第8話
「冒険者がおらんじゃと!どういうことなのじゃ!」「モンスターはどうするのじゃ!」とか騒ぎ出した師匠に細かく説明することにした。
最初に師匠が俺を〈異世界召喚〉した時、簡単にしか俺の故郷である地球のことを説明してなかったのが原因だと分かってる。
俺は師匠に「基本的に平和で、一部の国以外では基本的に街中での武器の携帯は禁止されている。俺の住んでいた国は島国で、世界で一番平和な国と呼ばれてた。魔法は無くて、代わりに科学が発展していて便利な道具で生活を豊かにしている」って感じで説明してた。
確かに、俺は魔素やモンスターなどには触れていないし、冒険者なんて職業を俺が知ったのは一年以上経ってからだったから、そんな話は一切してなかった。
「何と!これほどに濃い魔素があるのにモンスターがおらんとは思わなんだのじゃ!しかし、モンスターがおらんとなれば確かに冒険者などいらんじゃろうな」
そうなんだよな。
俺も帰って来るまでは、地球に魔素があるとは思って無かったんだし、不思議にも思いようが無かったんだけど、今だとマジで不思議でしょうがない。
だって、地球の百分の一しか魔素が無い異世界には凶悪なモンスターやドラゴン、ダンジョンなんて物があったのに、地球には全く欠片もその兆候すら無いんだぞ。
流石に不思議だろう?
魔素があるから動物がモンスターになったり、何も無い所からモンスターが生まれたりするって聞いてたのに、地球では一切そんなことは起きてないのだ。
じゃあ、原因は何?って聞かれても何も分からんけど、強いて言うなら「神様の領分」とか「神様の気分」とか言うしかないんじゃないだろうか?
ただの人間に、どうこうできる内容じゃ無いのは確かだな。
「しかし師匠が冒険者を塔に入れて、入場料を取るなんて言い出すとは思わなかったよ」
何故?って、師匠は冒険者嫌いで有名だったからな。
あっ!別に全部の冒険者が嫌いだった訳じゃ無いぞ、一部の常識の無い馬鹿な冒険者が嫌いだっただけだ。
まあ一部だけでも嫌いな冒険者を塔に入れようと考えるのが珍しいことではあるんだけどな。
「しかし困ってしまったのじゃ、まさかモンスターもおらん、ダンジョンも無い、その結果冒険者もおらんとは・・・」
「・・・なあ師匠、ここのダンジョンで冒険者が死なないようにできないか?」
俺は、ふとあることを思い付いて師匠に確認してみた。
「死なないように?ふむ・・・即死は無理じゃが、ある一定の割合までの負傷で強制退場は可能じゃろうな。あとは、できても十五階層程度までじゃな、それ以上は鍛えてない者では即死の可能性が高い。して、何故そんな質問をしたのじゃ?」
「もしかしたらだけど、冒険者みたいな職業を新しく作れるかも知れないと思ったのさ」
「作る?新たな職業を?・・・また、突拍子もないことを言い出したもんじゃのう。モリトが言ったじゃろう、平和で争いを知らない人間が多いと。それを国が認めると思っておるのか?」
「可能性はある、と思う。重要なのは死なないってことなんだ。ただ、やるにしても下準備に時間が掛かるだろうし直ぐって訳にはいかないんだけど」
「それは仕方無いのじゃが、本当に可能なのか心配なんじゃが・・・」
「まだ確実じゃ無いし、色々と調べてからになるかな。進捗は報告するし、何かあれば相談もするよ」
師匠も金策を考えていてくれたのは正直予想外だったが、地球の知識が無い状態では無理があったな。
でも師匠の話から感じて思い付いた〈体験型ダンジョン〉っては、この日本でなら受け入れられるかもしれないのだ。
何せ、日本の国民ってのはそういうことに忌避感が少ない数少ない国民だからな。
そういうことって、どういうこと?
そりゃあ、娯楽として〈異世界〉だとか〈魔物〉だとか〈ダンジョン〉だとかを創造してゲームにしたり小説や漫画、アニメにしたりして、それを世界に拡げた実績があるってこと。
昨今だとVRが実現化し始めてるし、もっと敷居が低くなってきてるはず。
そこに死なないダンジョンが登場すると・・・飛び付くやつが絶対にいるはずなのだ。
その中から、実際のダンジョンに挑む者も出るだろう。
そう〈体験型ダンジョン〉では無く、危険と隣り合わせの〈本物のダンジョン〉の攻略に・・・
ただ、そのためには怪我や死を自己責任とする危険性を理解させなくてはならない。
勿論、何かしらの契約書のような物などで自己責任であることを明確にさせる必要もあるだろう。
そして、その危険な挑戦〈ダンジョン攻略〉を国に認めさせる必要がある。
そのためにクリアするべきことは多いし、今は気付いていない問題も大量にあるだろう。
もしこの内容を実現するとすれば、なかなかに長い道のりになりそうだ。
師匠には悪いけど、これは長期戦で考えないといけないだろうし、直ぐに収入にはならないだろう。
俺が欲しいのは、もっと簡単に実現できそうな金策方法だ。
あっ!思い付いたかも!
師匠との話からの流れで、塔に挑戦する人を入れる前段階の〈体験型ダンジョン〉の内容と日本って国の国民性、そして映像って言う娯楽。
〈体験型ダンジョン〉の前振りにもなって、話題になるのではないか?
上手く拡散すれば、動画の再生数だけでも結構な収入になりそうな気もするし、金策には持って来いかもしれない。
ただ、絶対に合成映像だとかCGだとか言われるんだろうな、まあそれも話題になるのは間違い無いんだけど。
グダグダやってても金は稼げないし、試しに一回やってみようか。
その結果を見て、ダメなら次の方法を考えれば良いだろう。
そうなると、撮影の道具や、編集用のパソコン、動画サイトへの登録、あとは肝心の戦闘シーンの撮影が必要か。
あー、そうなると魔法はダメだよな・・・絶対にCGだって言われるし。
苦手だけど、通常の戦闘でやるしかないか。
俺は、賢者の弟子として魔法の腕を磨いてきたが、近接戦ができない訳では無い。
と言うか、師匠には「接近された時に、最低でも自分の身を守れるぐらいにはなっておくのじゃぞ」ってゴーレム相手に接近戦の訓練もやらされてた。
かく言う師匠も「賢者と言えばデカイ杖」って言うぐらい定番っぽい杖を振り回して〈杖術〉を使う。
師匠の場合は戦闘と言うよりも護身術っぽい感じで、相手の攻撃を逸らしたり、足を掛けて転ばしたりとかして魔法を使う時間稼ぎをする感じだ。
師匠の場合は魔法を始めた時に杖ありきだったため、魔法を使うのに杖が必要無くなっても杖を持ち歩くのが日常になってるが、俺は最初から杖無しで魔法の訓練を始めたので武器を持つ場合は〈槍〉である。
なので、武器で戦闘をするなら〈槍術〉となる訳だ。
「最近、槍術の訓練してないし、ちょっと肩慣らししとかないと不味いかもな」
そんなことを呟きつつ、今後の行動予定を考え始めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます