第157話 六日町の城まで

 六日町にはある程度北上して東から入る事になった。

 警戒はされているが、市街地は敵対勢力で埋め尽くされている。

 鷲宮の三男を取り返しに来る前提で防衛線が南と西に厚く張られていた。


 事前に飛ばしていたスフィアで全体図を把握。地形図は既に読み込んでいたが、細かいマッピングを開始、状況を更新していく。


 坂戸城跡は歓楽街として開発されていて、その城下には川沿いに有名旅館が軒を並べている。

 このナチュラリストの文化圏でも、この観光地染みた環境が維持されているのが驚きだ。

 貴族と奴隷、奪う側と奪われる側しかいない中東みたいな無法地帯だと思っていた。


 立地的には桐生に似ているが、こっちはかなり繁栄している。

 いや。

 繫栄していた。


 歴史ある外観の旅館たちは爆撃に曝されたらしく見る影もなく、まだ所々に煙が燻っている。

 死んだ後も冒涜された死体がこれ見よがしに野ざらしだ。

 下卑た笑いや悲鳴が絶え間なく木霊し、散発的に銃声も鳴っている。

 戦闘の音ではない。

 無抵抗の奴を殺しているんだ。


”時間は有ったのに、完全には制圧出来ていないな”


 カンガルーは中継を確認しながら首を捻っている。


”鷲宮の倅が溜めこんでいた武器を町内会に流したんじゃろ。全て平らげるのは手間じゃろうて”


 


 霧の中、ギリ目視出来る位置まで近づいた俺らは、迷彩服姿の三男の執事と黒コートたちに合流した。イケオジは、首に巻いた黒い包帯に血が滲んで固まった跡がある。


”作戦の中止はなさいましたか?”


 指示されたポイントで木陰に潜んでいたイケオジは、回線を繋いだ途端、開口一番聞いてきた。


”作戦は続行だ。現時点での支障は無い”


”それは・・・、賭けになりますぞ?”


”追い込みは細心の注意を払う。烏合の誘導に違和感は出ないだろう”


”代行殿が口を割らなければの話です”


”その為にあっしが出張ってやったのじゃ”


”舞原様。ご足労。痛み入ります”


”ん。高くつくぞ?”


”心得ております”


 情報漏れ防ぎたいから一刻も早くタンクを助けるんじゃないのか?

 なんか商談始まりそうなので、口は挟ませてもらおう。


”時は金なりじゃないのか?講釈の応酬とどっちのが儲かるんだ?”


 イケオジとのじゃロリは二人して俺を見た後、顔を見合わせた。


”社交辞令で御座います”


”あやつは頭の中どーなっとるのか誰も分からんからのぅ。口を割ってもそう簡単には理解できまい。シシシ”


 プルプル震えてるカンガルーが乱射し出す前に話を進めようぜ。


”どこにいるのかアタリは付けているのか?”


 イケオジは目の前にある、城の形をした一番大きい旅館を指した。


”最上階の一角に。外と中から二度ほど突入しましたが、完全に塞がれました”


 これは酷い。


”手勢が着くのは何時だ?”


そう聞いたカンガルーは赤鬼と単眼鏡をシェアしつつ、俺が景色に併せて展開したワイヤーフレームの地形図にマーカーをポイントしていく。

 俺には敵味方の区別が付かないから凄く助かる。


”本家に足止めを喰らっておりまして。明日の朝出発・・・”


”間に合わないか”


”は”


 イケオジはホントに悔しそうだ。


”二度目は目の前まで行きましたが、補完槽が破壊されており、壁に張り付けになっておられました。外すのに手間取り部下も・・・”


”いやもういい。おっさん。後はまかせろ”


 バキバキと歯ぎしりするイケオジは芝居している様には見えない。


”なんじゃ?お主に任せて良いのか?”


 お前は一体、何をしに来たんだ?


”遊んでいたいんなら。俺一人でやる”


 挑発したら悪そうに笑った。


”祭りじゃ。踊らにゃ損だでの”


”勝手に盛り上がるな。二人は後方待機だ”


 いや。そうは言いますがね。カンガルーさん。


”なら、どう攻略するんだ?”


 実質、天守閣に立て籠もられてるのと同じだ。

 外堀も申し訳程度しかない所詮旅館なので、殲滅するだけなら燃やせば済む話だが、敵味方入り乱れて潜伏してる街中突っ切って、城登って救出、連れて逃げるとか。うん。無理だ。


”セオリー通りだ。二方面から射撃してその裏から潜入。索敵と同時進行で各階ごとに制圧していく”


 数で押し込まれたら指咥えて死ぬしかない。完全制圧と維持をするには人が少なすぎる。

 逃げるだけなら、俺とロリがいればなんとかなるだろうが。


”覆ってるファージガードは頑丈だぞ?俺らが差し込めば一発でバレる”


 建物内部は完全にファージが弾かれている。

 たぶん、ざっくりとしか感じ取れないが、中に入ったら体外でのファージ誘導は難しいだろう。


”良いではないか。わっしが表に出よう”


”カタクラフトが居ないだろ。貴様だけ出張って名乗りを上げても、デコイとして使えるの秒単位だ”


”わっしに銃口を向けるリスクを正確に把握しとるのはお前さんだけだいの”


”わたしは人殺しの道具を振りかざしてヘラヘラする気は無い”


 気が合うな。

 俺も武器を向けてポーズして二ヤついてる奴は虫唾が走る。

 口喧嘩が始まりそうなので無理矢理挟んでいく。


”とりあえず中を調べるぞ。合図したら天守閣狙って銃撃して欲しいんだが”


”おのこは何をするんかいの?”


”オイガキやめろ。スフィア近づけたら気付かれる”


 ピアス君まで口を挟んできた。


”上空の無人機からワームを落とす。撃った破片と勘違いすれば細かくチェックはしない筈だ。只の旅館に電磁波探査は使ってないだろ?”


 ロリに聞いたらイケオジが応えた。


”ファージ誘導のみで御座います”


 なら楽勝だ。


”スフィアは電気に切り替えて転がして近づける。もう日も暮れてきたし、流石に気付かないだろ”


”陽動は私の部下に任せましょう。川沿いの民家から撃たせます。最上階で宜しいか?”


 こいつらが年齢とか外見で話を聞かなくなる奴らじゃなくて良かった。


”頼む。無線はしたくない。時間を合わせよう”


”ご随意に。選定しておきます。準備出来たらお声がけを”


 イケオジは黒コートの部下二人と一緒に少し離れて、地図と睨めっこしながら額を突き合わせて短距離通信し出した。


”仮にワームで中が確かめられたとして、どうするつもりだ”


 カンガルーが皆を代表して聞いてきた。


”誰がどこで何をしているか分かれば、それは戦場において勝ちって言うんだ”


 戦術なんて、見てから決めれば良い。

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