第20話
御戸部さんは、そのまま帰るのかと思ってたんだけど「明日もまた来ます」って帰って行った。
一通りのことは今日話し終わったと思ってた俺は驚いたのだが、俺が思ってても御戸部さんが納得してくれないと終われないって気付いた。
となると、やっぱり明日も話が続くんだよな。
初日の話の内容は御戸部さんが状況を理解するためのものと言う考えで進めていたようだ。
で、翌日からの方はと言うと、周囲に説明するために詳細、要は何の知識も無い一般人に説明できるように疑問点を埋めていく作業だった訳。
だから、前日の内容から御戸部さんが確認すべきと思った内容をメモに書き出し、それを説明していくって感じだった。
御戸部さんはそのメモと、書き足した説明を全部記憶して、メモを破棄するところまでやるらしい。
そうでなければ、情報が漏れるリスクを減らせないって判断したそうだ。
まあリスク管理って視点だと、確かに脳内記憶が一番安全だとは思う。
俺とか師匠みたいに「魔法が使える場合は除く」って言う注釈は付くけどな。
俺が詳細まで説明できるってのも問題ありありなので「説明できない」「分からない」って言って師匠に確認を取る態で話をしたので、結果三日ほど時間を取られた。
今は、御戸部さん聞きたかったことの説明が全部終わり、彼を見送ったところだ。
後はどうなるか?俺では判断できないが、日本政府には御愁傷様ってとこかな?
突然降って湧いたように特大の爆弾が持ち込まれる訳だしな。
でも、これで色々動き出すことになるだろう。
まずは俺達の存在を認めてくれるか?だが・・・な。
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「ふぅー。やっと終わったな」
しかし、これって本来は公安の私がやる仕事じゃ無いんだけどな。
それにしても何だって私に白羽の矢を立てたんだ?
どう考えても国家規模の案件だぞ、これは。
友人、知人、同期に上司、纏めて巻き込んでも足りないよなぁ。
それが成否を分けるって、どんな鬼畜な仕様なんだ!
・・・さて、帰りも極力見付からないようにコソコソと帰らないとな。
「早速連絡を取ってみるか?」
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「山元。御戸部は、まだ戻らないか?」
「主任。まだですよ」
「何処で何をしてるんだ?あいつは?」
「さあ?特務申請してまで、消えたみたいなんで、私にはさっぱり」
「・・・あいつが特務ねぇ。厄介事を持って帰ってきそうだな」
「やめてくださいよ。自分、御戸部さんのバディなんですから、巻き込まれるじゃないですか!」
「それが運命だと思って諦めろ。だいたいそれを言ったら、俺はお前等の上司だぞ。俺も巻き込まれるだろうが!」
「いつも御世話になってます!」
「帰ってきたら、絶対に報告に来させろよ」
「了解です!」
** ** ** ** ** **
「例の件はどうなった?何か進展はあったか?」
「今の所何も。日本へも外交ルートを使って確認をしていますが、国としての関与は一切無いとのことでして・・・」
「あの規模の建築物で、国が関与してないだと!有り得ん!」
「あれが正しい情報だとすれば、日本が関与していないと言うのは、かなり怪しいのですが・・・」
「ですが、何だね?」
「あの一回だけしか監視衛星で捉えられておらず、証拠としては非常に心許ないところでして、外交の方も余り強くは追求できないようです」
「本当に、あの一回だけなのか?何か見落としは無いだろうな!」
「我国の監視衛星が何機も同一の場所を監視していますが報告はありません」
「それは、そのステルス装置が優れていると言うことかね?」
「いえ、そう言う意味では・・・ただ、現場の者は何かしらのエラーによる誤写だったのでは?と」
「あれだけはっきりと衛星写真に残っているのにか?」
「ええ、態々ステルス機を飛ばして現場の上空を確認しましたが計器類に何の反応も無く、現場を飛ぶ航空機にも何の影響も出ないステルス装置など無いと意見が多く・・・」
「姿が見えないだけでなく、存在も無いと?」
「そうなります。それこそ〈ゴーストタワー〉とでも言いましょうか、存在が全く無いというのは、どう考えても何かしらのエラーかミスとしか」
「・・・これ以上は無駄と言うことか。分かった、現時点を持って監視体制を通常の状態に戻す。その〈ゴーストタワー〉の調査は終了し、エラーなのかミスなのか原因究明だけは続けさせるように!こんなことは二度と起こさせるな!」
「はっ!直ぐに指示します」
** ** ** ** ** **
・・・やっぱり難しいな、これ。
御戸部さんが帰ってから、俺がやっていたのは核兵器対策だった。
ずっとコツコツ続けていたが、専門でない内容であるため資料を漁ったり、足り無いところを勉強したりしないと満足に魔法の構築ができなかったのだ。
と言って、構築できるようになったら直ぐに使える物になるかと言えば、それも難しい。
最初は考えうる最大限の安全措置を盛り込まないと、構築した魔法が暴発でもしたら自分も被害を受けることになるからだ。
そこまでしてからやっとテストが可能になり、何度もテストすることで徐々に魔法の構築内容を簡略化していって初めて実用化の一歩手前まで来ることができる。
最終的には、その実用化一歩手前の物を実用化するために〈短縮〉とか〈圧縮〉と言う処理をして、そこで問題無く魔法が発動すれば完成となる。
一番面倒なのは最後の〈短縮〉とか〈圧縮〉と言う処理で、これが上手くいかないと長々と呪文を唱えて大量の魔力を無駄にしないと魔法が使えないってことになる。
逆に、凄く上手くいくと一単語で魔法が発動できて、その上魔力の消費が十分の一とかになったりするのだ。
魔法を使う者の最大の難関が、この〈短縮〉と〈圧縮〉であり、そのまま腕の良し悪しに直結している。
それぞれが独自の方法論を持っていて、それぞれの方法に特徴が出易い技術だったりする。
〈短縮〉と〈圧縮〉が非常に上手くて多種多様な魔法を使え、世界最高の魔法使いと呼ばれるのが〈賢者〉である師匠であり、俺はその弟子な訳だ。
そんな師匠の直系の弟子である俺でも、この核兵器対策の魔法に梃子摺っていた。
何がって、安全対策をこれでもかと盛り込まないと安心できないため、初期の魔法構築からして俺や師匠でも発動できるか怪しいぐらいの魔力消費になってしまうのだ。
俺としては核兵器の恐ろしさを知っているので、安全対策に妥協はできなかった。
まあ、その結果使えない魔法になってる訳だが、何とかして実用化はしたい。
となるとテストできる程度まで安全措置を省くしかなく、ならば何処を省けば良いか?となって削るに削れず悩むという状況に陥っていたのだ。
「こんな調子で、必要となった時に使えるようになってるんだろうか?」
自分でも疑問に思うほど、進捗具合が遅い。
「モリト、怖がり過ぎじゃのう。良ぉく見るのじゃ。怖がり過ぎて何か色々と無駄な物があると思うのじゃが?」
・・・あっ!
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