第16話 三貴神3

無理矢理俺に連れられて、三貴神様の前に召喚されてしまった師匠の狼狽ろうばい具合は凄かった。

いつも見ていた師匠とは違う姿に、俺の方が慌てそうになったぐらいだ。


何とか、説明させられるぐらいまで師匠を落ち着かせるのに随分と時間が掛かってしまったが、神様達は落ち着いたものだった。


「それはそうよ。たいがいの人間は私達の目の前に来ると声も出せなくなるもの。あなた達は魔力を制御できているから気になっていないのかも知れないけど、魔力を体の外に放出すると普通の人には威圧感みたいに感じるものなの。私達、神と呼ばれる者の魔力量は莫大だから、いくら制御していて微量は漏れ出るのよね。元の量からすると微量でも魔力を制御できない普通の人間からしたら、と言うことよ」


何となく納得して、横を見ると師匠が頭を下げたままだった。


「師匠、顔を上げても大丈夫だと思うんだけど」

「モリト、良いのですよ。彼の気持ちは分かりますし、好きにさせてあげなさい」


あ、そうか!心が読めるもんな。


「そう言われるなら。では、話題に上がっていた二酸化炭素についてですが、師匠が新しい魔法を研究していまして、その試作ができたのです。それが魔素を魔力にしてから電気に変換する魔法でして、これを上手く魔道具にして流通させられれば、地球での二酸化炭素の排出量を抑制できるのでは無いか?と思います。更に、魔道具ですので魔素の消費にも役立つのではないかと思います」

「本当なの!」

「それが成功すれば、一石二鳥ではありませんか!」


「ええ、ただ流通させるのには色々と問題があるとは思いますが」

「そこは大丈夫だと思いますよ。人間も馬鹿ではありませんし、環境問題は既に世界常識になっているでしょう?そこに画期的な問題解決の方法が提示されるとなれば」


「いいえ三貴神の皆様、人間は鹿なのです。日本だけならば、もしかしたら簡単かもしれませんが、他国は違います。特に現在主流になっている化石燃料は利権が複雑に絡まりあっています。特に産油国と呼ばれる国は、それが国としての根幹に係わっています。それが用済みなどとなれば、間違い無く見境の無く様々な方法で攻撃を仕掛けてくるでしょう。それにこれを実用化できるのは、魔法を使える私と師匠だけになります。そうなればたとえ友好的な国だったとしても面白く無い。なぜなら生活の中で一番重要なエネルギーを日本だけに独占されることになりますから。そうなれば、必ず利権を求めてハイエナのように群がってくることになります」

「アマ姉様、モリトの言うことは間違っていないかと」

「そう、とても残念ね。神が残っている地域も減ってしまったし、その分倫理観のたがが緩んで色々と狂ってきているのね」


・・・無茶苦茶気になる言葉が出ましたよ。


「モリト、それは極秘事項だ。詳しくは説明できんぞ。あと気になるからと、それに深入りすると神罰の対象になる可能性もあるぞ」


須佐之男命様、それ、怖いです。


「それは置いておきましょう。それで?難しいだろうけど可能性があることは分かったわ。でもその説明だけなら、モリトの師匠を呼んでくる必要は無かったわよね?」

「ええ、この説明だけで良ければ、必要は無かったのですが、まず師匠の魔法を魔道具として流通させても問題無いのか?見ていただきたかったのが一つ。後々何かの問題が発生するようでは、流通させるのは問題があるでしょう?それから、その魔法が有効だと判断できた時は、師匠の功績を持って師匠とレティー、それに三人の娘に日本で暮らすことを神として許可していただきたいと考えました」


「なるほど。つまり異世界の存在である者達を、正式に地球に住む者として許可して欲しいってことね?・・・ツキ、スサ、私は問題無いと思うけど、どう?」

「確かにモリトが言う通り、後々問題が無いかの確認を私達に求めるのは一番間違いの無い方法でしょう。その上でその功績に見合った褒美と言うことであれば、他の神からの横槍も入らないと思います。その条件であれば私も許可できるかと」

「儂は、姉様達の気苦労が減るなら賛成だが、許可だけで良いのか?加護をくれとか言われるかと思っとったがな?」

「加護なんて!それは余りに過剰。既にこの世界に不和の種を持ち込んでいる以上、この程度までが妥当だと判断しました」


この前の公安が来たのだって、他国の監視衛星の情報が元になってるっぽいし、その上でこの魔道具を出すとなれば、色々と面倒な事態を巻き起こす可能性が高い。

神様にそんなことは関係無いだろうが、それでも日本に影響が出るだろうし、心を砕いて下さっている神様に申し訳無いからな。


「もう少し褒美を貰っても良いとは思うけど?」

「・・・もし、他に褒美を貰えるなら、一度だけ大規模な魔法を世界に向けて使う許可が欲しいです」


これは核兵器の対処法を考えていた時に思い付いたことだ。

塔に向かって来る攻撃だけを防げれば、それで良いのか?と考えた時に、それではダメだろうと思ったのだ。

ではどうすれば良いか?と考え、行き着いたのが、もし塔に攻撃する国が出てきた時は、世界中から兵器を消去すれば一番安全だと結論を出した。

だが、そのためには莫大な魔素を消費して、超、超、超、巨大な魔法陣を使って、とんでもなく面倒な術式の魔法を行使する必要がある。

そんな馬鹿げた魔法を使うなら、神様の許可も必要だろう?って思ったのだ。


「・・・一度無くしたとしても、また作るかも知れませんよ?」

「その可能性は高いでしょうが、簡単に手出しはできなくなるでしょう?」


「一度見せれば抑止力になると言うことですね。確かにそれはあるでしょうが、逆に反対方向に振り切れる場合もあるのでは?」

「そこまで考え出すと、何もできなくなりますから」


実際、俺は予知ができる訳じゃ無いし、あくまでも考えて予想しただけだから、粗も間違いも外れもあるだろう。

だが、それが普通だと思うし、それ以上はどうにもならない。

何か起きた時にできるのは、その問題に対する対処とその後の予想に対策ぐらいだ。

完璧などと言う言葉は人間には当て嵌まらないからな。


「分かりました。何を論ずるにしても先にその魔法を確認してからにしましょう。そうでなければ無駄な時間を過ごすことになりますからね」


月読命様の言う通りである。

なので、俺もまだ見ていない師匠の魔法を見せてもらい、その説明を聞くことにした。


その魔法の内容は非常に素晴らしかった。

複合魔法の雷を元に、発生した電気を魔法で制御することで正と負に分け、それを増幅することで電圧や電流を確保していた。

が、肝心な部分がダメだったのは、俺の説明不足が原因だろう。


何がダメだったか?そう、師匠が用意した魔法は直流電源だった。

一般家庭用の電源は交流電源であって、直流電源では無い。

それでは家電製品は動かないのだ。


ただ、完全にダメな訳では無い。

直流を交流に変換する事はできるし、その逆も可能なのだから。


まあ、できるならば直流、交流両方の魔法を作っておきたいかな。


「止めた方が良いわね。直流だけで充分でしょう」


俺の心を読んで月読命様が止めてきた。

何でだ?

今の環境だと両方があった方が・・・そうか!今の環境を変えようと思っているのだから、別に拘る必要は無いのかも?


「それだけでは不十分です。まず、石油などを使わないように方向付けをするなら、発電で作られる交流の電気を使わないようにしなければなりません。分かりますよね?」

「なるほど!代替ができるし変換もできるが、それをする手間を面倒だと思ってもらう訳ですね」


「そうです。一度製品を買ってしまった人間は、態々面倒な手間や余分な機器の必要な古い方式に変更したりしないでしょう?ならば現在の発電方法が残れないように、また息を吹き返さないように、過去の技術として葬ってしまうのが最適です」


うん!その理屈は分かるぞ。


「理解できたと思います。一度その方向で色々考えてみます。そこで相談なのですが、三貴神の皆様の御意向に沿っているか確認をさせていただくことは可能でしょうか?」

「それは難しいですね。私達にも色々と制約と言う物が存在しますから」


「ねえ、ツキ。誰かの加護を付けた方が良いんじゃないかしら?」

「それは、過剰な関与と見做される可能性がありますよ」


「・・・近くに儂を奉った神社があるな。古いし神主もおらんが、問題あるまい。姉様方、あの神社のみを会話の拠点としてはどうか?」

「・・・それならば、随分ましかもしれません」

「スサ、良い提案よ。じゃあ、あなたが連絡係ね」


「・・・儂を奉っている以上、それしか無いでしょうな。では、以降はあの神社で祈りを捧げるように。ただし頻繁に話を聞くことはできんぞ。他の者との兼ね合いがあるからな。二ヶ月に一度程度が限界だろう。それ以上は、上から物言いが入る可能性が高い」


そんな感じで、初めての神様との会談は終了することになった。

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