第22話

特殊魔法と呼ばれる魔法は、習得できるかどうかも怪しい魔法なんだよな。

何でなのか?

それは習得するのに種族が係わるからだ。

つまり獣人族、妖人族、妖精族、水人族など沢山ある種族ごとに種族固有の魔法を持っていたりするんだけど、それを他種族が習得するのはとんでもなく難しいらしい。


例えば特に習得が難しいと言われるものがいくつかあるんだけど、その一つの例として獣人族の〈獣化〉があるんだ。

獣人族は、それぞれ何かしらの動物の特徴を持っているんだけど、その動物の力を限界まで引き出すのが〈獣化〉と言う種族特有の特殊魔法なんだ。

でも、ただの人は動物の特徴を持ってないだろ、そうすると何をどうやって動物の特徴が無いところから力を引き出すんだ?ってなる訳。


逆に割りと簡単だって言われるのは、妖精族の中で土精種って言われる通称ドワーフの〈鍛冶〉って言う特殊魔法。

通常でも魔法無しで鍛冶作業ができるから、そこからの流れで〈鍛冶〉を習得し易いらしい。


俺も〈鍛冶〉は既に習得しているんだけど、これはイレギュラーなんだ。

まだ特殊魔法の修行を始める前で魔道具の製作をしてた時、金属製の部品の形状が少し歪んでて、魔道具に使えないってことがあったんだけど、その時に無意識にその歪みを直そうとして魔法を使ってた。

俺は無意識だったんで気付くのが遅れたんだけど、それが〈鍛冶〉の効果だったらしい。


俺としては、それを見て慌てる師匠の方に驚いてしまった。

後で聞いたら、基本的に特殊魔法の習得は数年単位から十数年単位になるらしいんだ。

修行を始めるのは割と早い段階だけど、実際に習得できるにはそれだけの時間が掛かるらしい。

それに、やっぱり特殊魔法って言うだけあって、必ず習得できるとは限らないんだってさ。

凡その修行期間の目安があって、その期間内に習得できなければ諦めるのが一般的なんだって。


だから最初は基本的な修行方法を学んで、他の修行の合間にこっちの修行も平行してやるってことだな。

つまり、俺はこれから特殊魔法の修行を始めるけど、その結果が分かるのは何年も先ってことだ。


「さて、始めようかな。まずは・・・」



*** *** *** *** *** ***



「おはよう・・・あぁーーーー!御戸部さん!」

「山元、朝から五月蝿いぞ!あと、きちんと朝の挨拶ぐらいしろ!」


「いったい今まで何処に行ってたんですかっ!」

「だ・か・ら・五月蝿いって言ってるだろうがっ!」


御戸部は、手元にあった書類を丸めて山元の頭をバシンッ!とはたいた。


「この後、主任に報告に行くからお前も一緒に来い。あと、地下のアソコを取っとけ」

「痛ったぁー!・・・地下のアソコですか?」


「アソコ」公安の中で使われる隠語だが、要は極秘の話をするために使われる部屋のことだ。

完全防音、完全電波遮断、金属探知機、身体検査、電子機器の持ち込み禁止、衣服も下着以外全部脱ぐと言う徹底振りの部屋だ。

唯一持ち込めるのは紙と鉛筆のみで、鉛筆も専用の透明(芯は黒いけど)な物である。


「他にどこがあるんだ?主任を連れて行くから、先に行っといてくれ」

「・・・分かりました・・・」


御戸部の背中を見送る山本は『御戸部さん、アソコを使うなんてどんだけヤバイ情報を持って帰ってきたんだよっ!』と悪態を吐いていた。

何故なら、バディである山元は完全に御戸部の持ち込むであろう件に強制的に係わらなければならないからだった。


十数分後、主任を連れた御戸部が地下に下りて来た。


「御戸部さん、部屋取ってあります」

「時間は?」


「午前中一杯ですけど、足りませんか?」

「いや、今日はそれで良い」


『・・・今日はって、どんだけヤバイんだ?』と山元は自分のバディの言葉に目を剥いた。


むさ苦しい男三人が下着姿で部屋の中に入る。

背後でドアが自動的にロックされる音がした。

三人に持ち物は無い。

紙も鉛筆も持ち込まなかったのだ。


部屋の中には何も無い。

テーブルもイスも何も無く、ただのコンクリートの打ちっぱなしである。

ただ中央に凹みがあり、そこが掘り炬燵に足を入れる感じで座れるようになっているだけだった。


「で、御戸部。どんな情報を仕入れてきた?」

「超が付くくらい特大級の爆弾ですね。山元は覚えてるだろう?例の外交筋からの依頼」

「あの田舎の山にある、会社の社長を訪ねた件ですか?」


「それだ!あれが爆弾の元だ」

「あれは、誤情報だったと報告したのは御戸部だろう?」


「後で詳しく話しますが、あれは嘘でした。あの社長に騙されたってことです」

「えっ!嘘でしょう?俺も御戸部さんもシロだって判断したはずじゃあ・・・」


「あの時は、私も確かにシロだと思ったが、今回その社長から呼び出されたんだ」

「つまり、あの件は元情報が正しかった、ってことか?」


「はい。ただし経緯は全く違いますけどね」

「どういうことだ?」


「信じ難い話なんですが、異世界から建物ごとやって来た賢者と呼ばれる人物がいたってことです。だから誰も未確認超超高層建築物なんて建築してなかったんですよ」

「「はぁあ?」」


御戸部の言葉に、二人が惚けた声を上げた。



*** *** *** *** *** ***



「・・・あれっ?」


俺はいくつかの特殊魔法の基礎的な修行を始めたところで、ある違和感を感じた。

それは丁度、妖精族の中でフェアリーって呼ばれる種族の魔法で空間に干渉する〈フェアリーリング〉と言う魔法を試した時だった。


「何か、今覚えられたような気がするんだけど・・・」


その時感じた違和感は、魔法を習得した時の感覚に似ていたんだ。


「まさか一発で習得できる訳が・・・」


そう思ったのだが、自分の習得している魔法を確認してみたら・・・「うわっ!習得できてる」って声が出ちゃったよ。

俺自身も予測できなかった事態に驚くことになってしまった。


いやー、無理だと思ってたんだけど、こういうこともありえるんだなぁ。

そんな現実逃避したくなる状況に、ついつい視線が遠くを見てしまうのって仕方が無いよなぁ。

たぶん、これを師匠に報告すると〈鍛冶〉の時と同じで、また色々と追及されそうだな。


「うん、これは当分黙っていよう!」


そう面倒事を遠くにブン投げてから、別の特殊魔法に取り掛かった。


・・・結果。


その後も、いくつかの特殊魔法を一発で習得した俺は、師匠に話せない秘密を抱えることになってしまった。

いったい何でなんだ!

俺、普通に修行してただけなのに!


習得できたのは、妖精族の特殊魔法ばかりだったが、フェアリーの〈フェアリーリング〉、エルフの〈植物魔法〉、レプラコーンの〈修復魔法〉、シルキーの〈家事魔法〉、ジャック・オ・ランタンの〈欺瞞魔法〉の五つだ。

これだけでも、数年から十数年の修行が減ったことになる。

それに特殊魔法は種類が多いので、一度に全部を試してない。

つまり明日以降もやれば、まだ増えるかも?


訳が分からないんだけど?

何で一発で習得できてるんだ?

理由は?

条件は?

何かあるだろう?


そうは思うが、いくら考えても思い浮かぶことが無い。


「・・・強いて言うなら、魔力量くらいか?」


俺の潜在魔力量は、師匠の数十倍はあると言われてた。

その理由も地球に帰ってきて分かったけど、地球の魔素量が異常に多かった影響なんだろう。


他には・・・思い浮かばないな


「うん、全部ブン投げよう!未来の俺が頑張ってくれるさ!」


俺は考え悩むことを諦めて、放置することにしたのだった。

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