第13話

公安の人達と会ってから凡そ一ヶ月、ネット上に投稿している動画で、月に十五万ほどの収入を得ることができるようになった。

相変わらず動画が「本物だ!」と考える人が三割ちょっと、「良くできた粗の無いCGだ!」と考える人が七割弱の状況のままだが、俺としては再生数さえ稼げれば問題無い。

一番バズった宝箱の動画は、中にボロイナイフ一本しか入れてなかったけど「先ではもっと良い物が出るかも?」って期待感でバズったみたい。

当分は戦闘とギミックの動画しか上げる気は無いけどね。

あーそうそう、魔法に関してはコメントで回答しといたよ。

「普通の日本人なので魔法は使えません」ってね、そしたら「攻略に協力するから場所を教えて」ってコメントが殺到してた。

勿論「こじんの所有地ですので御遠慮ください」って断ったら、ちょっとだけ炎上したね。


あとは、定期的に動画を撮影して投稿する以外に、ウランとかプルトニウムを検知できる魔法の開発をしていた。

俺は電気電子が専門で放射線物理学とか専門外だったこともあり、その基礎知識を得るところから始めたので、難航している状況ではあるけどね。


まだ、後に控えてる放射線を防ぐ魔法の開発を考えると頭が痛いが、何事にも対処できる準備と言うのは大事なんだよ。

特に、日本は近隣にRK国やDPRK国やC国があるから悪い方向での想定は必要だと思ってる。

あの三つの国は何をするか分かったもんじゃ無いからな。


まあこの賢者の塔を公開する前から悩んでも仕方無いんだけど、準備だけはしとかないと。


他にやったことは、日本への移住というか、亡命というか、日本国籍を得る方法を調べてた。

ただ当たり前ではあるけど、どれも地球上の国しか想定してないんで、異世界の住人である師匠やレティー、三人娘には当て嵌まらないんだよな。

これが結構な悩みだったりした。


で、色々悩んだんだけど、いっそのこと思いっ切り「異世界人です」ってバラしちゃおうかって話になった。

勿論、俺が異世界に行ってたとかそう言うのは無しで、異世界から逃げて来たって辺りだけを説明する感じだけど。

まあたまたま俺の山に異世界から逃げ込んで、それが塔ごとだったんで俺の持ち山をそのまま貸すって方法を取ろうっていう考えなんだけど、色々裏の設定が必要だろうってことで、そう言う打ち合わせをしたりしてたら一ヶ月経ってたんだ。


裏の設定が必要な訳は「異世界から来れるんなら、別の場所にも移動できるでしょ?」って言われた時の対策。

俺も転移魔法ができるから、塔が無人島とかにあっても困らないんだけど、師匠達が色々と日用品とか揃えるのに支障があるだろうし、三人娘を塔の中だけで生活させるのって何だか不健全っぽくって嫌。

なら、俺の持ち山から移動できないって設定を考えなくちゃ!って訳。


その設定ってのは「移動するのに魔力が必要で、その基になる魔素が無いってことにしよう!」という簡単な話。

だって、魔法を使える存在がいない地球上で、認知もされて無い〈魔素〉なんて物が無いって言われても、誰も驚かないだろ。

ただ、全く無いってのも後々困るだろうし「凄く少ない」程度にすることにしたんだけどね。


その辺の理由付けは師匠が色々知ってた知識を組み合わせたんだけど、簡単に言うと地下(地中とも言う)には魔素の割合が多いけど、空中にはかなり少なくて、それは特定の魔法植物が無いからって説明なんだ。

これは実際に師匠が体験したことらしいんだけど、ある場所で魔素が薄い(少ない)所があったんだって、それで原因を調査したら、何処にでも数種類は存在するはずのが無かったそうだ。

それが魔法植物って言われる植物な訳。

俗に〈薬草〉とかってあっちでは言われてたけど、ようは魔法薬の材料になる植物なんだ。


薬草が育つには豊富な魔素が必要って言われてたんだけど、実は地脈(魔素が地中を流れる通り道)の方が重要だったらしい。

地脈が地上に近い場所でしか薬草は育たなくて、薬草が育つと地脈から魔素を空中に放出するって流れだったそうだ。

だから薬草がある場所は魔素が豊富になる訳。


で、そんな話を聞いて山を調べたら・・・薬草ありました。

異世界とは種類も植生も効果も違ってたけど、漢方とか東洋医学なんかで使われるやつは殆ど薬草だった。

有名どころだと「ヨモギ」とか「ドクダミ」とかが、そう!

きちんと魔法的な処理とかをすれば立派な魔法薬にできるそうだ。

まあ、悪目立ちするからしないけど・・・


とまあ、魔法植物はあったんだけど、無いって言っても誰も困らないし、無いって言い切る予定。


結果、魔素を地中から吸い上げることで塔は維持できるけど、空中の魔素が少ないのでの魔法は使えないって設定になった訳なんだ。

だから「ここから移動はできません!」と言う予定。


実際は百倍の魔素があるから、もっと巨大な規模の魔法も使えるけど、そんな脅威認定されそうなことはしない方が良いでしょ?


こんな感じで設定は考えたんだけど、じゃあどうやって師匠達の存在を国に認めさせるか?ってなるんだよね。

それで俺が取り出したのは、ジャジャーン!警視庁公安部の御戸部みとべさんの名刺だったりする。


だって、御戸部さんは俺の山を調べに来た訳だし、その辺の情報を持ってるってことだろ?

なら、訳も分からない人に一から説明するより楽かな?って考えたんだ。

ただ問題はあって、御戸部さんが〈異世界〉って信じてくれるか?どうか。


それだけは判断できないから、ぶっつけ本番になるけど、やってみるしか無いかな?

最悪ダメなら師匠達と何処かの無人島に移住だね。

魔法があるから、何とでもなるでしょ!


えっ!俺個人?

俺個人としては文明から離れた無人島には行きたく無いよ、不便だし。

でも、三人娘とかレティーが外に出られないのは、ちょっとね・・・


だから、俺としてはまず御戸部さんを全力で攻略する予定!

一人でも味方を作らないとね!



方向性が決まれば即行動!

工場に移動して、取り出しましたる名刺の電話番号に連絡。


数コールで「はい、公安の御戸部です」って出てくれた。


「すいません、一ヶ月ほど前に御会いした涼木です」

「ああ、涼木さん。何かありましたか?」


「この前の話、もう一度聞かせてもらえないかと思いまして・・・」


これで電話じゃ話し辛いって分かってくれるかな?


「もう一度、ですか?・・・・・・分かりました。日程はどうしますか?」

「御任せします。御忙しいでしょうし御戸部さんの都合に合わせます。明日でも、一週間後でも、一ヵ月後でも大丈夫ですが到着の三十分前ぐらいには連絡が欲しいです」


これで秘密にしたい極秘で会いたいって分かってくれるかな?


「・・・そうですか、分かりました。確かに少々立て込んでますし、直ぐと言うのは難しいかも知れません。少し時間をいただいて予定を調整してから連絡させていただきます」

「ええ、それで大丈夫です。それじゃあ、よろしくお願いします」


電話を切った後で「上手く俺の意図が伝わってると良いんだけど」と考えていた。



 **  **  **  **  **  **



突然掛かってきた電話、その相手、そしてその内容、どうも何かを警戒している感じがした。

そして私の勘が「これは重要だ!」と告げていた。

だから、最大限曖昧に何かを特定されないような話し方で電話を切った。


それから電話の内容を思い出してみる。


彼は、私に連絡してきた。

つまりそれは先日の内容に関することだろう。

もう一度話を聞きたいと言うのが、それを示している。

つまり、何かあの件で気になることが、またはと言うことだろう。

その上で、急がない、いつでも良い、時間は任せる、連絡はギリギリで、とくれば秘密にしたい、情報漏れを気にしている、極秘でって感じだろうか?

つまりそれは「それほど重要な何か?」ってことになる。


こりゃあ、何日か消えるしか無いかな?

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