第199話 AIへの対応
AIは人間に迎合したりしない。
奴らに生きる意志があるとしたら、その思考は人間とぶつからないのだろうか?
あの兎を見る限り、只々生を謳歌してるだけにも見える。
放置してると祟り神になるから、神社に隔離して厳しく管理していくそうだ。
それはつまり、放置してると人類に敵対する知能足りえるという事か。
権現せずに、ネットワーク上ではっちゃけてるAIも実は五万といるのか?
手間のかかるウィルスには何度か遭遇した事はあるが、脅威に感じた事は一度も無い、実体化したらどうなってしまうのかみたいなのは確かに、あるっちゃある。
ナチュラリストからしたら、あの兎も沢を駆ける猪も同じ扱いなのだろう。
生きてるかどうかではない。コントロール出来るか、出来ないか、その違いしかない。
外来種を抑制するとか、その程度の、昔の人類と同じ事をやっているに過ぎない。
たぶん、俺が大げさに考えすぎているだけだ。
直接聞くことは流石に出来なかったが、三千院たちにとっては、都市圏は管理できないAIと同レベルなのだろうか。
でもそれが、尊厳を踏みにじって喰って良い理由にはならないよな。
ナチュラリスト側の歴史がどこまで本当かは分からないが、俺のアトムスーツを舞原がサラッと直した事を考えると、全部嘘という訳では無い。
どうにもならなくなってしまった悪意の連鎖は・・・、亡命してるエルフとかを見ていると、修復不可能レベルまでいっているとは思えない。
炭田の憎悪はまた違うか。
あいつらはナチュラリストを駆逐するまで止まらなそう。
人喰いのリスクを軽く見て、遊び半分に食い散らかす時点で、自業自得だな。
一週間の舞原家別荘生活を終えて、無事に帰ってこれたのだが、カンガルーの機嫌がすこぶる悪い。
洗脳されてないと言っているのに、検査結果が出ても信じてもらえない。
説明責任を果たそうとしたら余計に手が付けられなくなったので困っている。俺はどうすればいいんだ?
停電に関しては、仕方ないので金持を通さずにハマジリに話を上げた。
スフィアの維持電力がカツカツで顧客に影響が出るから、どの道作戦は中止予定だったそうだ。
名目上、舞原家から俺を通してという建前で作戦は中止となった。
「怒ってないと言ってるだろ」
「いや、めっちゃ機嫌悪い」
「貴様が、わたしが機嫌悪いと思いたいだけだろ」
「ほら、二人称が貴様になってる」
「任務中は敬称略だ。敬語は責任を曖昧にする」
軍隊じゃねえだろ。
・・・軍隊か?
「謙譲語と尊敬語使わないで、丁寧語だけ使えよ。それなら責任問題にはならないだろ」
「左様で御座いますね、スリーパー様。では以降、このように致しますが宜しいか」
この野郎。
「はぁ。もうさあ。イチャイチャすんならベッドの中にしてくれよ。見回りの最中ヤられると俺らの士気にも影響ありまくりなんだが」
心外だな。
「仕方ないだろ。二人だけだと全無視されるんだから」
「知らねえよ。嫌いなんだろ」
青柳もご機嫌斜めだ。
「一発ヤっとけば仲直りすんだろ。仕事に持ち込むな。いい加減殴るぞ」
いいや、こいつは言う前に殴る。
なので、今は殴る気も失せてるんだろう。
嫌われて、修復不可能なら、仕方ない。
悲しいが、俺のこの貧相なコミュ力で解決できないなら、仕事だけの関係と割り切るだけだ。
美人にネチネチ纏わりつくキモメンにはなりたくない。
「わかったよ。もういい」
任務に集中しよう。
ここには承認欲求を満たすだけの都合のいいヒロインなんて居ない。
美人は多いが、ゲームとは違う。
今でも、全てがゲーム感覚になる事が時々あって、いつか昔のあの生活がふと目の前に現れるのではと、恐怖というか、期待というか。
絶対そんな事はありえないのに。
今回の任務は。
一つだけ回収されなかったスフィアの原因究明と探索だ。
ビーコンだけ生きてて、回線が繋がらず操作も不能だった。
ビーコンは別電源だから、電源落ちても二年くらいもつが、場所が微妙に移動してそこで止まっている。
炭田の守備範囲だが、地図上には山の谷間しか無い。
元寄合衆のキャンプ近くで、スフィアや無人機は危なくて霧の下に下ろせない。
直前までのログは確保してあるが特に問題も無く、映像とかは録画してなかったので原因不明だ。
撃ち落されたのではないかというのがハマジリの見解だが、ビーコンが生きてるって事は、完全破壊されてない訳で、エルフに回収されたとかだと、今後またスフィアネットワークを構築したいって時に大きな支障をきたす。
回収は出来なくとも。罠なのか、野生動物に喰われたのか。
カラスに見つかってぶっ壊されてお持ち帰りとかなら良いんだけどな。
俺としても原因は特定しておきたい。
貧乏性なので、あの大量のスフィアがゴミになってしまうのは悲しい。
普通に使えるっちゃ使えるんだが、ネタバレすると邪魔されやすいんだよな。
濃霧より上、雨雲の位置でソフトボール大の物を滞空させてたので、下からは絶対視認不可。通信もレーザーのみだったので、俺でもノーヒントで見付けるのは至難の業だ。
エルフでアレのネットワーク構築を知ってるのはのじゃロリだけな筈だし。
万が一、上杉に回収されていた時にササッとその場で対処したいので、捜索には俺が立候補した。
ハマジリと炭田のカウボーイ爺は俺がわざわざ出向くのを最後まで渋ってたが、大規模ネットワークを使っての作戦行動の強さは先の殲滅戦で身に染みているので、許可も止む無し、だったのかな。
あのハリネズミが一旦構築されれば、真っ暗闇の山林地帯で全部の敵が見えて、こちらは見つからずに全員無音で連携できるってのは、控えめに言って無双だ。
「無人機。ギリー」
荒井が銃身をギリースーツに隠しながら空を指した。
ファージ誘導は体内しかやっていないので、俺のサーチはたかが知れている。
荒井は耳がめっちゃ良い。サイボーグ化してないが、先祖に耳が良い家系が混ざっているのかな。確かに耳の形が人とは若干違う。
見上げると、鬱蒼と茂る針葉樹の隙間に、ちらりと反射が見えた。
アトムスーツの指向性マイクを向けたら俺にも微かにプロペラ音が聞こえた。あまりデカくない捜索専用機体だ。低高度だが、RPGでも微妙に届かなそうな高さだな。
ジェット音がしないから、隠密行動中か。俺らを探しているのか。只の見回りか?
ギリー着てても、カメラが向いてたら動いた瞬間見つかる。
いなくなるまで笹に伏せ、石の気持ちになる。
こういう時に限って、空はファージ濃霧が薄い。
ああ、逆か。薄いから見回り出来るのか。濃いと、どんな機器使おうと下なんて全く見えないからな。
”俺の無人機からスフィア落として、跡つけるか?”
”いや、いい。どうせ長岡か五泉から飛ばしてるんだろう。このルートは把握していなかった。あまり良くないな”
スフィアが奴らに回収された可能性もあるって事か?
”この間破壊した送電線が近い。工事してる間の偵察かも”
荒井が地図と照らし合わせをしている。
”北の尾根越えれば鉄塔見えるけど、作業してるか見とく?”
”いや。事前偵察だったら工事の動きは無い。時間が惜しい。先を急ごう”
その台詞。俺も一度は言ってみたい事ランキングに入ってるんだよなあ。
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