第5話

「美味いぞーーー!」


感動のあまり雄叫びをあげているのは俺だ。

五年振りのは美味かった。

実に単純なレトルトでレンジでチンッするだけの「サ〇ウのごはん」とインスタントのお湯を注ぐだけの「味噌汁」であったとしても、日本人の体には米と味噌と醤油は切っても切れない何かが存在するのだろう。

都合三回追加でチンッした御飯を食べ終わった時の満足感は言い表しようが無かった。


「ふぅー、米と味噌汁だけで満腹になるって幸せだなぁ」


本当は他のことをしようと思って工場に来たのだが、ふっと気付いてしまったが最後、食べないって選択肢は無くなっていた。

結果、俺は現在進行形で満腹でマッタリしてるんだけど。


「そろそろ、本来の目的をこなさないと」と膨れた腹を摩りながら立ち上がる。


まあ、やるって言っても工場の電気を消して、戸締りをして、色々と置いてある食料品を纏めて塔に持って帰るだけなのだが。

そう考えながら事務所から通路に出て工場に入る。


「懐かしい」それが最初に思ったことだった。


現実の時間はほとんど変わってはいないが、俺の中の時間は五年が経過してる。

見た目的には一年分しか歳を取っていないと言われてるけど、その自覚は俺には無い。


「何でか?」それは、魔法が使えるようになったから。

魔法を使うためには、外部から魔素を取り込み、それを魔力に変換して、魔力を体内で循環させ、魔法として使うことになる。

この中の〈魔力の循環〉が体に影響を与えるらしい。


師匠の受け売りなのだが、大量の魔力を体内に蓄積できる者が、その魔力を循環させていると体細胞が活性化されて老化し難くなるらしい。

それによって寿命も延びるようで、師匠は見た目60~70歳ぐらいの爺さんだが、実年齢は300歳を越えてるそうだ。


そんな感じで、魔法が使えるようになった俺も、魔力を循環させていることで、歳を取り難くなっているのだ。

まあ実年齢的には五年経っている俺が、歳取った姿で現れるとおかしなことになるのは目に見えているので、助かるっちゃあ助かるんだけど。


そんな外観的年齢はほとんど変わらない俺だが、五年振りに見る工場は懐かしく感じていた。


当時、師匠に異世界召喚された時は、もうどうにもならない状況の工場経営に疲れ果てていた時だった。


日本の製造業は人件費の高騰を理由に安価な人材を求めて海外に工場を移転し続けていた。

その影響は大きく、国内での求職率の低下に繋がっていた。

そんな中、政府が出したのは、最悪の選択である派遣法の改定案だった。


アレが国内で厳しいながらも奮闘していた中小製造業者に大打撃を与えたのだ。

安価な労働力である派遣社員に仕事を奪われた中小製造業者は、ドンドンと赤字経営に陥り、結果、倒産することになっていった。

俺の工場も弱電業界の中、近隣の同規模の工場や会社の中では最後まで生き抜いた方であるが、とうとう仕事は無くなってしまい、どうにもならなくなってしまったのだ。


そんな状況の時に師匠に召喚され「賢者の弟子になってくれ」と言われて、即決で「弟子になります」と答えたのだ。

あの時は本当にこの世界に思い残すことは無いと思っていたが、五年も経って振り返ってみれば、全てを捨て去るなんてできなかったのだと反省している。

その一例が食事と言われれば「何だよ、それ!」って言われそうだけど。

体に沁み込んだ日本人の故郷の味は忘れられなかったってことだ。


それにしても工場の中を見ながら「今ならゴーレムを使って人件費を掛けずに製造業も可能だよな」とか思うが「今更日々大変な思いをしながら製造業をやる気になるか?」って聞かれると、返事に困るんだよな。

賢者である師匠の弟子として生活してきた俺は、今更昔みたいな生活に戻れるとは思えないのだ。


となると、何か別の方法で金を稼がないといけない。

何で?って国に税金とか払わないと土地や建物を取られちゃうだろうし、食料を買うにも金は必要だし、現代日本で金が無かったら何もできないからな!


まあ、ここで焦って考えたって良い案が出るとは思えないんだけど・・・


「取り敢えず現在四月で、今年一杯は何とかなるぐらいの蓄えはあるし、二ヶ月か三ヶ月掛けて考えていけば何か良い方法を思い付くだろう」などと楽観的に考えている。


と言うのも、最終的に魔法を使えば何とかできると分かっているからだ。


例えば、きん

海水中に金が含有されていることを知っているだろうか?

その総量、予想では何と!50億トンと言われている。


では何故、誰も海水から金を取り出さないのか?

海水1トン当たりの含有量が少な過ぎて、採算性が合わないからだ。


ところが、これを魔法で抽出すると・・・俺が一人で魔法を使って三時間作業すれば、一時間当たり20~30gの金が抽出できるのだ。

俺一人での作業で、それも三時間だけで最大100g近い量を抽出できるなんて、ウハウハどころの騒ぎでは無い。


まあ、そんな目立つことをすると、いらん所から目を付けられそうだけどな。


後は、リサイクルとかも魔法なら簡単にできる。

例えば金属のリサイクルだが、魔法なら簡単に高純度の金属インゴットに加工できる。

その際には、電気もガスも他の燃料も使わないし、酸化したスラグなども出ない。

1トン分の金属をリサイクルして、ほぼ1トンの金属を高純度のインゴットにしてしまえるのだ。

まさにリサイクル業界の革命である。


これもまた、変な所に目を付けられるだろう。


他にも、周囲の目を気にしなければ、色々なことで金を稼ぐことは可能だろう。

ただ、どれでも目立つことと、目を付けられるって言う余分な物がくっ付いてくるだけだ。


「何か穏便に、目立たず、それでもって簡単に稼げる方法はないものか?」


工場内でブツブツ言ってる俺って、知らない人が見たら不審者に見えるかも?

そんな馬鹿みたいなことを考えつつ、戸締りなどをすませて、荷物を持って事務所を出る。


玄関には「工場は現在休業中です。御用の方は携帯電話に連絡をお願いいたします」と書いた紙を貼っておいた。

何か用があれば、これを見た人は電話してくるだろう。


最後に工場の建物に向かって「状態保存、保護結界」と魔法を掛ける。

これだけでも、仮にトラックが突っ込んだとしても傷すら付かないぐらいには強力だ。


さて、あの娘達は起きてるかな?

土産にチョコレートがあるけど、どんな反応をするか?今から楽しみだ!

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