第3話

叫んだ直後に、師匠の言葉を思い出した。


「そうだ!魔素制御装置全開!」と代理入力で、指示を出す。

すると何処からともなく、低く唸るような音が聞こえ出した。


「・・・これで良かったのか?」


どうすれば良いのか?他に判断できる事が無くて、オロオロとしていると停止していたゴーレムが動き出した。


「サイキドウチュウ」

「ゲンインフメイのジタイにより、キンキュウテイシされたモヨウ」

「ゲンインのトクテイチュウ」

「・・・ゲンインハンメイ」

「マソリョウのイジョウジョウショウにより、カジョウキョウキュウになったモヨウ」

「フカテイゲンのためキンキュウテイシされたよう」

「ゲンザイ、セイギョソウチにてシセツナイのマソノウドチョウセイチュウ」

「ヒツヨウショリジカンサンテイチュウ」

「ハンメイ、およそ20プンでシュウリョウします」


何だ?魔素の異常上昇?過剰供給?



何だかよく分からないが、地球にも魔素があったってことか?

でも、ここは地球のはずなのに魔素って何の冗談だ?

魔法なんか存在しなかったんだぞ。



「キンキュウジタイ!キンキュウテイシマエのマソノウドによって、トウにエイキョウがデています」

「問題は何だ?」

「マソノウドにヒレイしてトウのオオきさがオオきくなっています」

「具体的には?」

「ガイカンジョウのタイセキヒでヒャクバイです」


っ!・・・冗談だろ。百倍って目立つなんてモンじゃないだろっ!

えっと、まずは隠さないと!


「緊急指示!幻影魔法展開!塔を風景と同化!あと、対探知魔法展開!それから、空間魔法の位相透過も展開!」

「シジ、リョウショウ。ジッコウします」


他に何かやっとくことがあるか?

何が必要だ?

・・・運悪く誰かに見られていたとしても、手を打った以上、地球の科学技術で見付かる可能性は低いはず。

見た目は〈幻影魔法〉で風景と同化してるから、透明になったのと変わらないはず。

電子機器等で調査しようにも〈対探知魔法〉で無力化できてるはず。

熱も、質量も、光も、影も、ありとあらゆる現象を誤魔化せるはずだ。

俺が知る限り〈魔力探知〉か〈魔眼〉や〈真眼〉のような特殊な眼の系統、他には特殊な魔道具、後は・・・〈直感〉ぐらいしか対探知魔法を見破れる方法は無いはずだから。

唯一の可能性である触覚に関しても〈位相透過〉で触れられること無く反対側に通り抜けることになるから、更に安全なはずだ。


取り敢えず、これで緊急の対処はできただろう。

あとは、みんなの体調だけど・・・たぶんさっきの原因から考えて高濃度の魔素による〈魔素酔い〉だろうな。

塔の中の魔素濃度が調整できれば、みんなの体調も回復してくるはずだ。


俺が何とも無いのは、たぶん元々地球人だから慣れてたんだと思う。

後は、何をやっとくべきだ?


・・・あっ!今の時間!

本当に異世界転移した時と同じ時間なのか確認しないと!


「魔素の対処と、みんなの看護を頼むぞ。俺は外の確認をしてくる」

「リョウカイしました」


俺の持ち山に転移してるはずだけど、自分の目で見ないとな。

時間的に異世界に召喚されたのは夜だったから、外は暗いはず。

塔の外縁部にあるテラスに出てみる。


・・・ほえっ?雲が下に見えるんだが?どうなってんだ?


・・・そうだった、外観的な大きさが百倍って言ってたな。

高さも比例して高くなってるのか。


これじゃあ、場所の確認なんかできねぇじゃん!


急いで地上に降りるために転移陣に向かう。

塔の中の移動は、基本的に転移陣を使うのだ。

転移魔法もあるが、外部からの侵入対策に転移魔法を阻害するようにしているから使えないのだ。


転移陣で塔の一階部分、入口横へ移動。

そのまま外に出てみるが、今度は周囲の木々が邪魔で景色が見えない。


仕方なく〈浮遊魔法〉を使用して、木の上までゆっくりと上昇してみる。

『あっ!普通に魔法が使えてる』と内心驚く。


だが、それよりも・・・あっ!見覚えがあるぞ!

あの道は俺の工場に続く唯一の道だ。

ってことは・・・あそこが俺の工場か!


あぁ、電気が点いたままだな。


あっちに見える明かりが中心街で、あれが山の上の電波塔のはず。


良し!地理的には間違い無さそうだ。

後は時間だが・・・仕舞い込んで使わずにいたスマホを取り出してみる。


電波は、三本立ってるから大丈夫だ。

カレンダーと時間を確認すると・・・OK!

時間的にも問題無さそうだ!


スマホって通信電波に乗せた基準時に自動で合わせてるから、時刻合わせって機能が無いのだ。

だから、電波が来てる=時刻が自動調整される=時刻を確認すれば確実に現在時刻が分かるってことである。


「やった!帰って来たぞぉ!」と、俺は両手を頭上に挙げて地球への帰還を喜んだ。


取り敢えずの最低限の目標は達成できたってことだ!

まあ、高濃度の魔素で色々トラブルは発生してるけど一応の対処は済んでるし、後は今後のことを考えていかないと。

何せ、俺の工場は閉鎖の危機に瀕しているし、今更新たに営業してまで工場で電子機器の製造なんてやってられない。


あっ!別に仕事を嫌がってる訳じゃ無いぞ。

師匠やレティー、あの娘達を放置して仕事をしてる訳にはいかないってだけだ。

だって、この世界のことは俺以外誰も分からないんだし、俺が先頭に立って世話しないと不味いだろ。


この山は確実に確保しないとダメだし、工場も残したいとは思ってる。

そのためには、この世界での資金調達を考えないといけないんだよな。


それがなかなか難問だったりする。

極端な話、魔道具を作って売れば充分な金額を稼げる自信はあるが、魔法を理解しない人々に魔道具の理論を説明しても分かってもらえないだろう。

つまり「訳が分からん物が、何故か動作する」って反応になると予想できる。

そんな訳の分からない物を保障はできないから、販売許可は出せないってことになるのが目に見えているのだ。


こう、何て言うか、少々の不思議さは目を瞑るぐらいみんなが必要とする物で、俺が適当に「高度な理論過ぎて、誰にも理解されないだろう」とか言っても、不満や疑問を飲み込んでくれるような物って無いかな?

そんな物なら、流通させられそうな気がするんだけど・・・

そんな御都合主義に染まった御機嫌な物なんて無いだろうなぁ。


そう言えば、魔素濃度が高いってことは、魔道具の回路を全部やり直さないと使えないってこと?

うわっ、面倒臭いなんてもんじゃ無いぞ!

正確な魔素濃度の測定と、って魔素濃度の測定器も新しく設計しないと容量不足で測定できないんじゃないか?

結構やらなきゃいけないことが多いな。


「うーん、難儀だ」


悩んでいる所へ『モリト。ケンジャサマがメザめられました』と念話が届いた。


師匠が目覚めたなら、現状の報告をしておかないとな!

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