第23話

その夜、首相官邸には極秘裏に集められた者達が揃っていた。


何のために集められたのか、その場の者達は誰も知らない。

ヒソヒソと話し合うが誰も事前連絡すら受けていなかった。


「みなさん集まっているようですな」


そう言いながら入って来たのは、副総理だった。

その後ろには総理と何人かの男達・・・たぶん、この男達が今回の緊急呼び出しの元凶だろう。


「急に集まってもらってすまなかったね。実は、少々扱いに困る問題が起きてね。みなに意見を聞きたいと思ったんだよ」

「総理、その問題とは?」


「詳しいことは、彼等が説明してくれるからね。じゃあ頼むよ」

「はい、承りました。みなさま、私は公安から参りました船越と申します。こちらの二人は私の部下で御戸部と山元です。さて今回緊急で御集まりいただいたのには訳がございます。これから話す内容は、外部に漏れますと日本が他国から攻め込まれる可能性があるほど重要な極秘事案であります。そのため諜報の的にならないよう、直前まで何も知らせずにこの場を用意しました」


「おいおい、攻め込まれるって、穏やかじゃないねえ」

「はい。情報が漏れれば非常に危険な状況になるのは間違いないかと」


「「「「「・・・・・・・・・」」」」」

「・・・この部屋は、それにみなの体や服は確認しなくて大丈夫なのか?」

「はっきり言ってしまえば、大丈夫ではありません。スマホや携帯、各種電子機器は危ない可能性が高いです」


船越の言葉に、全員が固まった。


「すまないが、みな万全を期すためにも身体検査と電子機器の提出を」


今の話の後に総理の言葉とくれば、誰も逆らわない様子だった。

まあ、ここで騒げば「自分は情報を漏らします」と言っているようなものだし、それはつまり、その人物の政治生命の終わりを意味しているからな。


「・・・では、本題に入りましょう。みなさんは異世界と言う言葉を知っておられますか?」

「それは、この世界とは別の世界と言うことでは?」


「その通りです。現状は夢物語でしかありませんが、それに毒され過ぎて犯罪に走る者いるので、公安でも色々と学ばねばならなくなっている状況です。ところで、この異世界、本当にあると思われますか?」

「・・・分からない、としか答えられんだろう?無いとも、あるとも証明できんしな」


「その通りです。が・・・と言う言葉が必要になりました」

「そ、そ、それは、何かね!異世界が証明されたと?」


「それが今回のこの会議の本題に係わってきます。まず「異世界からある人物が日本にやって来た」と、お考えください。その人物は、まずどうするべきだと思いますか?」

「「「「「・・・・・・・・・」」」」」


誰も何も言わないな。


「私の意見は「生活するための基盤を作る」です。誰しも生きていくために食事や住む場所、眠る場所が必要です。それも安心できなければ困るでしょう。となると、安心できる住処と食糧が最初にやるべきことでは無いでしょうか?」

「確かに、そうだろうな」


ウンウンと他の人達も頷いている。


「さて、では異世界から来た人物が仮に日本にいたとして、どうすればその条件に合う状態になれるでしょうか?」

「・・・それは・・・政府に申し出て・・・」


「今言われたのは、他国の人間が日本人になるための方法ですね。しかし、その人物は地球上のどの国にも属していません。何せ違う世界〈異世界〉から来たのですから。ではどのように手続きするのでしょう?私は現在の法律では手続きすらできないと思うのですが」

「地球上の国籍が無いとなると、確かに基準になる物が無いことになるな。しかし、そのような例え話を・・・いや、と言っていたな。異世界が証明されたのか?と言う質問には答えていなかったはず・・・まさか!本当に異世界から来たが存在するのか!」


態々濁して曖昧にしてるのに、そこを確認したがるのか?

本当に頭の回らんヤツラだな。

これで政治家って言うんだから、世も末だな。


「君は少し頭を使いたまえ!言わない意味を考えられないのかね」

「なっ!何を・・・」

「少し静かにできないかな?どうする?これ以上騒ぐなら、立場を弁えないってことで、今後は君は呼ばない方向で考えるけど?」

「・・・・・・」

「静かになったようだね。じゃあ話を進めてくれるかな」


「まず一応言っておきますが、この中の誰も〈異世界の人物〉を確認はしていません。ただ、日本人の一人が接触し関係を構築したようです。そしてある筋から、その情報が公安に齎されました。つまり、まだ確認はできていないことを前提に会合をしている訳です。なので、確定情報は御伝えできません」

「それでは、この会合自体が無駄になるかもしれないのか?」


「そうはならないと考えていますが、それを裏付けることはでません」

「一つだけ聞きたいことがある。私の所から、内調経由で公安に調査の依頼が行ったはずなんだが?知っているかね」


「はい。私共が担当しました」

「・・・そうか、分かったよ」


なかなかヤリ手の人物だと聞いていたが、彼はこの話の鍵に気付いたようだな。


「話がそれましたが、元の話を続けます。まず確定事項では無いので、あくまでも想像の範囲ですが、異世界人がいたとして、日本が囲い込むことにメリットはあると思いますか?」

「それは他国との関係を考慮して、と言うことかな?」


「そうなります」

「今聞いた話だけでは判断が難しいが、メリットは無いだろうね」


うん、他国との関係を悪化させることを考えるなら、それも納得できる答えだろう。

だが、それでは日本の立場は弱いままなんだけどなぁ。


「では、どうすれば日本が抱え込むことに納得できるでしょう?」

「それは・・・何某なにがしかの、それこそメリットを提示されたとかなら、考えようがあるかもしれないが・・・」


「では、これではどうでしょう?完全にクリーンな発電技術。二酸化炭素は排出しない、放射能汚染も無い、発電の元になる燃料は日本国内でしか用意できない、となれば?」

「「「「「・・・・・・まさか・・・」」」」」


人々がザワザワとし始める。


「待ってください。これは、あくまでも架空、想像、そんな確証の無い話です。それを前提に、さっきの条件だと日本のメリットになりえるでしょうか?」

「・・・なるだろうね。それが事実であるなら、だけど・・・ただ、物凄い圧力がありそうだね」


そういう答えになるだろうとは思っていた。


「ええ、産油国は勿論、同盟国であるA国、近い所でR国、RK国やDPRK国やC国などは猛反発してきそうですね。ここまで言えば理解して下さると思いますが、この不確定な情報がとしてでも漏れると、最悪日本は戦場になりえます」

「船越君、少し良いかな?」と総理が一言。


私がそれを無視することなどできる訳も無いので、無言で頷いた。


「話の通り、この情報は危険なんだ。少しでも漏れた時は、日本国に対しての裏切りだよ。他国なら国家反逆罪になるだろうね。分かったかな?みんな」


全員が総理の圧力に首を縦に振っている。

なかなか良い威圧をするじゃないですか、総理!


「では、話を続けましょう」


私達はまだまだ話し合わなければならないことが多い。

時間はあるが、有効に使わなければならない。

情報漏れを考えるなら、いかに早く、いかに静かに、いかに極秘裏に進めるかが鍵だ。


今日ここで、みなの意識を一つに纏めなければ・・・日本が生き残り、世界のリーダーとなるためにも・・・

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