第156話 新たな決意

「兼ねの時成じゃ。歩きながら話そうかの?」


 言いたい事は分かるが全然違う軍服エルフは、カンガルーに対して両手を広げている。


「何だ?こんな所で肩車とか。的になりたいのか?」


「ステルスくらいかけるわい。嫌ならおのこにお姫様抱っこじゃ」


 周り敵ばっかの道の無い山で女の子抱っこして歩き回るのは。

 控えめに言ってもエルフ諸共転げ落ちて死ぬ未来しかない。

 こいつのステルス能力はどの程度なんだ?

 俺ら全員隠ぺい出来るのか?


 ああ。


 こいつが歩ける訳無いし。

 足跡までは誤魔化せないって事か?

 ここまではどうやって来たんだろう?

 後ろの陰っぽいのに背負ってもらってたんかな?


「ほれ」


 カンガルーの肩に乗ったご機嫌のじゃロリは俺を見て手を差し出す。

 ファージが菌糸状になって手からモサッと伸びている。

 良いのか?繋いで。

 カンガルーを見たら無挙動で俺を見ている。がっつりモニタリングされてるのか。ご愁傷様。


「カウンターは起動したままで良いぞ?」


「え?いや」


 流石にそれは。


「あっし自ら対策ソフトのテスターになると言っとるんじゃ。御託は要らん」


 確かに。こいつがお墨付きをくれれば今回されるであろうネット攻撃は乗り切れるだろう。

 でも、やってしまうと。今後、ナチュラリストたちに元ネタがバレた状態でネット合戦する事になる。それは、都市圏の立場として出来ない。

 こいつに渡してしまったら、大宮の対策ソフトは、新しく作り直さなければならない。


「もったいぶる程崇高なソースコードかいの?」


「駄目だ。出来ない」


「強情じゃのぅ。管理者としては合格じゃが、交渉者としては問題あるの」


 言ってカンガルーのポートからデータを送ってきた。


「こんな感じであろ?」


「なっ?!」


 圧縮されてるが。

 開くまでもない。

 親の顔より見た。俺が良く使っていた形式とサイズだ。

 大宮の都市防衛に関するセキュリティソフトの基幹データの圧縮版。

 恐る恐る解凍してみると、極々最近の、最新のモノだ。最終更新が三日前になってる。ふざけんなレベルだ。

 何でこいつがこれを?!

 それに、この癖は。


 サワグチ元気なんだな。

 ちょっとホロリときたが顔には絶対に出せない。


「あっしは何でも知っとるんじゃ」


 こいつは、ここで殺しておくべきじゃないのか?


「シシシ。いい目をするのぅ」


「日暮れには着く。それまでに使えるようにしておけ」


 危ない雰囲気に成りかけた処でカンガルーが口を挟んだ。

 さっきのお返しかな?


「相変らず空気を読まぬ奴よ」


 残念そうなのじゃロリ。


「貴様に言われたくないな」


「それもそうじゃの」


 しれっと返すこいつは、カンガルーをイラッとさせる天才だと思う。

 とりあえず、データは流そう。

 基幹データがまるっと漏れてるなら、どの道大宮のは作り直さないと駄目だ。

 入手経路も塞がないとだな。


「基本はこの流れで。上から対応された順にパッチ当ててく予定でいた」


「おうおうおう。色々考えとるのぅ」


 パッと見で理解できるらしく、同時進行で色々な箇所に書き足していっている。


 ああ。

 こいつにはソフトで勝てる気がしない。

 スペックが違い過ぎる。

 スミレさんとか貝塚レベルだ。


「ああ。そうじゃ。街は手勢に支配されとる。向かってくる奴らは家族を人質に取られた奴らじゃ。死ぬ気で来る。手心は加えるでないぞ?」


「了解」


 金持が淡々と返事した。

 皆、索敵しつつノーコメントで淡々と登っている。

 こいつらは、どうせそんな事だろう想定していた筈だ。

 俺に聞かせたのか。


 あ。ズルッと落ち葉で滑って。・・・やらかした。


「はあ」


 気を抜いた訳では無いが、崩れた斜面で滑ってしまって、靴跡ががっつり残った。さっきからファージで誘導して一歩一歩消していたのだが、これは消すのが面倒臭い。

 思わず溜息をついてしまった。

 ほんとクソだ。

 この世界も、オレも。


「何だよ」


 苦り切った俺の顔を見て嬉しがるのかと思ったら、のじゃロリは無表情に観察してきていてキモい。

 且つ、テスターしつつ周囲の索敵とステルス処理も俺とは別でやっていて、口には出してこないが、スフィアのネット構築も勘づいているだろうか。

 付近に展開しているのには気付かれてると思った方が良い。

 自己嫌悪に陥る。

 俺がイラついているのに、この差は何だ?

 こいつは、本当に、俺と同じ祖先なのか?

 二百六十年で人はここまでいくのか?

 外見は可愛いコスプレ幼女なのに、酸いも甘いも知り尽くした老生した人格かと思いきや、好戦的に悪戯と策略を愉しんで謳歌している気がする。

 こういう奴は、戦場に豪華なティーセット持ち出して鼻歌歌いながら平気で紅茶でもキメるんだろうな。


 東北にはこんなのがゴロゴロしているのだろうか?

 ここまでの頭があって、何故人喰いで人類を破滅に追い込んでいくのか理解に苦しむ。何故そんな事をしたがるんだ?


 まだ覗き込んでいる。


「何を見ている」


 カンガルーも俺を見ていた。

 隠しているが、瞳の奥が心配そうだ。

 いや。問題無い。

 俺は迷わない。迷ってなんかいない。

 銃口を突きつけ合ってから、自己正当化の為にちんたら禅問答し始める昔のヒーローとは違う。


 問答無用。

 敵は殺す。

 敵は、制圧する。

 人喰いは。

 許さない。

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