第14話 三貴神1
正直、どうなるかは分からないけど、電話での話しは終わった。
後は御戸部さん次第ってところかな?
「ちょっと喉が渇いたし、コーヒーでも入れようか」
工場の事務所にある給湯室に向かう。
ドアを開けて一歩中に踏み込むと、そこは昔修学旅行で行った奈良の平城京跡にあった大極殿正殿の様な場所だった。
俺は一言「はぁあっ?」しか言葉が出なかった。
周囲を見回すが人の気配は無し。
外は・・・玉砂利の敷かれた庭があるが、その向こうに見える塀の外に景色は無く、白い空間だけが見える。
少なくとも、俺の知っている世界観には当て嵌まらない場所であるのは確かだった。
しかし、古式ゆかしい、その
だって俺の今の姿って、草臥れたデニムの上下にスリッパ履きだぞ。
とてもこんな場所に立っているような格好じゃないだろう?
まあそれよりも驚かないといけないのは、コーヒーを入れるために給湯室に入ったはずが、気付けばココってことではあるけど。
異世界転移を経験した身としては、無いとは言えない状況ってことで多少落ち着けてはいる。
まあ完全には無理だけどな。
にしても、召喚陣も無しにココに来た訳だが、ココって何処?
見た感じは日本に所縁のありそうな場所だとは思うが・・・ただね。
あの塀の向こうの白い空間を見ると、どうにもラノベの展開が頭に浮かぶんだよな。
とっても嫌な予感・・・
あれか?師匠を連れて、ドラゴンを連れて、獣人とかも連れて、塔まで連れて来たのが不味かったのか?
それで呼び出しって感じか?
俺って無事に帰れるんだろうか?これ・・・
うーん、長い。
誰もいない空間に一人って、凄く心細いな。
何か嫌な想像ばかりしてしまうぞ。
じっと庭の方を見ていたが、ちらっっと背後にも目をやる。
明らかに
最大三柱の方々がおこしになる可能性がある訳か・・・胃が痛くなりそう。
日本の神様っぽくて三柱って、嫌ぁな予感しかしません!
考えれば考えるほど逃げ出したくなるんだけど、逃げる場所が、無い!
そうしている内に、何やら音が聞こえてきた。
床を引き摺るような衣擦れの音と少し大きな足音。
『来た!』と思った瞬間、俺は高御座っぽい場所に向けて正座して頭を下げた。
これが正しい方法かどうかは分からなかったけど・・・
「あら?随分と
「ツキ、止めなさい。彼は咎人では無いのよ。それとスサは、神威をもう少し抑えなさい」
あぁ、やっぱりあの押さえ付けられる様な感覚は神様の力か。
それに、ツキにスサと聞けば、俺の予想は間違ってなかったってことだ。
日本の最高位の神様達〈三貴神〉
何か色々と限界で吐きそう・・・うっ!
「おいおい、ここで吐くんじゃないぞ!」
「ひぅっ!」
凄い圧で変な声が出てしまった。
「スサ!抑えなさいと言われたでしょう」
「す、すまん」
それぞれが座る音が三回聞こえる。
「さあ、顔を上げて。そんなに畏まる必要は無いわ。あなたを呼んだのは、怒ったり罰したりするためじゃないのよ」
そんな風に柔らかく話されているのは、間違い無く
そんな簡単に顔を上げれる訳が無い。
「あら、良く分かっているじゃない。だったら、顔を上げなさいと言ったら?」
「はいぃっ!」
そう言われてしまえば上げるしかないんだけど目線は下、絶対見ないぞ!
「ねぇ、ツキ?やっぱり堅苦し過ぎるんじゃないかしら?私は普通に話がしたいのだけど?」
「アマ姉様、それでは威厳と言うものが」
「でも、それじゃあ、きちんとした話はできないんじゃないかしら?」
「・・・はぁ、分かりました。少し待ってください」
そんな声と同時に、見ていた床が絨毯に変わった。
思わず驚きで、また変な声が出そうになるが、頑張って飲み込む。
少しだけ視線を上げると、そこは何処かの企業の会議室みたいな感じ。
真ん中に大きな机と、その周りに椅子がある様子。
俺の目の前にも椅子があるから、対面側には三貴神が座って居られるのだろう。
「さあ、ここなら多少は気が楽でしょう。遠慮しないで椅子に座って」
はい、逆らえませんよ、そりゃあね。
凄く重い腰を上げて立ち上がり、椅子に座りましたよ。
で、たぶん言われるだろうから、気力と精神力を振り絞って顔も上げました。
視線は・・・勘弁してください。
「そう?しかたないわね。まあ、今は良いわ。さて、涼木護人、良く異世界から帰ってきました。無事に帰ってきたことを歓迎するわ」
「えっ!」
歓迎?
あっ!そう言えばさっき「怒ったり罰したりするためじゃない」って言ってたような、緊張し過ぎで忘れてた。
そんなことを思い返していたのだが、自分に向いた視線に気が付いた。
さっき「えっ!」って反応した瞬間、無意識に視線を向けてしまっていたことに今になって気が付いた。
「あ、あ、あ、あ、あ・・・・・・」
「ぷっ!あなた、面白い顔をしてるわよ」
目の前には方向性の違う絶世の美女が二人。
一人は輝くような明るい感じの美女。
もう一人は少し凛々しい感じの美女。
そして、その横に筋肉がはち切れそうなムキムキの男性。
たぶん上から
笑われてしまったからだろうか、少し冷静さを取り戻せた。
「三貴神の皆様、改めまして私は凉木護人と申します。私の記憶に間違いなければ、我国の
「ふふ。ええ、そうですよ」
御本人が認められましたね。
もう、嫌だーーー。
「この度は御前に・・・」
「止め、止め。そんなに堅苦しく考えないで。あなたは神職でも無いのだし普通で良いのよ」
「しかし・・・」
「普通で良いの!」
「・・・はい・・・では改めて、今回はどのような御用件で私を呼ばれたのでしょう?先ほどは御叱りや罰では無いと聞きましたが・・・」
「この度はあなたが帰還したことへの歓迎と事情聴取です」
事情聴取ってことは、やっぱりアレか!
「えーっと一緒に来たのは私の師匠とその友人、あとは保護している子供達でして・・・」
「それは分かっています。何故、この世界に来たか?その理由が知りたいのです」
あーそっちですか。
ではでは、説明を。
俺は理不尽な理由で攻め込まれたことや、その帝国の酷い在りようを説明した。
結論、俺は帰ってきたのだが、師匠達は亡命というか難民みたいな感じで俺に付いて来たってこと。
「何とも、それは拒否が難しい案件ですね。ただ、ドラゴンと言うのが、ちょっと」
「良いじゃない、ツキ。私達にも利はあるでしょう?」
えっ!利があるの?何の?
「それはこれから説明してあげるわ。ツキがだけど」
「・・・今気付いたのですが、私の心読んでますか?」
「あら?神ですもの、それくらいはできるわよ」
「・・・なるほどです。それでしつこく普通で良いと言われてたんですね」
「そう言うことよ。心で喋るのも、口で喋るのも私達には一緒なのだから、だから普通で良いの」
「納得しました。では、その利と言うのは、何なんでしょうか?」
「では、私から説明しましょう」と月読命様が話し始められました。
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