第18話

信じたいような、信じたくないような、そんな表情の御戸部さん。

たぶん心の中で『異世界から来た人と言う話を前提にしている以上否定しきれない』と、そんなことを考えているのだろう。


そんな御戸部さんが軽く頭を振ってから、何かを決めたように俺を見た。


俺が感じたのは『迷いを振り払った』って感じかな?

だが御戸部が決めたのは『肯定し辛いが、否定し切れない、ならば聞くだけ聞いて判断しよう』と言うことだった。


「その〈魔法〉は、再現はできそうですか?」

「無理だと言われました。私もアニメやマンガを読むので気になって聞いてはみたんですが、この世界は〈魔素〉が少ない影響で、魔法を使うための〈機能〉が体に存在しないってことみたいです」


一気に肩の力が抜けたみたい。


「魔法を使うための〈機能〉とはどんな?」

「異世界では生物の心臓が魔素を魔力に変換する機能を持っていて、変換された魔力を使えば魔法が使えるとか。ただ、現在地球の生物の心臓に魔素を魔力に変換する機能が無いってことだったかと」


あれ?今度は逆に眉間にしわが。


「そうですか。ではその塔は賢者様の魔法で消えたようになっている、と言うことですね」

「そこら辺は良く分かりません。たぶん、そうだとは思いますけど、使えないって言われた時点で興味も無くなりまして、余り詳しくは聞かなかったんです」


「そこは気になるんじゃないんですか?」

「私もサブカルは好きですが、現実と非現実の区分はしていますよ。非現実的な異世界人を保護してますが、それが自分も非現実の仲間入りしたってことじゃないのは理解できますし、できないと言われたことを引き摺っても何も得は無いでしょう?」


そこでちょっと驚いたような顔をするのは何でですかね?

俺は御戸部さんに、いまだに厨二病を患ってると思われてたのか?


「そうですか。それでは、何故今回私にこの話を持ってきたんです?「いつまでも秘密にはしておけないと判断した」のは分かりましたし理解もできますが、それだけでは無いのでしょう?」


その言葉に正直言って、驚いた。


「御戸部さん、心が読めたりしますか?」

「それができれば、こんな仕事してませんね。同じ仕事をしてたとしても、もっと上の地位に就いてます」


そりゃそうだ。


「私が御戸部さんに伝えたかったことは」

「伝えたかったことは?」


「彼等がある知識を提供する代わりに、この国の住人になりたいと思っていると言うことです」

「知識?魔法以外でと言うことですよね?何せ魔法は我々では使えないのですから」


「一部はそうです。その知識は間違いや冗談では無く、この世界に革命を起こします」

「・・・一部?・・・どんな知識なのですか?」


「魔道具です」

「魔道具、ですか?」


「魔法が使えない人でも魔法的な現象を再現できる道具、それが魔道具だそうです。今回提供される知識はその魔道具の製造方法。そして魔道具の内容は・・・クリーンな発電です」

「なっ!な、な、なんだってっ!」


まあ驚くだろうとは思ってたけど、御戸部さん良いリアクションしますね!

椅子から勢い良く立ち上がり掛けてズっこけるなんて、なかなか目の前で見る機会など無さそうなシロモノだった。


「時間はありますし、ゆっくり説明しますから、取り敢えずコーヒーでも飲んで落ち着いて下さい」


御戸部さんを宥めて、落ち着かせて、座らせる。

今の状況、知らない人が見たら『近所の農家のオッサンに文句を言われて詰め寄られてる若い工場主」って感じだろうな。


御戸部さんも自分がかなり興奮していたことを反省しているのか、何回か深呼吸してた。


「それで、そのクリーンな発電と言うのは?」

「はい。二酸化炭素を排出しない、廃棄物は出ない、再充填すれば繰り返し使える、そんな発電用の魔道具ですね」


「そんな都合の良い発電が可能なんですか?」


うん、俺も魔法を知らなかったら、同じ反応をしてただろうな。


「分かりますよ、その反応。私も同じ反応しました。色々と説明された今も、全部を理解できたなんて思えませんが、色々と考え付く限りの実験をしてみましたが、事実でしたね」

「どんな実験を?」


そこで、実際に何かが検出されたりするのか自信が無かったので試してみた実験の内容を説明してみた。

幸いにも、俺の工場には検査装置を製造してた時の機材が残っていたので、色々な検査が可能だったのだ。

と言っても、手元にある機材で可能な検査しかしていないので、完璧には程遠いんだけど。


まず最初にやったのは有毒なガスとかが出ないかの検査。

ガス検知器を作ってた時に、検知器の試験をするために必要だった物だ。

高価な機材ならどんなガスが含まれているか、そのガスの含有量とかも分かるらしいが、この装置は簡易型なので、人体に有毒なガスが検出されているか?それはどんな種類か?とかがランプの点灯で確認できるだけの物だった。


他には変な電磁パルスが出てないか?とか、放射線や重粒子線の様な有害な電磁波が出てないか?とか、電子機器などに影響を与えるようなノイズを出してないか?とか、人の聞き取れない超低周波や超高周波などの検査もした。

魔法的な物が魔素や魔力意外に何も影響しないのは分かっているが、この世界ではこういう検査をした結果とデータが重要なのだ。


「・・・と言う感じで、手元にある機材でできる検査はしてみましたが、何も検出はできませんでした」

「何も・・・ですか。つまり、今確認できる範囲内では物理的な影響は皆無と言うことですね」


「そうなるでしょか?まあ、もっと精密な機器や他の検査装置なら何かしら検出できる可能性はあるかもしれません」

「それは一個人には難しいことは私でも分かりますから気にする必要は無いでしょう。それよりも、今の話が本当だとして、その現物は見ることが可能ですか?」


まあ妥当な質問だな。


「今は無理です。賢者様に返してしまったので、また借りてこないとダメですね」

「貸し出しはしてもらえると?」


「たぶん、この工場であれば。そのまま別の所に持って行かれると困るとは思いますが。確か「試作品なので、離れ過ぎると安全の保証が難しい」だとか言ってました」

「試作品なんですか?」


「ええ、私が色々と説明しながら耐久性とか安全性とかを教えているので改良中ですね」

「それは商品として流通させるためにってことでしょうか?」


「ええ、弱電業界にいたので、その辺りの安全基準とか耐久性とかは割りと知っていますし」

「なるほど、アドバイザーみたいなこともしている訳か。ところで、まだ他にも話すことがあるんじゃないですか?」


「ありますね。非常に面倒臭い、一番大きな問題が」


何だかんだと御戸部さんは受け入れる方に傾いてる気がする。

ただ、まだ問題があるんだよな。

それも特大のヤツがねぇ・・・そっちも受け入れてくれるかなぁ?


「これ以上に面倒な大問題って何ですか!」

「それはですね・・・・・・」

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