第17話

「師匠、ゴメン!」


俺は師匠の前で深く頭を下げていた。

勿論、無理矢理に神様達の前に連れて行ったことへの謝罪だった。


「はぁあ、寿命が百年は縮んだじゃろうな」


既に三百歳越えの師匠の言葉に『流石にそれは無いっ!』って返しそうになったが、我慢した。


「で、強引だった理由は、神に儂達の存在を認めてもらうためだったのじゃろう?」

「そうだよ」


「そんなことをせんでも、生きてはいけるじゃろう?」

「何となく。みんなは俺の故郷に定住するつもりで来たのに、いつまでも余所者よそものみたいで嫌だったんだ」


「そうか。・・・急なことで緊張し過ぎて卒倒しそうじゃったが、モリトのその気持ちは嬉しいのう」

「本当にゴメン!あの世界はこっちの世界と時間の流れが違うんだ。こっちの一時間が、向こうの二ヶ月ぐらいになるから、長々と説明していて神様を待たせる訳にはいかなかった」


「そ、そうじゃったのか!それを聞くと急いだ理由にも納得がいくのう」


本当にあの時は、待たせ無いことと師匠を連れて行って認めてもらうことしか考えてなかったんだよな。

それぐらい俺も思考にも気持ちにも余裕が無くなってた。


そんな感じで師匠に謝罪をして、それぞれが落ち着いたところで今回の魔法の話になった。


「で、あれが世界を救うと言うのが良く分かっとらんのじゃが、どう言うことじゃ?」


その辺は全然師匠に説明できてなかったので、掻い摘んで地球に起きている環境問題、特に温暖化関係についての説明をする。

そしてその解決策として、物を燃やさないエネルギーとして師匠の魔法を魔道具化したいとも伝えた。


現実的な考え方であれば、熱を発する魔道具を作れば発電所をそのまま稼動できるし、火は使わないから二酸化炭素も減るとは思う。

でも、これだと月読命様と話していた内容にそぐわないし、大きな変化にはならないと思うんだ。


大きな変化を起こさないと、無理に設計を変えたり、古い物から新しい物へ入れ替えたりし辛い。

誰でも、お金は有限だし勿体無く思ってしまうからね。


そんな訳で完全に今の発電方法と隔絶した方法を全面に押し出したい。

それには、どんな方法が良いのか?

そこから師匠と相談しながら、延々と考えることになってしまった。


そうは言っても人間である以上食事も睡眠も必要だし、それ以外にもやることはある。

考えるだけに時間を使うことはできなかった。


そうしている内に四日ほど時間が経過し、俺の電話が鳴った。

番号は・・・公衆電話?珍しいな。


「もしもし」

「スズキさんデスゥカ?ワタシ、ミトゥベでぇす。イマァからイキマァスゥ」


プツッ!プープープー


「・・・・・・何今の?えーっと、ミトベって言ってたか?それって公安の御戸部さんのことか?何で外人みたいな片言?」


思わず、ブツブツと今のおかしな電話に思考を乗っ取られていたが、はっ!と気付いて工場に向かうことにした。

そうだ!秘密裏に会いたかったんだ。

それを理解した御戸部さんが、色々と考えたんだと思う。

その結果が、あの怪しい片言の外国人なのは「どうかな?」とは思うけど、工場で待ってないと!


てっきり前回と同じくレンタカーで来ると思っていたら、何故だか軽トラで来た御戸部さん。

格好もどっかの農家の麦藁帽子被ったオッサンになってた。


「あのー、御戸部さん?」

「ああー、この姿ですか?涼木さんが秘密にしたい様子だったので、変装して来ました」


あーそう、徹底してるんだなぁ。

まあ、これなら近所の人が訪ねて来たようにしか見えないってのは助かるけど。


「取り敢えず中にどうぞ、コーヒーでも入れますから、それを飲みながら詳しい話をさせてください」

「そうですか。では、御邪魔します」


御戸部さんを事務所の奥の応接室に通して、インスタントなんだけどコーヒーを入れる。

それを持って行って、俺は御戸部さんの向かい側に座った。


「砂糖とかミルクは?と言っても、ただのインスタントですけど」

「いえ、ブラックで大丈夫です。それに、それほどコーヒーに拘りはありませんから」


それぞれが一口コーヒーを飲んだところで話を始めることにした。


「まず最初に、御戸部さんに御詫びを。前回の来られた時、訊ねられたことに「知らない」と答えましたが、あれは嘘です。申し訳ありませんでした」


この謝罪だけは絶対にしておかないとダメだ。

これから話すことのためにも、御戸部さんの印象を少しでも良くしないと。


「・・・と言うことは、何か御存知だと言うことになりますが?間違い無いですね」

「ええ、知っています。ただ、とても荒唐無稽な話なので、信用していただけるかは分かりませんが」


実際、常識的に考えれば信用できる様な内容じゃないと思う。

俺が逆の立場だったとして、信用できるか?と聞かれれば、信用できると言い切る自信は無いからだ。


「荒唐無稽ですか?そう言う言葉が出ると言うことは、まさかとは思いますが「宇宙人が!」とか「異世界人が!」とかそんな感じで?」

「えっ!御戸部さん、サブカルが分かるんですか?」


何が驚いたって、異世界って言葉が御戸部さんの口から出たことだった。


「まあ、詳しいとは言えませんが多少は。近年の犯罪は、そう言う影響を受けたモノも多くて、知らないでは済まなくなっているんですよ」


うわー、そんなことのためにサブカルまで勉強しないとダメなのか!


「はぇーそんなもんなんですか?」

「ええ。そんなもんなんです。で、どっちで?」


「異世界ですね。私が知っていることを今からお話します。疑問などは、後でまとめてと言うことでお願いします」


俺は、俺を除いた形で師匠達のことを説明することにしている。

要は、帝国から追われて逃げ出し、逃亡先に異世界を選んだって感じだ。

で、俺との関係は、土地の持ち主と土地を借りた異世界人って感じ。


「・・・それが本当だとして、何故、前回話してくれなかったのです?」

「これは信じてもらえない可能性が高いのですが、その賢者様とまともに話ができるようになったのは、二週間ほど前からなんです」


「・・・それは確かに、俄かには信じ難いですね。勿論理由はあるんでしょうが?」

「ええ、色々と関係することがあるので、長くなるとは思いますが聞いて下さい」


そう断って、考えていた魔素量が少ないって設定を説明することにした。


まず、異世界から賢者様達が転移して来た。

ところが、地球は異常に〈魔素〉と呼ばれる物質というかエネルギーが少なかった。

その影響で、異世界人の彼等は体調を崩してしまった。

事前に賢者様が用意していたゴーレムと言うロボットの様な存在がいたことで、話はゴーレムと行っていた。


この時点では、俺には異世界が本当かどうかの判断はできていなかった。


それで、土地を貸す話になったのは、その〈魔素〉と言うのが少ないためだった。

賢者様達は、それが少ないことで俺の持ち山から移動できないらしい。

なので、半強制的に貸主と借主の関係になってしまった。


ただ、相手が代理のゴーレムだったことと、そのゴーレムと守秘契約をしていたことで、御戸部さん達にお話できなかった。


「守秘契約と言うのは?」

「ゴーレムの主人である賢者様の体調が回復して動けるようになるまで存在を隠すって内容です。その時には、まさか御戸部さんが来るとは思って無かったですし、命を狙われて異世界から逃げて来たと聞かされてたので、助ける気持ちがあったりで良く考えずに契約してしまいまして・・・」


「なるほど。確かに私達が来るなんて予測はできなかったでしょね。で、二週間前に賢者様が回復して、詳しい事情を確認されたと言うことですか?」

「そうなります。その上で、ここから動けないなどのことを考えると、いつまでも秘密にはしておけないと判断しまして、賢者様を説得して御戸部さんに連絡したって訳です」


「そうですか。それでは一つ重要なことを聞かせてもらいたい。今でも私には何も見えませんが、あそこにその賢者様の家である塔が存在すると言うことですよね。それはどんな技術なのでしょうか?」

「あぁー、それは、所謂サブカル的に言えば〈魔法〉ですね。ただ、私にも原理はさっぱり分かりませんが」


「〈魔法〉ですか?何とも世の若者達が喜びそうな・・・」


分かりますよ、御戸部さん。

夢がありますよね〈魔法〉、でも非現実的だって思うその気持ち・・・

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