第21話

師匠の言うことは確かで、俺(放射能を知ってれば誰でも怖がると思うけど)は怖がり過ぎで必要な場所以外にも二重三重に安全措置をしてしまっていたようだ。

こんなに無駄な安全措置をしまくっていれば、そりゃあ処理が重過ぎて馬鹿みたいに魔力が必要になるよな。


まあ、そんな反省をしながら魔法の構築を見直すこと三日、何とかスリム化に成功した新しい魔法は・・・そのまま凍結状態になった。

何でか?って言うと、テストするには・・・その・・・現物が無くて・・・所謂、放射性物質ってヤツがだね・・・手に入るはずも無く、と言って禁呪を使うってのも・・・ちょっと・・・

そうなると、できることが無い!って状況になってしまって、結果、一時凍結って話になってしまった。


理論上は成功確率は八割ほどある。

残り二割は、俺が専門知識を持ってないってことで不測の事態を想定すると、そんな確率になるって話だ。

要は、ほぼ失敗は無いだろうってことだけど、結果は分からない。


現状危ないことをせずにこの魔法の検証ができるとすれば、十年ほど前に地震で被害の出た原発周辺に行くしか無いんだけど、それにしたって理由付けが難しい。

勝手に放射能汚染立入禁止地区に不法侵入する訳にはいかないし、俺が魔法を使えることを誰かに教えることもできない。

ほら、理由付けし辛いだろ?


心の中では何とかしてテストと検証をしておきたい、って思うんだけど地球世界で生活していくことを考えると、余り無茶はできないってことだ。


御戸部さんの方はたぶん相当時間が掛かるはずだし、ネットに上げてる動画は二ヶ月先の投稿予定分まで予約してあるし、そうなると急にやることがなくなった。


そんな頭に『・・・そうだ!買い物をしよう!』って突然閃いた!

何を?って、三人娘の服とか身の回りの物を買ってプレゼントしてあげようってこと。

だって、引越しからこっち、余り構ってやれてないから寂しい思いをしてるかも?だろ。

まあ、積極的にレティーが構い倒してるだろうけど。


そんな訳で、会社の事務所でネットショッピングを始めた。

そこで困ったのが獣人族の二人の服だった。

地球は人間しかいないから失念してたけど、彼女達は尻尾があるのだ。

地球の服に尻尾穴が開いた服などあろうはずも無い。


「・・・可愛い服はあるけれど、どうしよう?折角プレゼントしようと思ったのに、本人達に渡した服の尻尾穴の作業をさせるって、どうなんだ?」


考えてみたけど、何処かに依頼して服の直しなんてできない。

だって「何のために穴を開けるか?」何て答えられないしなぁ。


結局は、彼女達自身で直してもらうしか無さそうだと諦めるしかなかった。

その分、色々と可愛らしい物を選んだつもりだ。

主にネットの評価を見て、評判や反応の良さそうなのを選んだだけだけど。

だって、俺に女の子用の子供服を選ぶセンスなんて無いしな・・・


服以外にも使えそうな物を注文したけど・・・喜んでくれるだろうか?


ネット注文が終わったら、今度は生活用品と食糧の発注だ。

一人暮らしの時と違って、今は人数がいるから注文数も多いんだよな。

まあ、魔法で保存するから腐ったりしない分、いつも多めに発注してるから余計に量が多いんだけど。

塔の保存庫が時間停止機能付きで助かったところではある。

これが無かったら、帝国に攻め込まれた時も食糧で困ってただろう。

最悪、兵糧攻めみたいなことになってたかもな。


ってことで、できる限り旬の物を安い時に大量に買い込んで保存しておくのだ。

じゃないと、好きな時に好きな物が食べれないし・・・


さて、これで生活するために必要なことはやった。

次は・・・久しぶりに修行でもするか!

時々忘れそうになるけど、俺ってまだ師匠の弟子であって、一人前として認められた訳じゃ無いんだよね。

だから認めてもらうためにも、修行して魔法の能力を上げていかないと!


「えーっと、何から手を付けようか?」


修行に使う教材用の本を手にページを捲る。

この本は師匠特製の不思議な魔道具で、パッと見は100ページほどしか無いA4ぐらいの本なんだけど、ページを捲ると不思議さが良く分かるんだ。

まず目次からして、最後のページ数が2694ページと書いてあるんだ。

どう見ても100ページほどの薄手の本のページ数では無い、というかありえない。

そう思って捲っていくと、いつまで経ってもページが中程から進まなくなる。

確かにページ数は増えていて、内容も変わっているし目次の通りなんだけどね。


最初の頃は、その不思議さに無駄にページを捲っていたんだけど、三年目を過ぎたあたりで魔法の原理を理解してからは「流石だなぁ」としか思わなくなったね。

原理としては、タブレットで電子書籍のページを進めるのに似ているけど、そこに魔法的な要素が加わっているんだ。

中程の20ページほどは、本当の物質的な紙ではないのだ。

擬似的な触感のある紙の様な物を再現した魔力の塊りで、中程の20ページほどの中間、10ページ目を捲ると前の方の1ページ目が消え、20ページ目が新たに出現するって感じ。

前が消えて、後ろが出現するから、いくら捲っても中程からページが進まなくなるって寸法。


これを実現しているのが、表表紙と裏表紙、あと見えないが背表紙の裏に書かれている魔法陣とそこに埋め込まれた魔石。


今なら俺も魔道具を作れるし、魔法陣も魔石も使える。

じゃあ何が俺にと思わせるか?

基本的に魔道具と言うのは、どんな素材ででも作れる訳じゃなくて作り易い素材と言う物があるんだ。

その中でも、紙と言うのは非常に難しい素材の一つでね。

これが羊皮紙なら、元になった皮にモンスターの素材を使えばそれほど難しくは無いんだ。


だが紙は違う。

何が違うか?と言えば、紙を作る素材がモンスターの素材では無いと言うことだろうな。

何故だか分からないが植物系モンスターの素材では紙が作れなくて、そのために極端に魔道具化が難しいんだって。


表表紙、裏表紙、背表紙などに上手くモンスターの皮などを使ってはいるけど、それでも魔道具化している対象はと言う点で師匠の魔法の腕が良いことが分かるってことだな。

今の俺なら、似たような魔道具は作れるけど、ここまで違和感無く使える物になるか?と言われれば、否と答えるだろうね。

それが「流石だなぁ」と思う理由なんだよな。


「えーっと、次は確か、特殊魔法の修行からだったよな」

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