第4話

急いで師匠の所へやって来た。


「師匠!」

「おお、モリト。どうだった?外の確認に行っていると聞いたのじゃが?」


「大規模異世界転移は成功してたぞ。目的地にしてた場所に無事到着してた。時間なんかも確認したが問題無かった。ただ、俺も知らなかったんだが、地球って魔素濃度が高かったみたいだ」

「じゃろうな。儂が魔素酔いで倒れるほどとは。で、どの位濃いのじゃ?」


「・・・百倍・・・」

「ひゃっ!百倍じゃとーーーーっ!」


いやぁ、分かるよ師匠、驚くのは当たり前だって。

俺も最初聞かされた時は驚いたもん。

それにしても俺、咄嗟に良くあの指示出せたよなぁ。

今更ながらに、あの時の的確な指示を出した俺を褒めてやりたいよ。


「一応、色々影響はあったけど、緊急で必要そうなことは指示しといたよ。後は師匠と相談しながらと思ってるけど」

「どんな影響が出たのじゃ?」


「一番大きな影響は・・・塔がデカくなった」

「デカくなった?魔素の影響を受けて大きくなったのじゃな?と言うことはじゃ・・・百倍になったんじゃな」


流石は師匠、納得してるかは別にしても、直ぐにその答えが出るとはね。


「一応緊急指示として、幻影魔法で風景と同化させて、対探知魔法で偽装して、空間魔法の位相透過で接触できないようにしてる」

「なるほど、それだけしてあれば、そうそうバレることは無いじゃろう。が、百倍はどういう風に百倍なのじゃ?」


「たぶん、高さで百倍だと思う。テラスに行ってみたら雲が下に見えたから・・・」

「なっ!何と・・・しかし、横で無かっただけマシじゃな」


確かに横向きに百倍とかだと、今頃俺の工場は塔に押し潰されてただろうな。

他にも被害が出てたかも知れないし、縦で良かったと思っておこう。


これだけ高い建造物があるって世界にバレると、とんでもないことになるんだろうけど・・・

何が?って「宇宙開発がどうの」とか「戦争がどうの」とか「宇宙研究がどうの」とか色々と考えられるだろ。

どれも俺達には関係無いし、興味も無い訳だからどうでも良いんだけど、周りはほっとかないってことだな。


「で、現在は魔素の制御装置がフル稼働して魔素を適正値へ調整中。そろそろ調整が終わる頃かな?それにしても師匠は流石だよ。まだ魔素濃度の調整が終わってないのに、意識が戻るなんて」

「そうでも無いのじゃ。未だに頭は痛いし、体にも力が入り辛い。ただ、昔に魔法の実験で暴走しかけた時に比べればマシと言う程度じゃ」


止めろよ、暴走って怖いだろうが!

師匠クラスが制御し切れないで暴走って、周囲数十kmが更地になっちまうだろ!


「あれはまだ〈賢者〉と呼ばれる前だったが、当時の儂も無茶をしたもんじゃ・・・」


そんな和やかに懐かしむには物騒な内容だと思うんだが、師匠の感性は時たま理解に苦しむんだよな。


「で、他に指示しとくことはあるかな?」

「そうじゃな、塔の内部のダンジョンの状態は確認した方が良いじゃろうな。高濃度の魔素で暴走や変異、異常進化などが発生してもおかしく無いじゃろうし」


確かに、それはありえるか。

絶対に塔から出られないようになってるけど、塔の中が荒れるのも面倒だし先に手を打った方が楽だよな。


「分かった、それは指示を出しとくよ。変なのが生まれてたら俺が片付けとくから」

「頼んだのじゃ。この感じじゃと二日ほどは満足に動けんじゃろうしな」


二日か、その間にダンジョンの確認と後始末、ついでに工場の確認と、それからネットで塔の情報が出てないか確認した方が良いかな?

もし塔が衛星に見付かってたら、絶対に検索ワードの調査が入ってそうだし、塔の情報集めは怪しまれる可能性が高いから、何かしら別の方向から調べない始めないと不味いだろうな。


「じゃあ、俺は行くよ。師匠はゆっくりしててくれ。あ、あと、賢者様、世界初の大規模異世界転移術式の成功おめでとうございます。弟子として御祝い申し上げます」

「だぁー、背中が痒くなるわ!さっさと行くのじゃ!!」


俺は、騒ぐ師匠の声に追われる様に笑いながら部屋を出た。


ゴーレム達が忙しなく動き回る制御室に立ち寄り、魔素濃度の制御状況とダンジョンの状況確認をするための指示を出す。


「魔素の制御状況を報告!」

「ゲンザイ、マソノウドのセイギョはジュンチョウです。ノコり2フンでセイジョウチになります」


うん、予定通りか。


「ダンジョン内への高濃度な魔素の影響を調査!変異種、異常進化種、暴走などの兆候が無いか、また既に発生している場合は俺が対処するので、その情報を知らせるように」

「リョウカイしました。ダンジョンのエイキョウをチョウサします」


調査には少し時間が掛かると思うし、その間にちょっとだけ工場を確認してこよう。

点灯しっ放しの電気も消しとかないといけないし、あっちでは食べられなかった懐かしい食い物も食べたい。


「少し塔を離れる。直ぐに戻るつもりだが、それまで俺以外の生物の出入りを禁止する。何かあれば念話で連絡をしてくれ」

「リョウカイしました。オキをツけて」


さてと、塔の周辺状況も確認して無いし、その辺も含めて外に出てみようか。


改めて外に出て、振り返って塔を見上げる。

マジで雲を突き抜けてて、天辺が見えない。

現代科学の粋を集結しても建造不可能な建築物だよな、コレ。


話題には事欠かないだろうが、話題にしたくないものだ。

絶対に面倒事や厄介事が「一篭いくら?」で押し寄せてくる未来が見える。


えっ!「何で幻影魔法で隠してる塔が見えてるのか?」って、それは俺が〈真眼〉を持ってるからだな。

俺的には、最高峰の〈天眼〉が欲しかったところだけど、あれは〈天族〉の〈神の従者〉とかしか持てない能力っぽいし、次点の〈真眼〉で満足しておくことにした。

〈天族〉ってのは白い二対以上の羽を持った種族で、あっちの世界でも滅多に会うことの無い種族だった。

聖域って呼ばれる、正確な高さも分からない世界最高峰の山に住む種族で、神の従者をしているらしい。

「らしい」ってのは、俺は神を見たことが無いから無宗教な日本人的に信用できないってのがあって、仮定としてる。


師匠とかは「疑う余地無し!」って言うんだけど、俺は無理!

日本古来の神様にだって「俗に言う神頼み」はするけど信じているか?と聞かれれば、即答はできないし。

ただ、神仏を敬わないか?って言われると、敬っている方だと思う。

これは完全に両親の影響だろうな。


「しっかし、これは歩いてたんじゃ、らちが明かないな」


だって目の前は人の手の入っていない鬱蒼とした山林なのだ。

・・・今後のことも考えるなら、道を作って置く方が良いんだろうけど、突然道ができるのも問題があるな。


取り敢えず、今日のところはそのまま飛んで行こうか。

幻影魔法を使っておけば、俺の飛んでる姿を見られることも無いしな。


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次の投稿は17:00に隔日で投稿予定です。

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