第227話 予測される襲撃

「邪魔するだろう奴らの目星は付いたのか?」


 貝塚が何も言わないので俺が聞く。


「矢張り、あると考えているのですね」


 寧ろ、無い方がおかしい。

 俺が知ってるナチュラリストなら、絶対何かしら仕掛けてくる。

 メアリの立場としてそういう発言は不信感しかない。


「橋本重工とも連携して、目は光らせています。この間の事も有りますし、防衛線を引いて炭田を警戒しています」


 確かに。今炭田を攻撃されるのはかなり嫌だ。

 あそこが実効支配されたら、舞原は面白くない事になる。

 勿論俺も。

 カウボーイ爺たちも馬鹿ではない。今までの実績もあるし、何が有っても浜尻は守り通すだろう。


「この周りも囲っているが、空母群が入れないので海岸線上が手薄だ。時化が来るの分かってて笹舟浮かべる訳にもいかないのでね」


 空母が入ってくるのに水深が足りないんだな。

 近くまでは来てるのか?

 今回はデータを見せてもらってない。

 誰が敵か分からないしな。


「現存勢力で何とかするしかないでしょう。電子戦は期待して宜しいのでしょうか?」


 メアリの返答に貝塚は一瞬残念そうな顔をした。

 気のせいか?


「わたしと、九十九カンパニーの代表御二方がいる。不安なのは電力くらいだろう」


 それなんだよな。

 目の前に広大な電力畑が有る、防壁内部に電磁波発電設備を設置したいが、指くわえて見てるしかない。

 搬入しようとしても球電によって絶対阻止されるだろう。

 予測される襲撃も含め、既存物資と電力だけで乗り切れる手段があるんだ。

 釈迦の手の平で踊る俺らは、それを見つけ、対処しなければならない。

 合格点を貰えなければ、軌道エレベーター建設を大きく後押しするこの技術は破棄されてしまう。あるいは、時期尚早と判断され、俺らは処される。

 建設当初から地下市民に観測されてて、この場所への今までの襲撃も検証されてる筈だ。


 当然、貝塚とメアリがいるこの地にナチュラリストが本格的に制圧に来るのなら、消費電力とか太陽光パネルから逆算して、確実に制圧できる規模と勢力で攻勢に出てくるよな。

 この環境は攻めにくくはあるけど、貝塚の首を取り、舞原の右腕を潰すチャンスだ。逃すはずがない。

 俺がアカシックレコードに接続すればファージによる攻撃は問題無くなるけど、都市圏に”横山竜馬が生きて戻ってきた”とバレたら、また大宮ツーリングで襲われた時とか伊勢崎探検の時の比ではないくらい大人気になる。

 それは出来ればギリまで避けたい。

 直近の役場で俺のアカウントを使って地下のビオトープから何か引き出しでもしたらいずれ特定されてしまうのだが、利用する気も無いし。現状は身分詐称通知を使った数あるアカウントの内の一つ、砂場でコンタクト探すより難しいだろう。


俺達がナチュラリスト相手に切ってない最強カードは勿の論。山田花子さんだ。

 キルリストに関しては”今更でしょ”と言われた。


”つつみちゃん”


 繋がってる有線のみで呼びかける。


”うん。設備は揃ってるから。音響操作は出来るし、ファージをダイレクトで誘導するより省エネだけど。タイフーンに成長したタイミングでナチュラリストの襲撃が来たら少し面倒だね”


 少し面倒程度なのか?凄ぇな。

 全く使えないイメージなんだが。

 まぁ、なら安心かな。

 貝塚もいるし、俺がつつみちゃんの身の安全を優先しておけば勝手に何とかなってしまうだろう。


「予測される襲撃方法に関して、データは提示してもらえるのかね?」


 俺もそれは気になってた。都市圏の人間がいる前で隠匿が基本のナチュラリスト陣営、メアリにこの場でそれを聞くのは躊躇われた。

 建前上、知ったら殺すが基本だからな。


「弊社で予想される手段は開示しても良いですが」


 知ったら対策されるんだろ?


「わたしは構わんよ。それ以外の手段で来るか、先の先で来て後手に回ると言いたいのだろう?この状況から開示された襲撃方法に対して変更を加える手間を襲撃側に負担させた方が時間稼ぎになると思うのだがね」


 二秒程メアリは黙った。


「確かに、奴らの資金には限りが有ります。わたくし共に最も必要なのは時間です。有効でしょう」


 そしてメアリから開示されたテロ手段の情報には、共産主義の独裁者もドン引きのえげつない方法が羅列されていた。

 つつみちゃんの顔が梅干しになっている。


「君らはコレが可能なのかね?」


 貝塚は呆れた口調を隠さなかった。


「弊社で想定される現状可能な手段というだけです。他家ではまた別のアプローチもあるでしょう」


 青森のイニシエーションルームにはこういう情報がわんさか蓄積されていたのか。

 あの時破壊しておいて良かった。

 てか、オフラインのテロデータはいずれ駆逐したいな。

 老後の趣味には困らなそうだ。


「想定されるのは、三千院の過激派と、鷲宮の故、長男一派だけなのかね?」


「それ以外は根回し済みですので」


 おっと。マジで?

 それは凄い。


「これはこれは」


 貝塚も嬉しそうだ。


「早々に心変わりしない事を願いたいね」


 しっかり釘は刺すんだな。


「弊社は変わりませんが、それ以外には多くは申せませんね」


 言い切ったな。

 舞原は絶対裏切らないって事は、舞原が陸奥国府から孤立する事も考えられてきそうだけど。


「となると、電磁波防壁への干渉は捨て置いていいだろう、どうせ小手先の嫌がらせは球電が全て無力化する。放射性物質の風上からの散布は、これは舞原君に頑張ってもらうしかないな、こちらからは大したことは出来ない。在留メンバーの人質案件に関しては、これは問題ない。我が社の家族の居住地は隠匿されてるし、九十九カンパニーに関しては言わずもがな」


 そういや、つつみちゃんの親類は詳しく知らないな。

 サン=ジェルマン事件の時両親が亡くなったってのと、ルルルが後見人っての以外不明だ。


 チラッと見たが、無言で貝塚を見ている。


「キミの予想だと、海からバカ真面目に大人数で攻めてくるのがセオリーなのかね?」


 メアリは資料を見せながら頷いた。


「御社は既にご存じかと思いますが、重工を抜けた役員たちがヨット代わりで私物化していた上陸用潜水舟艇が三艘、現在行方が掴めません。この曇り空のどこかに潜伏しています」


 何だそのてんこ盛りなマシンは。


「それに関しては、銚子に駐屯している部隊に虱潰しさせている。オキゴンドウも見逃さないよ、それにアレは日本海側での運用だろう?」


 今も昔も、島国日本では防衛の観点からも船舶の停泊に関しては非常に厳格で高額だ。

 メアリは明言を避けたが、登録上日本海停泊でこっちで運用してたんだな。

 沿岸での海賊行為とかにも使われてたのかな。


「仕様書には表記がありませんが、砂に潜れます。水深二メートル以下で潜伏されたら発見は困難でしょう。雷程度では感電もしませんし」


 !


「聞いてない話だね」


 あ、貝塚ご立腹。


「橋本重工にも完成後廃棄された設計図は多いです。仕様書以外の機能がある機器は他にも有る筈です」


「企業として理念から教育する必要がありそうだね」


 得意先だけに開示する仕様とかあるのか。

 ナチュラリストは訳分かんねぇな。


 隅っこの窓際で通信していた可美村と井上が、駆けてきた。


「代表」


 顔色が悪い。


「見ているよ。中々思い切ったね」


 なんだ?

 やっぱ社員の家族が人質に取られたのか?


「メアリ君、どうやら彼らは、我々の予想をどうしても上回りたいらしい」


「如何されたのですか?」


「シンガポール共同体の保有するスグリアがテロに占拠されたそうだよ」


 スグリアって何だ?


”超巨大、滑空型っと、硬式飛行船だよ。略称。よこやまクンも乗った事あるでしょ?”


 アレかっ!?


 奪われたってなんだよ?!


「それは・・・、受注は御社だったのでは?」


 非難めいた物言いのメアリ氏。


「勿論、わたしへの当てつけだろう。共同体側も頑なに自陣営での防衛に拘ったのでね、東南アジアの空が実効支配されるとでも思ったのさ。直下からの機動装甲十二機の強襲で歯が立たなかったらしい。制圧も三分かからなかったそうだよ。我々も見習いたいね」


 アレが十二機かよ。

 飛んで入ってきたのか?三分であのバカデカいの制圧とか、ホラーだな。


「軽量化の為重火器用の弾薬は最低基準量を大幅に下回る二トン弱しか入れてなかったらしい。弾も武器も分散させていたので使い切る前に制圧されたみたいだ。忠告は再三していたのだがね」


 バカの極みだな。弾薬削ってまで何を積んだんだ?

 道具持っただけで気が大きくなる典型だ。


 でも、それを奪ったとして、どうするんだ?

 時間内に来なければ、貝塚が撃ち落とすだろう。

 時間内に来たらそれは嵐の真っただ中って事だ。

 雲の上から遊覧展望するくらいしかやる事なくない?

 いくら機動装甲でも、球電現象の真っ只中降下作戦は出来ない。爆発四散する。

 ミサイルだの砲弾だの撃ち込んできても、全部溶かされて無力化されるだろうし。

 そもそも。


「間に合うのか?そんなに速い?」


 正確な距離は分からないけど、えっと、円周四万キロだから、シンガポールから日本まで、ざっと四千キロはあるだろ。


「今から余裕で間に合うね」


「こっちに来たとして、どうやって攻撃出来るんだ?」


 揚陸艇でノルマンディーするならまだ分かる。

 飛行船で台風上空に停泊して、籠に磁場コートして落とすのか?

 球電現象起こせる有効範囲ってどの程度なんだろ?

 貝塚は十キロ見ときたいみたいな事言ってたよな?


「どうすると思うね?」


 貝塚は予想つくみたいだ。

 顎に手を当てたメアリが応えた。


「前線と共に来て、飛行船ごと墜落させてくるのがセオリーでしょう」


 もったいねぇ。

 そんな事する?!

 確かに、あの大容量なら破壊される前に覆い被さる事は出来るだろうが。


 貝塚も頷いてる。


「目的は我々ではなく沖の黒い物体の奪取だろう。丁度良い。直立砲塔艇の浅瀬運用に実績が欲しかった処だ。渡りに船とはこの事かな。ハハハ」


 直径一キロ以上の砦が人型戦車十二輌ごと空から降ってくるとか。

 笑い事じゃないんだよなあ。

 てか、今、貝塚気になるワード言ったよな?

 直立砲塔艇ってワクワクワード何だっ!?


”飛行船落とされたら試験は不合格じゃないのか?”


 流石に気になったので、無線で貝塚に聞いちゃう。


「山田君、心配は無い」


 メアリたちに気付かれたのか、声に出して肯定する。


「洋上でアレを撃ち落とすにもその後の有害物質の無力化にも、金と手間がかかるんだよ。自分から落ちてくれるんだ。その後、解体した方が安上りというものさ」


 そういうものなんですかね。


 頭上に落ちてこない事を祈ろう。

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