第26話

今年の初雪がニュースで報道された翌日。


俺の所に、ある小包が届いた。

送り主は、御戸部さんだった。


箱を開けて中を確認すると、そこには手紙が二通とA4の封筒が入っていた。

手紙の方は、一通が御戸部さんから、もう一通が法務省からだった。


内容は既に先週の内に聞いているが、取り敢えず確認してみる。


「思った通りの内容だな」


そこには「難民保護法、特級指定特殊難民法成立に伴う、日本国の戸籍登録終了の御連絡」とあった。


なかなかに待たされたが、日本の政治家にしては早く動いた方だろうな。

たぶん御戸部さんに渡したサンプルが効き目を発揮したんだと思う。


御戸部さん曰く「日本国に対してのメリットが・・・ウンヌン」ってことだったけど、あれって利権を得ようって考えだろうな。

まあ、あんまり惨いようなら、その時に考えるしかないんだろうけど・・・


何にしても、師匠達が非公式ではあるが日本国民として認められたのは嬉しい。


それにしても、日本って諜報関係はガバガバだって思ってたけど、現状、俺達のことを割と上手く隠し通していると思う。

もっと他国からの介入とか、俺の所にスパイが来たりとか、あるかも?って警戒してたんだけど、全然そんなことは無かったもんな。

俺の「情報が漏れると最悪、戦争になるかも」って脅しが効いたって可能性も高そうだけどな。


ただ、このまま隠し続けられるか?って考えると、無理だとは思う。

「絶対に何処かで漏れるんだろうな~」ってね。


そうなるとたぶん・・・望まないお客さんが一杯来るんだろうな。

まあ、どうやったって魔法が使えない限り塔を見付けることはできないんだけどね。


その状況になると、どう考えても一番危ないのは俺なんだよな。

御戸部さんも、塔を実際に見たり入ったりはしたんだけど、あくまでも許可を得てって条件だし俺みたいに自由には無理だからなぁ。

唯一、賢者と連絡ができる人間って俺だけだし・・・


「・・・ふっ、ふふふふ。ヤバイ、御戸部さんの驚いた顔が・・・」


何故か不意に初めて御戸部さん達が塔に入った時のことを思い出してた。


あれは確か「モンスターがどんな存在なのか確認したい」って要望だった。

師匠に許可を貰った振りで、塔に案内して最初に見せたのがゴブリンだったんだ。


あの緑の小鬼を見た瞬間の御戸部さん達の驚いた顔って、傑作だったな!


でも流石だと思ったのは、俺は初めての時に殺気に当てられて体が硬直したんだけど、御戸部さんは驚いただけだったんだよ。

ゴブリンの顔って結構怖いんだけど、顔よりも殺意の方が初めての時は堪えるんだよ。

あれって警察官だからってのもあるんだろうけど、それなりに修羅場を潜ってるんだろうって思ったね。


その後のオークの時は、流石に殺意も姿もゴブリンの比じゃないから腰を抜かしそうだったけど、あれはシロウトには無理だから仕方無い。


ああ、そうそう。

もっと下の階層で兎のモンスターも見せたんだけど「これを殺すんですか?」って山元さんの方が引いてたな。

パッと見、可愛らしく見えるんだけど、襲い掛かって来る時は牙を剥き出しで凄い形相で来るから躊躇してる暇なんて無いんだよな。


モンスターで多少でも戦闘までに余裕があるのは、言葉が使える上位種や変異種ぐらいかな?

会話が成立する可能性があるからだけど、まあ滅多に戦闘を回避するなんてできない。


結局はモンスターって存在は、そう言うモノだって割り切るしか無いんだ。


さて、話が逸れまくったけど、結局のところ俺の身が危ないってことは確定だろう。


だから、誘拐とかの対処を考えとかないとダメだろうな。

まさか、いきなり殺しに来るってのは無いと思うしね。


どういう状況でも魔法を使えば一発なんだけど、それじゃあ色々バレちゃうし困る。

そうなると魔法を使わないか、魔法だとバレない方法で対処できるようにしないと不味い。

どういう方法が良いか検討しとかないとな。


収納式の槍でも持ち歩くようにするかなぁ?

魔道具だったら、コンパクトにできそうだし・・・槍の穂先は刃が無いヤツで銃刀法に引っ掛からないようにして、あんまり重くない素材って何があったっけ?

強度はそれなりに必要だし・・・って、また話が逸れてたな。


一応、俺は師匠の指導で色々と魔道具を持ってるから薬とか毒は効かない。

状態異常無効化とか、即死無効化とか、魔法防御力上昇とか、物理攻撃耐性とか、本当に色々持ってるから。


まあ、この魔道具達は帝国に攻め込まれてたから必要に駆られて持ち歩くようになったんだけど、こっちの世界でも効果はある。

転移したばっかりの時は、魔素が多過ぎて魔道具が暴走しそうだったから、魔法陣を書き換えたりしたんだ。


日常使いの魔道具は全部書き換えしたんだけど、なかなか忙しかった。

細々したのまで合わせると百個ぐらいあったもんな。


それにしても、魔道具って作れなくなったやつが結構ある。

何でか?って言えば、単純にファンタジーな異世界の素材がこっちには無いから。


特に効果の良いやつは手持ちのやつ以外は追加で作ったりできない。

例にあげると、俺も持ってる状態異常無効化とか即死無効化とかは絶対に無理。


だって地球に〈世界樹〉とか存在し無いから!

他にも、ずっと燃え続けてる火炎石とか、凍ったまま絶対に融けない白氷華とか、抜くと叫ぶマンドラゴラとか、色々と素材が無い。


素材が無いと、作れるものも作れないってのは分かるだろ?


そんな訳で、魔道具は貴重なんだよ。

だから時間を掛けて魔道具の書き換えをして、こっちの世界の魔素濃度に合わせたんだ。



「それにしても、もう十二月か・・・色々あったな」


異世界から帰ってきてから七ヶ月ほど経った訳だけど、まだまだこれからが大変なんだけど・・・


まあ、今は日本国籍を得られたことを喜ぼう!


これでやっと引越しが終わったって気分だしな!

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