賢者の塔と後継者 -師匠が、引越しついでに異世界から賢者の塔(ダンジョン)を持って来ました!ー
煙管
1章 引越し先は元の世界
第1話
本日より投稿開始する新作?(旧作の練り直しなのでほぼ新作)です。
初回、四話同時投稿です。
では、本編をどうぞ!
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俺は、部屋に入るなり作業をしていた老人に問う。
「師匠、準備は?」
白髪に長い髭の老人は振り向きもせず、それに答えた。
「儂の方は終わっとる、他はもうそろそろ終わるはずじゃ」
「そうか、やっと帰れるんだな」
俺はその事実を噛み締めた。
帰れるとなると、途端に懐かしくなるもので色々と思い出してしまっていた。
何と言っても〈日本食〉が食べたい!
温かいご飯と味噌汁が懐かしい!
この世界、米が無かったんだよなぁ。
まあ、帰っても普通の生活は送れないんだけど、それでも帰れるとなると嬉しいもんだ。
引越し先を俺の故郷に決めてから〈何とか帝国〉の監視を掻い潜って、色々な物資を集めた。
代表的なところだと、魔法金属とか、特殊な薬草とか色々だ。
「そんなに荷物を増やして、元の世界に持って帰れるのか?」って、大丈夫だ。
そのために一年も掛けて二人で準備を進めてきたんだからな!
俺の師匠、流石は賢者って呼ばれるだけはあって、やることが規格外。
引越し方法が斬新過ぎるんだ!
勿論、異世界から元の世界に戻るってことで「異世界転移」って呼ばれる方法を使うんだけど、規模がね、うん、違うんだよ。
今住んでる場所、元は野良ダンジョンって呼ばれてた塔なんだけど、師匠が何十年か前に単独で攻略して、そのまま自分の家にしてしまった場所な訳。
師匠曰く「この塔は愛着があるんじゃ、じゃから塔ごと転移するのじゃ!」だって。
俺も、それを聞いた時は「そりゃあ無理だろ」って呆れたよ。
まあ、無理そうなことでも何とかしちゃうのが賢者な師匠の凄い所なんだけど。
で、今はその最終準備中な訳だ。
ちなみに師匠の家になってる塔、今は管理ダンジョン〈賢者の塔〉とか呼ばれてるらしい。
塔自体は直径が50mほどの25階建てで、元の世界基準だと階数だけ聞けば大して高くは無い。
ところがどっこい、ここは魔法のある世界!
塔の高さは100mだけど、内部の空間が拡張されている。
中で体感した広さは最大のフロアで直径が3000m、高さは200mと言うトンデモ空間なんだ。
1階から23階まではダンジョンだった当事から弄ってないみたいだけど、24階と25階はかなり変わったみたい。
24階は師匠の友人が遊びに来た時用に、ワンフロア全部を使った広いスペースを用意してある。
「何でそんなに広いスペースがいるのか?」答えは師匠の友人が人では無いから。
異世界物定番の最強種族であるアレッ!そう、ドラゴンさんです!
流石にドラゴン相手だと、広いスペースがないと不味い訳!
なのでワンフロア全部ドラゴン用になってるのだ。
師匠が内緒で教えてくれたのは『ダンジョンのラスボスの代わり』なんだとか。
良いのかなぁ・・・
25階は、まんま俺らの生活スペースに改装されてる。
まあ、謁見用の広間も用意されてるけど使ったことは無い。
ってか、広間を使うような客が来たことが無いだけだな。
ちなみに俺達と塔が転移する予定の地点は、俺の山である。
正確には相続した山なんだけど、相続は終わってるから、俺の山であってるだろ。
昔、俺の家系は林業をやってたので40ぐらいの山を持ってたらしいが、放蕩者のご先祖様が使い潰したり、相続税の代りに売ったりで山が減り、今残ってるのは一つだけになってる。
その山には、俺が後を継いだ両親の工場があるので残したってだけだった。
でも、今は非常に助かってる。
何せ、突然他人の土地に塔が現れたら大問題になるからな!
その点、俺の持ち山なら、俺が交渉したことにすれば良いだけだ。
何とかなるだろって軽い気持ちでいる。
えっ!問題が無い訳無いだろ?
そりゃあ法律がどうのとか、建築法がどうのとか面倒は起きると分かってる。
でも、そういう国の法律関係は別にして、場所に関しては持ち主が騒がないのに他人が騒ぐのはおかしいだろ?
さて、そろそろ時間じゃないかな?
「待つのじゃぁー!我らも連れて行くのじゃぁー!」
えっ!来ちゃったよ!特大級の爆弾。
師匠、説得したんじゃなかったのか?
不味いだろ、アレ!
「師匠ーーー!不味いよ!」
遠くから響く声を聞いた俺は、迷わず師匠を呼んだ。
「何が不味いんじゃ?」
「レティーが連れてけって、凄いスピードで向かって来てる!」
「何ーーー!里帰りさせたはずじゃぞ!」
「知らないよっ!でも、もう到着・・・「爺ーーー!我を置いて行こうとは、どういう了見じゃぁーー!」・・・したみたい」
特大の爆弾が来ちゃったよ!
俺じゃあどうにもできないし、師匠に頑張ってもらうしかないかな。
ちなみに「レティー」ってのは愛称だ。
前に話してた師匠のドラゴン友達、略してドラ友だ。
本名は、レティリシア・ロンドバルムス・ベルクリア・フィレンバルム・スカラフォーディウム、って長い名前である。
ただ、レティーが言うには、これでも短くて「もっと長い名前にしないと笑われるぞ!」と仲間のドラゴンに注意されているらしい。
ちなみに、ドラゴンの名前って覚え難いほど良いんだって。
面倒な習慣を持ってるもんだよな。
師匠は流石に魔法の無い俺の世界にドラゴンを連れて行くのは不味いと判断したようで、引越し準備の最終段階前にレティーを言い包めて里帰りさせたのだ。
どこでレティーが師匠の計画に気付いたのか分からないけど、直前でバレてしまったみたいだ。
「「「モリトーーー!」」」
・・・俺を呼ぶ声が聞こえた気がする、嘘だよな・・・
ああ、ちなみに俺の名前は
だから引越し先も日本の予定、師匠が失敗しなければだけど。
そんな現実逃避も、三人の少女の出現で引き戻される。
「「「モリトーーー!どういうことーーー!」」」
完全にハモった状態の追求が俺の耳に届いたと、ほぼ同時に背後から突撃を受けた。
踏ん張って何とかうつ伏せに押し倒されるのを耐え、少女達に声を掛ける。
「俺と師匠は行く所があるんだ。でも凄く遠くて、帰って来られなくなる。そんな所にみんなを連れてなんて行けないんだよ」
「「「嫌ーーー!一緒に行くーーー!」」」
なんでこんな時に、綺麗にハモるかなぁ。
俺に突撃してきた少女達は、二年前の帝国による師匠への攻撃の被害者だ。
彼女達は、只人(普通の人間)とは違う人間種で、帝国では迫害対象だった。
獣人、妖人、精霊、精人、鬼人、竜人、巨人などなど、只人とは違う人間種は多い。
帝国は只人だけを人とし、それ以外を亜人と呼んで人では無いと迫害しているのだ。
そんな帝国が師匠の住む〈賢者の塔〉を襲撃してきた時、経路上近くにあった彼女達の住んでいた村を発見して彼女達を捕まえていた。
俺達は襲ってきた帝国軍を撃退し、敗走する彼等から彼女達を救出したのが出会った切っ掛けである。
彼女達のそれぞれの親は既に亡くなっており、村長の家で暮らしていたらしいが、その村長も帝国軍に捕まった時に殺されたらしい。
ここまで行き場の無かった彼女達を師匠が引き取って一緒に生活してきたのだ。
流石に異世界に連れて行くのは問題が多いと考え、レティーの住処の近くにある竜人の村に引き取ってもらおうと師匠と計画してきた。
レティーも彼女達とは仲良くしていたし、俺達がいなくなっても彼女がいれば問題無いと思っていた。
今回は、里帰りするレティーに彼女達がついて行ってたんだが・・・そうだよな、レティーが気付くってことは彼女達にもバレるのは当然ってことだった。
・・・今から彼女達に釈明する必要があるのか・・・超難問だな。
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