第231話 バズ・セッション
銃を撃つ時に一番重要なのは、兎にも角にも、狙った的に当てて効果を出す事だ。それ以外は二の次だ。
使いやすさは勿論。効果を出す為には相手に合わせて銃や弾を使い分けなければならない。
常々、使ってて実感するのだが、俺はエイムがヘタクソだ。
映画の主人公みたいに、ハンドガンで瞬時に多数の的への精密射撃とかは幾ら練習しても不可能だ。
というか、都市圏の傭兵でもそんな超人見た事無い。殺し屋は出来るかもしれんけど、あいつは例外だ。
そんな訳で、基本、オートエイムとアシストを使うし、自力で銃をコントロールする事はまず無い。工場でのロリ防衛とかはイレギュラーだ。二度と御免だ。
アシストスーツを使わないと、反動がグリップから真っ直ぐ腕にこないだけで的からずれてしまうので、握りやすくないとお話にならない。
欧米が作った骨董品のオートマとかはグリップが太すぎて握れず、ほぼ使えない。
リボルバーとか、小型拳銃とか、手に収まるグリップから探さないとだ。
幸い、現代日本においては、子供や女性も銃を持つ社会だからという事もあって、グリップの手ごろな銃はそれなりに開発されている。
今の俺はそれ以前の問題で、砂が混ざった波に塗れても使える銃が一丁も無いって事だ。
このユムシウナギと寄生虫の砂混じりな波をかき分けて作戦遂行とか、頭オカシイ。
貝塚の予定では、球電が弱まった後飛行船の内部に侵入、群がるショゴスを押しのけて、テロ共に黒い物体を制圧される前に確保、無力化までするらしい。どの程度減るか見通し立ってるのか?
台風作るくらいの電力が、直径一キロ弱の飛行船に球電攻撃した程度で本当に弱るのか、俺には想像がつかない。
海岸線は、防衛線。くらいに考えていた。見通しが甘すぎだ。
海無し県生まれで知識が浅かったのが悔やまれる。
今回を生き残れたら、学んでおこう。
吹き荒れ始めた塩交じりの風に煽られ、荒くなってきた波打ち際に出る。
設備のチェックをしていた兵たちが何事かと見ている。
以前試しに、海水中でオートマのハンドガンをコッキングしたら、砂が詰まって一回でスライドが動かなくなり、しかもあっという間に錆びて分解清掃殺菌消毒に半日使う事になり。泣いた。
砂浜からカッコよく上陸するミリタリー映画とかは、どうやって維持してるんだ!?アレ何で撃てるんだ?
フィクションだから?
この土壇場になって頭を捻っていたら、可美村に笑われてしまった。
「副代表、撃つのは我々に任せてください」
そうは言いますがね。
あの量ですよ。一部でもここに落ちたらどーすんの。
球電が全部ぶっ潰してくれるなんて甘い考えは抱いていない。
因みに、可美村たちもメアリたちの兵装も海水対策を完全にしてあるそうだ。裏山。
「ベルコンでも有れば良いんだが、ショゴス対策は何も無いんだよ。囲まれた時に制圧力あって引火しない武器がシャベルだけだと不安でさ」
たぶん、ユムシ塗れのショゴスとヤり合う事になる。
あいつらは酸欠攻撃効かないからなあ。
燃やせばいいんだけど。コテージとかコンテナに火が移るのは困る。
そもそも、風と雨でほとんど燃えないかな?
パワーアシスト使って、掘った砂をぶつければそれなりの威力が出るが、直ぐ疲れるし、ショゴスにも皆にも笑われるだけだ。
あの量のショゴスが覆い被さってきたら、梨の礫程度にしかならないだろう。
こうなってくると、事前に撒いておいたザトウムシ爆弾がいい仕事をしそうだ。
仙台の時は、機動装甲相手にこれ大量に撒いたら困るだろうなくらいの認識だったが、物量でくるショゴス相手で、設備の損傷を気にしないなら、かなりの有効火力になる。
弾百発撃ち込むより、ショゴスの脳とか腸に爆弾一つ潜り込ませて起爆した方がコスパ良いし効果的だ。
満足にファージ誘導出来ない環境であんな汚いのとの接近戦はできるだけ避けたい。寄生虫や病原菌の数はイノシシやコボルドの比ではない。飛び散る汚い飛沫くらっただけで憤死する自信がある。
起爆コードは貝塚に渡そうかな?欲しいって言ったら半分くらい渡すか。
「べるこん。でしたら、キャンプで採用されている短機関銃をご利用になりますか?ショゴス相手の制圧射撃でしたら、十分実用に耐えます」
それも考えたんだが。
「ショゴスって音で寄ってくるだろ?どうせ音出すなら銃よりエアカッターだけど、屋外だと効果薄いし。貝塚グループではどうやって対処してるんだ?」
「遠距離から爆撃が一般的ですね」
ワイルドだな。
「誤解しないで欲しいのですが、商船の航路に鉢合わせる事が多いからです」
ああ、なるほど。
「接近してしまう場合は、ファージ誘導で沈静化させて回避します。破壊や撃退は基本考えないです」
「施設や設備が占拠された場合は?」
「四年前の肉嵐の時に何件かありましたね。あの時は確かに、炭酸ガスを吹き付けて処理したはずです」
「やっぱそうなるよなあ」
「生きたままのを無理矢理剥がすと設備が破損しますしね。誘導出来れば楽なのですが、損壊しないように誘導するにはリアルタイムで繊細なプログラミングが必要になります。プログラマーをその為に使うくらいなら、炭酸ガスで現場の者に任せた方が安上がりですから」
ウルフェンみたいなファージ誘導のチート集団は論外なんだろう。
のじゃロリみたいな大魔法使いも、こっちには居ない。
横山竜馬としての生体接続を使わずに、この貝塚が作った檻の中で出来る事には限りがある。
飛行船落下に対する攻撃で消費電力が爆上がりして、檻が弱体化すれば、武器やら機材もここに持ち込めるけど、そんなの、テロ側も地下市民側も想定内だ。
防衛も輸送も只ではない。どうせ盗賊団もいくつか見張ってるだろうし、軽々しく”支援物資持って範囲外で待機しておいて”とは言えない。
そんなのいくら金を積まれても、二ノ宮の傭兵でも嫌がるだろう。
そして、最後のブリーフィング。
リビング内では今、三社混成で少人数に分かれ、ガヤガヤとバズセッションが行われている。
このチームは貝塚につつみちゃん、メアリにお付きの兵士二人、後俺。
凄い組み合わせだ。全員が気兼ねなく意見を述べている。
俺の時代じゃありえないよなあ。
「処で。山田副代表。その靴は完全防水なのかね?」
その最中、貝塚がお得意の爆弾をブッこんでくる。
「え?俺も行くの?コテージで防衛じゃなくて?聞いてないんだけど」
それまで穏やかだった隣のつつみちゃんが一瞬で憤怒の表情だ。
「言ってないが、君が来る前提での作戦だよ。勿論。制圧が終わってから来てもらう」
オーパーツに関われるのは素直に嬉しいが、脅威がてんこ盛りだ。
俺が行って良いのか?
息を吸い、口を開いたつつみちゃんに貝塚が畳み掛ける。
「つつみ君。何故アレがここに出現したのか。何故ここなのか。分からないとは言わせない」
何だ?つつみちゃん知ってるのか?
う~ん。しかしエロいな。
「何?」
「似合ってるよ」
一緒にいたメアリのとこの兵士二人が口笛を吹いた。
つつみちゃんは片眉を上げてジト目が少し鋭くなった。タイミングが悪かった。お世辞だと思われている。
今のつつみちゃんは、新型アトムスーツを着ている。
コンテナに仕舞いこんでいたが初お披露目。
勿論、地上製。傘下の二ノ宮電機で開発した最新のアトムスーツで、俺のサポートに特化した非売品だ。きっと、この今俺が着ている地下製アトムスーツを参考にしているのだろう。デザインや電装が所々似通っている。
上に上がる事を想定しているのだろうか。
めっちゃ薄くてスリムなのだが、宇宙空間での活動も可能で、太陽風などの強力な放射線をほぼほぼ防げるらしい。凄ぇな。鉛とかチタンの高密度な壁で物理的に防ぐのではなく、磁界で曲げて避ける仕様と聞いたが、細かい事は教えてくれなかった。
あと、物理運動への防御性能は皆無で、それは別でまた考えていると聞いた。宇宙空間では、とんでもない速さで色々な方向からモノが飛んでくるからな。砂粒程度でも、音速越えて淀みなくバラバラ八方から突っ込んできたら、防弾チョッキより分厚い宇宙服でも致命傷だ。全部把握して防ぐには超高性能なレーダーと分厚い防壁が必要になる。
この新型スーツはきっと。今、貝塚がやってるのと同じくらいの事が出来るんだろうな。
詳しく知りたい。いつかスミレさんに会えたら交渉してみよう。
巨乳の為、胸の部分がパツンパツンになって窮屈そうだけど。これ、つつみちゃんの為にサイズ調整されてるんだよな?
型取りした奴には拘りと狂気を感じる。
俺得なので問題は全く無い。
出来れば、背中を反らした処を後ろからしゃがんで眺めたいが、俺は紳士なので想像だけで我慢しておく。
はっ!?
スミレさんまさか。
俺の精神的な充足も考えて、つつみちゃんにこんなエロいスーツを作ってくれたのか?!
いやだって、これ、普通に考えて可笑しいだろ?
性的搾取される為だけに考えられた昔のロボ系アニメの戦闘服がマシにみえるレベルだぞ?
「下らない事考えてないでさあ。残りの寿命の心配したら?わたしたち、あと数時間で死んじゃうかもなんだよ?」
「はい。すみません」
「謝るんじゃなくてさ。進歩的なコンセンサスが欲しいの」
あ、はい。
「制圧が終わってから瓦礫の山を一キロも進むのはタイムロスなので、同時潜入、侵攻した方が建設的だと考えます」
フライボードなら有るけど、制圧後に低空で安全に飛ぶのはまず無理だろう。
「ばかっ」
ビンタされた。
「暴力は良くないね。つつみ君」
油断してて避けられなかった。
「不可抗力だから」
指を擦っている。クリーンヒットしたので痛そうだ。
俺も痛い。
暴力の権化に暴力を諫められたのはつつみちゃんが人類史上初めてなのでは?
「んで?何でなんだ?」
俺の顔を見て何か言おうとしたつつみちゃんは、伸ばそうとした手をまた戻し、一瞬黙ってから面白くなさそうに下を向いた。
「副代表が解錠出来るんでしょ」
!
貝塚がニヤリと嗤う。
強い眼力で俺を見るメアリのしかめっ面がそれを肯定する。
「解錠どころか、わたしは操作も出来るのではと踏んでいるよ」
「そんな事!」
怒りを滲ませ、拳を握る。
「出来て欲しくない」
「勿論。公にする気は無いさ」
貝塚は鼻歌でも謳いだしそうだ。
もしかしたら、どこか別の頭は歌ってるのかもな。
実際、俺が操作出来てしまったら大問題だ。それは無いだろう。
でも、解錠出来る可能性は大いにある。
アレがイニシエーションルームと同じタイプの構造体だとしたら、生体接続者でクリアランス上位に位置する遺伝子は入室のマスターキーに成り得る。
それが世界にバレたらどうなるか。
考えただけで鬱になりそう。
「受容体が無いから無線アクセスは不可能だし、ファージ接続によるクラッキングは力技で圧し潰されるからね。どの道、アクセスの為には近寄る必要が出てくる」
ん?試したのか?
俺が貝塚に目を向けると、両手の平を上に軽く肩を竦めた。
ヤッタか。命知らずだな。
俺らにデータ開示してないけど、もう色々調べてるな。
せめて外観の画像くらい見せてくれないかなあ。
貝塚はあの青森でのアクセス動画を見ている。
メアリもいるし、近づけさえすればどうとでもなりそうだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます