第187話 オンラインバトル
出現は同時だった筈だが、出待ち気味に後ろから襲われた。
当然、想定の範囲内。
振りかぶって唐竹割りで叩きつけられたブロードソードをボーラで絡めとり、ボーラの片側をブラックジャックとして使い、回転させた速度そのまま、相手の首に叩きつける。
ウィークポイントへの大ダメージで、相手は痛みの代替として挙動が一瞬ロックされる。仕様上投擲武器のボーラは投げた直後以外ヒットストップが掛からないので、そのまま続けてボコり、反撃を許さずに一人沈めた。
装備は直剣だけだな。直剣は非常に使いにくい。何も武器が無い時以外はもちたくない。
見た目の威圧感は増すから奪っても良いが、動きが遅くなるのでこのままいこう。
ちと裏技っぽくて卑怯だが、これ投擲武器の仕様だからな!
このボーラは本来の狩猟武器とは違い、ゲーム用にローカライズされている。
砂鉄の入った革袋が二つ、一メートル弱ある麻紐の両端に縛ってあるだけのシンプルな物だ。
当然だが、ゲーマーのロンソ切りで切られるような立ち回りはしない。
刃を滑らせればカッターナイフでも切れてしまう麻紐だが、そんなの百も承知で使っている。
元々、俺はブラックジャック使いだ。
ゲームではこれの方が手に馴染む。
重りの感覚を確かめる為両手で片方ずつ紐を持ってクルクル回す。
そのまま片手に軽く巻きつけ、次の獲物を探す。
向かいの屋根で二人やり合ってる。
それを隣の部屋からクロスボウで狙っているのが見えた。
矢じりが窓からはみ出ている。
勝った方を撃つつもりだろうか?
クロスボウ野郎を狙う奴を出待ちしてる奴がいないか、忍び足で近づき廊下の暗がりから調べる。
二人、別々の位置で潜んでるな。こいつらトモダチか?
まだ開始一分も経ってないのに、もう組んだのかよ。外部でコンタクト取りながらやってるなこれは。
一人はレイピアを持っていて、もう一人は分からない。
ここで三人片付けるか?
屋根の上のタイマンが終るまで待つか?
外の様子を確認しようと半歩動いた時、弦の音が鳴った。
これはチャンス。迷わず出る。
クロスボウが装填される前になんとかしたい。
レイピアに突貫!
来るのは想定していた筈だが一瞬驚いてくれた。リカバーも早く、引きも速く、何度か突いてきた。
転がってた板切れを刺しやすく掲げてぶっ刺してもらい、剣先の動きが鈍った所に武器落とし狙いで手首に砂袋を叩きつける。落とせたけど、リアルと違いダメージほぼ無い!
若干焦りつつももう片方で間抜けな横っ面を叩きとばすと一撃で全部削れた。
なんかダメージ調整ピーキーだな。コンボダメージか?仕様変わってるな。
振り返りながらもう一人の方へ拾ったレイピアを投げつける。
そいつが持っていたのは投げ斧で、投げる直前だった。あっぶな。
俺が投げたレイピアを雑に喰らってのけ反っている。
窓際の奴は既にクロスボウを引き終っててこちらに狙いを付けている。
ボーラを投げた。
中心線を狙ったから一瞬迷う筈だ。
クルクル回さずに投げてくるとは思わなかったのか、空気を切り鳴らし縦回転で飛んだボーラは構えた手にしっかり当たり、狙いが逸れる。
紐が絡まった腕に砂鉄が当たり、挙動がブレた。これは美味しい。
こっちも一瞬止まるのだが、復帰は投げた方が早い。
絡まって垂れる砂袋を握り、くるんと顎の前を一回し、そのまま首を絞める。
藻掻いたが秒で落ちてくれた。
体力が残っているので転がってたクロスボウで止めを刺す。
立ち直った投げ斧使いは、レイピアに持ち替えて飛び掛ってきた。
クロスボウをブンブン振り回しながら戸口をあえて見るフリをする。
しっかり引っかかってよそ見してくれた。
素直だなあ。
目の前にクロスボウを投げてから膝に踵を叩きこむ。
移動困難になり、完全にリアル発狂してしまった。悲鳴を上げてレイピアを振り回すそいつに、間合いの外から室内オブジェクトのマホガニーっぽいデカく重い椅子を振り上げ、振り下ろす。
投げれば良いのに、レイピアで受けようとして半分削れた。
もう一発でダウンした。ミリ生きてるのでもう一発。
エンジンかかってきた。
向かいの屋根を見ると、一人倒れててもう一人は居なかった。
倒したのか?逃げたか?
中庭にも死体は落ちていない。
これで十二人の中で四人倒して、俺がトップだな。
この三人はグルだった。組んでる奴が居るのは気になるが、このマップだったら剣道有段者に挟まれなければそうそう負けないと思う。
現役のソルジャーとかいるのかな?
さっき隣の筐体に座ってたおっさんとかガタイは良かったが、どうなんだろう?模擬戦闘として訓練でゲームやってる兵隊は割と多い。
曲刀とかナイフ持ってる奴は要注意だな。
随分音がして目立ってしまった。
場所を移そう。
廊下は嫌な予感がするので、周囲をざっと確認して、窓から中庭に飛び降りる。
ここは二階で、下まで五メートルはあるが、アシストスーツなんて無くても、これはゲームなので体力が削れるだけで別に痛くない。
ファージ走査を全く使わないのは久々だ。
昔はゲーム内でこれが普通だったんだ。
相手の筋電位が見えず、空間把握も一人称視点。自分もファージでドーピング出来ないが、それは相手も同じだ。
チーターの多いゲームだったが、のじゃロリの前で堂々と使う猛者は流石にいないだろう。
悪戯がてら、拾った石やレンガ片を色々な所に投げ込む。
何度か良い音がしてガラスが割れたりした。けっこう拘ったマップだなあ。
てか、西洋の城塞っぽいのになんでガラス窓あるんだよ。
二階から何か投擲されたが、逃げやすいドアの隣だったのであえて入らず走り抜ける。
ドアの陰から舌打ちが聞こえた。
あからさま過ぎなんだよなあ。
ここにもペアがいるのか。
これで残り六人の内二人掴めた。
全員生き残って俺を狙ってるって事はないだろうが、その想定でいよう。
こういうMAPだと、終盤までサイレントキルとキルパクがメインの立ち回りになるが、メンタルの削り合いみたいで俺は好きではない。
どちらかというと、派手にガチるのが好きだ。
安定してポイント取りたければ小まめに移動しながら芋砂一択だが、どうも俺には合わない。
何回か狙撃されたが、出待ちだけ気を付けて派手に音をまき散らしていく。
そういや、初っ端屋根でガチってたあの二人は中々趣があったんじゃないだろうか。
もう勝者もとっくに移動してるだろうが、闘いの痕跡を確かめておいて損はない。
トラップだけ気を付けて上階から屋根に向かう。
バルコニーからしか登れないよな?
あの二人はどうやって上に行ったんだ?
隠し通路とか有ったのかな?今の俺には調べようがない。
素直にバルコニーから登っていこう。
っと思ったら、向こう側からさっきの奴らにしっかり狙われてる。
また周って初期位置戻るのも面倒だな。
「お?」
壊れた扉の陰から、サーベルを持ったフルフェイスメットがするりと出てきた。
仁王立ちで俺との距離を保っている。
屋根の上に居た奴だ。勝った方か。体力は削れてないから俺が倒した三人組のクロスボウはこいつにはヒットしていないんだな。
もしかしてあいつらの仲間だったんだろうか?
周囲の遮蔽物に美味しいポイントは無い。となると、今はソロだな。
俺が構えるのを待っているのか、出た位置からまだ動かない。
こっちにも構えなんて無い。
準備が出来ているのを示す為、革袋を掴んでいない方の重りを紐を掴んで回した。
理解したのかノシノシ近づいて来る。
間合いギリから振りかぶらずに容赦なく袈裟切り。スペースを潰してくる。
戻す刃は正眼で半歩にじり寄ってきた。
嗚呼、これは厭らしい。思わずにやけてしまう。
剣道やってる奴には隙も隙間も与えてはいけない。一瞬で料理される。
考える隙間を与えず、遊ばせてる革袋を投げた。
八双になるか、叩き落としに来てくれれば絡め捕れたんだが、下段でスルーされた。流石にあざとかったか?
垂らしたまま詰め寄る。
ここで離れたら思う壷だ。
相手も意外だったのか、雑に正眼に戻し一瞬剣先がブレた。
迷わず押し込む。
出した手に反射で飛んできた小手狙いを革袋の部分で受ける。
そうそう。打ちたくなるよな?
ヒット判定は有るが、耐久値が無くなるまで破損判定にはならない。
ボーラは紐の耐久値は低いが、革袋は割と高めに設定されている。
耐久値が低いと武器として機能しないから仕方なくこの数値なんだろうが、受けに使ってもクリティカルが出なければ剣でブッ叩かれても破損はしない。
しっかり衝撃を吸収し、ついでに刃先に紐を絡め、革袋越しに手に巻いた。
ボーラ慣れしてないなこいつ。
刃を抜こうと戻したが、それはいけない。
引っ張り合いを頑張らずに付いて行き、手で刃先をコントロールしながら間合いを詰め。
背が足りなかったがそのままメットに頭突きした。
「きゃっ?!」
女!?
声だけか?まぁ、容赦しないけど。
腹への膝から、前のめりの後頭部に皮袋を落とし、手から離れたサーベルを奪ってそのまま首を落とす。即死だ。
いやな予感がしたのでサーベルを放り横に転がる。
バシャリと床を叩く音。
更にもう一度。
居た場所の床に何か刺さった。
槍だ。
向かい合いで起き上がりながら再確認。
一人か?
「もう俺らだけだ」
にこりともせずその長身のおっさんが呟いた。
こいつ、隣の奴か。声が同じだ。
槍相手に部屋の真ん中では場所が悪すぎるので、ドアの向こうまで下がる。
しっかり詰めてきたが、扉よりこっちには来てくれなかった。
槍はな・・・。
広い所じゃ絶対勝てないんだよなあ。
ラスイチなら、捨て身で内側いけば獲れるだろうが、半分削れた状態でガチって、こいつが近接巧いと何もできずに潰される。
逃げよう。
通路を駆ける。
「っ?逃げんなごらぁ!!」
「んなもん逃げるに決まってんだろ!ばーかばーか!」
あ。投げた。
唸りを上げて槍が迫るが、そんなもの当たらん。
槍使わないならガチっても良いぞ。
向き直ってボーラの革袋を両手に一つずつ持ち構えると、更に怒って突っ込んでくる。
紐を親指に巻き、革袋を握り込み、ボクシングの構えを取ると、おっさんが踏みとどまった。
そのまま来てくれれば美味しかったのに。
腰の後ろからナイフを抜いたおっさんに併せて、両手をゆるりと移動させる。
多分、ボーラをこういう使い方する奴と闘うのはこれが初めてだろう。
俺はゲームでも現実でも、綺麗なガチり方はしない。
勝てば良かろう主義だ。
達人同士だと阿吽の呼吸で綺麗に試合ったりするが、茶番に拘ると素人のラッキーパンチが読めなかったりする。
相手をどれだけ読み、自分をどれだけ読ませないか。
殺し屋とかはそれが全部理解できて相手をコントロールしていたが、俺はまだあそこまでの域に届く気がしない。
空気読んで槍捨ててくれたおっさんには感謝しかない。
現に。
おっさんは口調はオコだが、口は笑っていた。
「サルベージャーのクセに。ヤるな」
「ゲームは得意だ」
ナイフをヌルヌル回しながら詰め寄ってくる。
「ランカー舐めるなよ!」
俺はやっぱゲームが好きだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます