第245話 心配の必需品
初回ということでかなり気合が入っている。
三社合同の、種子島建設予定地実地検分。
我が本社の浜辺から少し離れて作られたヘリポートは燃料費高騰などどこ吹く風、ヘリの見本市かよというくらい壮観だ。
貝塚の新型ヘリ四機。後、俺が乗るのはあのグライダー。二ノ宮も舞原も四機ずつヘリを出してきて、これも見た事無い型で兵装も無気味なモノが沢山付いている。
のじゃロリのヘリ、なんか蒸気噴出機構付いてないか?!ヘリにあんなもの付けてどうするんだ?ロマンしか出ないぞ?
「副代表、予定表には目を通しましたか?」
俺が向こうに持っていく機材のチェックリストとヘリの貨物エリアの睨めっこをしていると、可美村が呼びにきた。
「もう親の顔より見たよ」
対外的なアピールを兼ねていて、警戒区域外からマスコミの撮影もある。テロも起きる前提で計画は動いているが、自国民が国家規模の事業の最中危険にさらされると分かっていて知らんぷりするほど州政府もアホではないようで、政府軍も都市圏の防衛隊も警察も出張っていたが、口煩く指図はされなかった。貝塚がどの組織からも胡麻をすられまくっててびっくりしたが、そりゃそうか。ほとんどの組織に卸してるからな。内務長官も挨拶にだけ来てたが、常に貝塚の顔色窺ってた。
飛行船墜落したばっかでまだ目の前の浅瀬が片付いてないし、突っつかれるかと思ったが、気持ち悪いほどスルーされて、どれだけ貝塚グループが怖いんだよ。
おべっか使われまくってるカンガルーがどんな顔してるのかと、まじまじ見てしまったら遠くからなのにしっかり気付かれて、”ウルフェンの予約が取れなそうで残念だ”とか秒で脅迫文を送って来やがった。
仕方ないのでつつみちゃんにライブチケットのお願いはしておいたが、キープしてくれるかどうかは知らん。
熊谷防衛戦以降、ウルフェンのライブ大人気だからな。
てか、貝塚どうやってライブなんか参加するんだ?
会場に乗り込んだだけで大事件になりそうだ。
「副代表自ら配送管理なんてしなくとも、お任せ頂ければ」
「俺が使いたいだけの物も多いからな」
向こうは孤島だ。下のビオトープとの直通搬送路も無いので、いざ何か欲しいとなっても、取り寄せるのに凄い手間がかかる。幸い、持ち込みには自社特権で色々融通が利いてしまう。俺がそういうの好きだからスミレさんが手を回してくれたのだろう。
「既に防衛拠点ですし、ロケット発着場として機能しています。本土との取引も活発だし、先を見越して小売り業も入ってきています。大抵のものはありますよ」
「それを俺が自由に使える訳じゃないし」
「副代表に出し惜しみする方も居ないと思いますが」
どうだかな。一応お小遣いはあるけど、本土と離れた島というだけで物流コストはかさむ。現地で色々買いまくったらひんしゅくも一緒に買いそうだ。
貝塚とかスミレさんの建前上出し惜しみは無いかもしれないが、それはそれで、恩に着せてきそうで俺が嫌だ。
「そもそも。見分に行って、一泊二日で帰ってくるだけですよ?」
表面上はな。
「それで済むと思う?」
既に、俺が把握してるだけで、テロ予告だけでも七十件を超えている。
州政府の敵対組織からも、計画遂行するなら対抗措置を取ると脅迫されている。
表面上、いつも優柔不断な州政府も、今回は強気だ。
「隣りの島がメンタルクリニックですからね。でも、それを理由に警備も配置出来ました」
そうなんだよな。
隣の屋久島は今、アルカトラズ島とかバスチーユ監獄みたいになっている。
厳重な警備の元、政治犯として収容された人やナチュラリストが暮らしている。
島全体をノンファージ環境で構築し、東北からのアクセスを完全に遮断している。
俺がナチュラリストだったら、この九十九里からの直行便は脱獄の為の渡りに船としか考えられない。
建前として、舞原商事が西日本を経由して種子島にアクセスするのは問題が大ありなので、この会社を経由した直行便が手始めとして作られた。
いずれ時間が経てば和解出来る日も来るかもしれないが、国府内でも人喰いがやっと下火になったかなという程度で、今までを無かった事に出来る訳も無く、こればかりは昨日今日で解決できる話ではない。
陸奥国府も、州政府も、その中の一つのさいたま都市圏群でさえ内紛ばっかで統合されてないんだ。
そんな中、軌道エレベーターの着工ってのは性急過ぎる気もしないでもないが、虎視眈々と空を向いて牙を研いできたスミレさんは、今なら出来ると踏んだ。
あー、まー、今も昔も同じか。
昔も日本国内でごたごたした中、軌道エレベーター建築に王手までかけたんだしな。東南アジアが私欲に走らなければあのまま運用いけたんだけどなあ。
今ほど身近に殺し合ってはいなかったが、死人の数は昔の方が多いんだよな。
人口比的には今の方が多いか?
んでも、これでも日本列島は病死以外での死者数は世界最低だっていうから、他の地域はどれだけ修羅の国なのか。
貝塚が言うには、ヨーロッパのナチュラリストに比べたら、陸奥国府は天使に見えるらしい。地質の関係でビオトープが機能していない大陸もあるし。そもそも、人類の生存圏が二十一世紀の半分以下も無い。
「俺だったら、一波乱仕込んで、それを理由に警備増やすな」
「セッティングするまでも無く、事件が起きるのは時間の問題な気もしますけどね」
不安要素のある中で事前調査開始したくないなあ。
「貝塚、スミレさん、舞原に俺だぞ?今をトキメくつつみ大先生も山田の名前使わずに公表しちゃってるし、核弾頭落としてもお釣りがくるって考える奴は相当いるんじゃないか?」
”ねぇ、よこやまクン。聞こえてるんだけど”
あれ?可美村君。そっちとつつみ先生繋がってたの?
言ってくれないと困るよそういうの。
”いやほら。ね?”
別に聞かれて不味い事は言ってなかったが、何故か背中を嫌な汗が流れる。
”何が”ね?”なの?”
あー。う-ん。ええと。
”大先生の御威光に縋るばかりの身としては、その身辺に気を配りたい訳ですよ。安心安全はいくらしてもし足りないでしょう”
可美村が必死にペコペコしている。
いや、別に責めてないぞ。
”丁寧語の時は大体何か誤魔化したい時なんだよね。こっち終わったら搬入目録。チェックさせてもらって良いかな?”
ギク。
”おもちゃ持ち込んだりしてないよね?一応、公文書としてメディア露出もするし、リスクマネージメントのプロを自認するヤマダ副代表の事ですから、黒塗りばかりだと体裁悪いのご存じだとは思いますけど”
ヤバそうな物品は表記を型番にしようかな。
いや、やましいモノは何も無・・・、あるなあ。
今回の分だけでもおもちゃだと思われそうなモノがモリモリある。
でもでも。フィンボードだって大活躍だったろ?
あれ使わなきゃ貝塚のヘリに積んであったゴムボートで乗りつける予定だったんだ。褒めて欲しいくらいだ。
”必要性に関しては、わたしも口添え致しますので、小細工は控えた方が宜しいかと存じます”
俺が何をしようとしているのかに気付いて、可美村がこっそり接触通信してきた。
小細工とは失敬な!これは列記とした、
”何?可美村さん。随分親しそうね”
「ひえっ!?」
”こらっ!不味いぞ!?向こうから見えてる!”
”すみまえん!”
慌てて離れた。可美村もキョドってる。
頼む。
せめて半分は残ってくれ!
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