第12話

「ふぅー、あの子が帰って来てから大忙しね。ふふっ!」

「天姉様!笑い事じゃないんですよ」


「そうは言っても悪いことでは無いでしょう?」

「それは・・・そうなんですけど・・・」


「それより手伝いを頼んだスサは、まだ来ないの?」

「そっちの問題がありました!ちょっと首根っこ捕まえて引き摺ってきます」


姉のおっとりした感じと違い、妹の方は随分とワイルドな感じな印象である。


「あらあら、やり過ぎちゃダメよ」

「分かってますっ!使い物にならなくなるようなことはしないです」


一人がドスドスと音を立てそうな歩き方で出て行くが、残った方はそのまま何かの作業を進めるようだ。


「それにしても、最初見付けた時は「何を考えてあんな物と一緒に異世界転移するのか?」意味が分からなかったわ。それが偶然とは言え、まさか色々良い方向に転がるなんて私達にも予想はできなかったわね」


異世界転移の言葉があることから、モリト達のことであることは間違い無さそうだった。

だが、いったい何がどう偶然に良い方向に転がったのかは、サッパリ分からない。

まあ悪いことでは無いのが救いではあるだろう。


そんな所に大きな怒鳴り声が響いた。


「スサーーーー!天姉様が手伝いって言ったら直ぐに来るのが筋でしょうがー!」

「げっ!月姉ぇ!」


「げっ!とは何よ!早く来なさい!仕事が沢山あるのよ!」

「嫌だっ!俺はあの手の頭を使う仕事は苦手だって言ってるじゃないか!」


どうやら姉二人に弟一人の三人姉弟のようだが、何処の世も弟は姉には逆らえない様子である。


「知りませんっ!必要なの、猫の手でも借りたいの!苦手だろうが、何だろうが、あんたは来て手伝えば良いの!それとも・・・私の〈御・仕・置・き〉を期待してるのかしら?」

「はっ、はいっ!行きます!直ぐに行きますっ!だから、御仕置きは勘弁してくれぇーーー!」


「ほらっ!さっさと歩くっ!」

「痛っ!月姉ぇ!蹴飛ばすなよっ!」


「スサが真面目に仕事すれば、こんなことしなくて済むのよっ!」


かなり騒がしい。


「あらあら、ふふっ!仲が良いんだから」


・・・それで済ませて良いのだろうか?

あれは姉による弟の虐待では?と疑いたくなる状況も、一番上の姉である彼女には微笑ましいようである。


「それにしても、警告域まで上昇してた魔素がギリギリだけど安全域まで下がったのは朗報ね。問題はアッチが上手く行って無いことだけど・・・」


何やら問題の一つは良くなったようだが、別の問題もある様子である。


「今更だけど、アレを使うようになったのが転換点だったのね。悪い方に進んでばかりだったのに、少しだけ希望が見えたわね。後はアッチが何とかできれば良いのだけど・・・」



*** *** *** *** *** ***



「モリト、戻ったようじゃのう。で、どうじゃった?」

「余り良くは無い感じだ。監視衛星で塔のことを撮影されてたみたいだ」


「監視衛星?撮影?それは何じゃ?」

「あぁー、そこからか。じゃあ説明しないとな・・・」


師匠達は魔法世界の住人だったのだから、現代の科学技術なんて知ってる訳が無かったんだよな。

細かい所は端折って、ザックリと説明しようか。


そこからは基本的に問題になりそうな人工衛星による監視システム、通信網、近代兵器の中でも戦闘機と爆弾、あと核兵器のあたりまでを説明した。


「ふむ、今聞いた限りじゃと監視システムは幻影魔法や対探知魔法で対処できとるようじゃな。今後は問題無いじゃろうが、その戦闘機やらロケットと言うのが・・・鉄の塊りが魔法を使わずに空を飛ぶなど、正直信じられんのじゃが?」

「あー、細かい理論があるんだけど、それを説明し始めると年単位で時間が必要になるんだよな。今度持ち込んだテレビが映せるようになったら映像を見せられると思うから」


「それは儂の研究次第と言うことじゃのう?それは追々として、その核兵器が問題じゃと言うことじゃが、それは分解魔法で分解できるじゃろう?」

「あっ!そうかっ!」


地球に戻って来たせいで、考え方がこっち寄りになってたな!

そうだよ、魔法で対処できるんだよな!

いやー、分解魔法なんて、あんまり使わないからすっかり忘れてた。


「少しこの世界の感覚に染まってたよ。俺は両方の世界を経験してるってのに!」

「そんなこともあるじゃろうて。しかし聞いた感じじゃと、その核兵器とやらは無味無臭の理解不能な毒で生物が死に絶える禁呪〈物質崩壊魔法〉に近いようじゃな」


「その魔法はまだ聞いたことが無いな」

「それはそうじゃ。弟子に教えるには早い魔法じゃ。禁呪と言うのは、弟子を卒業した後で授ける、言わばの様な魔法じゃからな」


「戒め?」

「魔法だけでは無いがのう、武器でも何でも使い方次第で良き物にも悪しき物にもなると言うことじゃ。禁呪と言うのは、特に、その一点を追求した物じゃ。魔法の中でも悪しき物の代表じゃな」


なるほど、例えば料理に使う包丁だって使い方次第で人を殺す刃物にもなるってことか。

そう考えれば、ただの棒でも殴れば相手が怪我をしたり最悪死ぬことがあるんだし納得がいく考え方だ。

で、禁呪って言うのが魔法が悪い方向へ向かった結果ってことだな。

それを〈戒め〉にして、そんなことをするんじゃ無いぞって教える訳だね。


しかしための魔法が〈禁呪〉か、まさに核兵器と同じだな。

一度爆発した核兵器は、放射能をバラ撒いて全ての生物を死に追いやる。

同じく禁呪も魔法として使われれば生物を死に追いやる毒を撒き散らす。


・・・似てるどころか同じじゃねぇ?

ってか、核兵器の原理って原子を崩壊させて核分裂させることで放射能を放出するんだよな、名前からして禁呪の〈物質崩壊魔法〉も似た原理って言うか同じことを科学的じゃなくて魔法的にやってるだけなんじゃないか?

となると、放射能から人体を守る放射能防護服みたいな物を魔法で再現できたら、放射能を封じ込められたりしないんだろうか?

師匠に核分裂とか放射能とかの原理を説明するのは少々難しい気がする。

その前のもっと基礎的な科学的知識が無いときちんと理解できないだろうからだ。

となると、放射能を封じるための魔法、その開発をするなら俺しか適任者がいないってことか。

何がどうなるか分からない現状で、一番警戒しなければならないのは何と言っても核兵器だし、ここは忙しくても時間を作って少しずつ開発していくしかないだろうな。


一番良いのは、核兵器を使われないことだけど・・・


あぁーそうだ核兵器ってことなら元になるウランとかプルトニウムなんかを検知できるようにした方が良いだろうな。

それができれば、事前に分解魔法で無力化できるしな。


となると、まず検知するための魔法の開発、次に放射線を防ぐ魔法の開発か。

なかなか忙しいし難しいぞ。

放射線なんて、たいがいの物なら透過してしまうしな。


うー、俺は電気電子が専門で放射線物理学とか専門外なんだけど、資料をネットで漁らないとなぁー。

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