしまいそうになる。

何か、凄く胡散臭くてマジで引きそうだ。


「は、はい。取り敢えず明後日は空けておきますね」

「はい、失礼いたします」


・・・何だったんだ?背筋が寒いんだが・・・


「社長、経産省が何だったんです?」

「良く分からん。電話だと説明が難しいから、直接来るって言ってたんだが・・・」


「いつですか?」

「明後日の朝だな」


「それって、話ってのは嘘で、飛び込みの監査とかじゃないですよね?」

「無いだろ、今の相手は自動車課だぞ。監査なら、調査関係の部署だろ?」


「あっ!そうか」


相談って言ってたが、うちみたいな弱小会社に何の相談なんだか?

サッパリ見当が付かないぞ?



*** *** *** *** *** ***



都内、某所。


「お待たせしました」

「いえいえ。局長の御誘いとあらば、何と言うこともありませんよ」


「それはありがたい」

「ところで、突然珍しい場所に呼ばれて驚きましたが、何かありましたか?」


通常であれば、個室があり、守秘義務が徹底された高級料亭などに呼ばれるのが、今回は高級ではあるが焼肉店の個室だったことに言及する。


「実は、美味い焼肉が喰いたくなりまして、御一緒できればと思ったんですよ」


局長と呼ばれた男性は、そんな言葉を発しながら、手元に変わった形状のタブレット端末を置いた。

その後、ポッポッポッポッポッとタブレットをタッチして、表示された画面を見せてくる。

そこには『今回はこれを使った筆談でお願いしたい。喋るのは、内容に関係無い一般的なことのみで頼む』と書かれていた。


何が何やら良く分からないが、タブレットを借りて「分かりました」とだけ打ち込む。


「で、どうです?最近の御社の景気は?」

「少々消費が冷え込んでいる気がしますな。なかなか売り上げが伸びません」


そんな話をしながら、手元ではタブレットを交互に打つと言う作業をしていた。

その内容が、良く理解できないものだったが・・・


『御社で家電を改良できないだろうか?家庭用電源である100Vを使わず、直流電源24Vで動く物が理想だ』

『何故、そんなことを?』


『すまん。極秘のために詳しくは話せない。そうでなければ、こんな場所で、こんな面倒な方法はとらないだろ』

『確かに。できるか、できないか、で言えば可能です。それもそれほど手間は掛かりません』


『本当か?』

『ええ、元々家電製品と言うのは、内部では直流電源で動作していますから、特に新しく技術開発が必要な物でも無いんです』


『それは助かる。極秘で、一般的な家電製品を直流電源仕様にした物のサンプルを用意できるかな?』

『それは可能ですが、納期は?』


『できるだけ早く、使用用途も極秘で、絶対に私が関係しているとバレ無いように』

『全て極秘ですか?かなり難しい注文ですな。そこまでやると時間がそれなりに掛かりますが?』


『極秘で進めるために掛かる時間は仕方無い。何を置いても極秘であることが一番重要なんだ』

『そうなると、ここで即答は難しいですが?』


『分かった。連絡は無し、電話もネットもメールもダメだ。今回の話し合いの内容を記録するのもダメだ。兎に角、記録を残さない、会話は直接会って、このタブレットのみでしか行えない』

『では、こちらの準備が整った時点で、また何処かで食事でもしますか?』


『それが一番だろうな』

『分かりました。場所は局長に御任せします』



「・・・では、肉を焼きましょう」

「そうですな。そろそろ腹が減りました」


随分と情報漏れを嫌がった話し合いが一段落したようだった。




*** *** *** *** *** ***



ある大手太陽光発電機器の製造元。


「お久しぶりですな」

「突然電話をいただいて驚きましたよ」


「実は少々御伺いしたいことがありまして」

「何でしょうか?」


「太陽光発電ですが、家庭用のあれってパワコンを通さないと直流でしたよね?」

「ええ、そうですよ。パワコンで交流に変換してますから」


「じゃあ、パワコンを通さない状態での直流の電圧って、いくら位なんです?」

「それはモジュールのメーカーによって多少変わりますが?」


「だいたいで良いので」

「12V~24Vですかね」


「なるほど。それって太陽光の強さでで変動しますよね?」

「そうですね。厳密に何V出力されるかは上限以外固定されていませんから」


「ふむふむ」

「ところで、何が聞きたいんです?」


「えっ!今聞きたいことを聞いてますが?」

「はっ!こんなことが聞きたかったんですか?」


「ええ、私は監督省庁の人間ですが、製品の仕様には詳しくは無いので」

「どういうことか説明してもらえるんでしょうか?」


「申し訳無いですが、機密事項が含まれるので説明は、ちょっと・・・」

「・・・まあ、特殊なことを聞かれている訳では無いので良いですけど、いつか説明してもらえるんですかね?」


「それは「時期が来れば」としか・・・」

「良いですよ「時期」まで待ちます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る