第2話

・・・説得・・・諦めよう。

俺には彼女達の説得は無理だ。

やるなら・・・師匠の方が楽!


「分かった、分かった。俺は反対はしないよ。ただ、問題があることは知っていて欲しい」


これから行くのは、俺の故郷で只人ただびとしかいない、帝国の様な国であること。

獣人、妖人、ドラゴンなどの他種族は一切存在しないこと。

塔を丸ごと移動させるので引越し後、落ち着くまでは一切外には出れないこと。

言葉や容姿の違いを克服するために、魔法を一生懸命に勉強しないといけないこと。

引越し後は手続きなどで忙しいため、俺が長期で留守にしているだろうこと。

などなど、他にも長々と説明したのだった。


「そういうことなんだが、それでも一緒に行くんだな?」

「「「行くーーー!!!」」」

「分かった。じゃあ、一緒に師匠を説得しに行こうか」


今だ師匠と人型になったレティーは怒鳴り合いの喧嘩をしている。

そこに割り込むように入るのは、なかなかに根性が必要とされるのだが、今日は心強い味方が三人もいる。


「「「ストーップ!」」」

「あー、師匠、三人を連れて行くことにしたぞ。だからレティーも連れて行ってやったらどうだ?」


俺の言葉に唖然としている師匠を置いておいて、レティーを手招きで呼び寄せる。


「なぁ、レティー。俺の故郷に行くのはリスクがあること、分かってるよな?そこで相談なんだが、師匠が三人を説得できたら諦めるってのはどうだ?」

「ふむ、良いじゃろう。その提案に乗ろうではないか。こっちに三人が残るなら保護者として我も残ろう」

「決まりだな!ってことで師匠、説得は任せたよ」


俺達の会話を聞いていた師匠は、あっ!プルプルしてる。


「わっ、儂にそれができると思っとるのかぁっ!無茶振りじゃろう!できんと分かっとって言っとるのじゃろう!こぉの腐れ弟子がぁっ!」


あっと、やり過ぎたかも?

不味っ、火魔法が飛んで来た!


「ちょ、ちょっと待って、周りをを見ろよ!」


俺の後ろに三人が隠れてるから俺は逃げられないし、仕方無いなぁ。

師匠の魔法をことで、構築された魔法構文を読み取り、それを打ち消す反魔法をぶつけることでボヒュッ!って対消滅させた。


「モリト、今のは何じゃ?」


レティーの質問には答えず、師匠に文句を言う。


「こぉらぁっ!師匠には、この達が見えてないのか?この馬鹿師匠がぁっ!」

「どうせモリトが防ぐんじゃ、問題無かろう!」

「それとこれとは別問題だっ!この達を危ない目に遭わせるなんてペナルティー決定だ!師匠の許可は必要無い、全員で俺の故郷に行くぞ!」

「馬鹿なことを言いおるわ!事前に話し合ったじゃろうに!」

「ああ、俺と師匠でな!この娘達の意見は聞かなかった!だから、さっき意思確認をしたんだよ!」

「じゃが・・「師匠、彼女達にも意思はある。本人達が望んでるんだ、俺達はそれを助けてやれば良いんじゃないのか?今までみたいに・・・」・・そう、じゃったな」


よっし!説得完了!


「魔力の蓄積量を計算し直さないと、後は何をやらないといけないんだっけ?」

「蓄積量の計算は任せる、他は儂が調整するわい」

「任されたし、そっちは任せた師匠」


俺達は、必要な作業をすることにした。


「ああ、追加で準備が必要だから少し出発が遅れるが、その間大人しくしといてくれよ」


レティーを含めた四人に声を掛けてから作業に没頭する。

彼女達は、俺達の邪魔にならないように、部屋を出て行った。

たぶん自室に行ったんだろう。


「さてさて、ドラゴン一体と少女が三人増えると、必要な魔力量は・・・・・・」



再計算は二時間ほどで終わったが、追加分の魔力を蓄積するのに二日掛かった。

原因は、ドラゴン一体分が増えたのが大きい。

体もデカイし保有魔力量も多いから、転移時の必要魔力量もそれに比例して多くなったのだ。


さて、それはまあ良い。

今は最終段階の、二回目!

面倒になったのか、今回は師匠と俺の二人体勢で、異世界転移用の魔法陣を構築している。

俺の方が師匠より魔法構文の構築が早いからだけど、流石にコレは複雑怪奇な魔法陣だ。

師匠は、良くコレを一人で構築できたもんだ。

まだまだ俺じゃあ後を継ぐのに足りてないって思うよ、コレを見てるとな。


「さて、みんな体を椅子に固定したか?ベルトはしっかりと締めろよ。外れると置き去りになるかも知れないからな」


全員の返事があったことを確認して、師匠に合図を送る。


「師匠、行こう!」

「分かったわい。〈大規模引越し異世界転移陣〉発動!」


えっ!この大掛かりな魔法陣の名前ってなの?ダサくないか?

そう感じた瞬間、俺達は光の中に飲み込まれたのだった。



 ***  ***  ***  *** 



「あらっ!転移魔法?にしては、大きいわね?・・・嘘でしょ、ソレごと転移してくるの?何考えてるのよ!」

「天姉様!大変!」

「知ってるわ!でも・・・コレ止められないの」

「どうしてですか!」

「前に召喚された日本人が一緒にいるのよ。帰還ってこと」

「なっ!帰還ってドラゴンまで一緒なんですよ!流石に放置はできません!」

「でも、ダメ!帰還者は受け入れるって決まってるのよ!それは破れないルールなの!」

「じゃあ・・・」

「後で呼び出すしかないわね。帰還者って、二百年振りぐらいかしら?」

「日本では、そうですね。他の宗教圏だと百年ぐらい前に一人いたかと」

「はぁー、忙しくなりそうね・・・」

「そうですねぇ・・・」

「スサにも手伝わせましょう!」

「それが良いですわ!苦手だって逃げてばかりでしたし」

「「うふふふ!!」」


何やら、含みのある笑い声が響いていた。



 ***  ***  ***  ***



感覚も何も無い光の中で、突然体に重さが戻り始めた。

それと同時に真っ白な光に少しだけ色が混ざり始める。

『これ、転移が完了する直前の反応だ』と頭の中で妙に冷静に考えてた。


感覚としては高層ビルのエレベーターで最上階から、一階までノンストップで降りる時を想像して欲しい。

表現の難しい微妙な浮遊感から、急激に切り替わった加重力状態、まさに転移ってあんな感じ。

転移の終了直前は、ググッ!って感じの加重力が加わってる。


そして、光が段々と収束して、弾けると転移が終了した合図である。


「みな無事かのう?ゴーレム達は塔の状況確認を始めるよう・・・うっ!ぐっ!不味い。魔素・制御・装置・全開!」


何故か俺以外の全員が、胸を押さえて倒れこんだ。

師匠は何か気付いたみたいだけど、俺にはそれが分からない。


ゴーレムに指示して「みなをベッドに」と言い掛けたら、ゴーレムも何故か機能停止してる。


「ど、ど、ど、どうなってんだよーーーー!」

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