第153話 お前のような
”大体、リソースは出しつくしましたよ”
大体ね。
「ポッと出のボンボンがそう簡単に信用されるなんておもっちゃいない」
”ここでもその設定でいくんですか?”
現在、基盤管理者の浜尻の所に押しかけて、今後するワルサの相談だ。
今日の夜中までに今回使うセキュリティ対策ソフトと戦闘ソフトの大まかな部分を作っておかなければならない。
戦闘ソフトに関しては、カンガルーからベータ版を貰っていて、実戦で俺がインスコしてテスターになる。
既に調整かけ始めているが、あまりの忙しさに嬉しすぎて涙も出ない。
カンガルーは結構予定が詰まっているそうで別行動、赤鬼と帽子が引率だった。
”戦闘中の配置変化や行程に関しては別にいらないですよね?”
いやいや。いるよ!
「奴らのやり口とかこっちの動きの癖とかもしっかり知っておきたいんだが」
”以前戦闘履歴はログで送りましたよ”
「作戦ごとの配置変更過程のログは確かにもらったが、奴らの作戦理念みたいのが透けて見えるのは一つも無かったぞ」
「あいつらにそんなも無ぇよ」
フルフェイスマスクをした赤鬼が舌打ちをした。くぐもって響いてないのが気に入らないらしく、何回か打ち直している。
「絶対勝てる人数でこっそり近づいて、一気に狩る。近づく前にバレたら半壊するまで一斉突撃。奴らはそれ以外やらない」
「苦しめるのは好きだが、戦闘は素直」
それは、お前ら見てれば分かる。
アレで渡り合ってこれたんだからな。
「寄合衆の人員配置はナチュラリストが管理しているのか?」
”今回ターゲットとなっているみなかみ方面部隊の管理は、上杉が取り仕切っています”
鷲宮がお偉いさんの名家、それにくっ付いてる部下たちが上杉方の奴ら、んでそいつらがさらに寄合衆を統括してるんだっけ。
なんか昔の車産業みたいだな。
「上杉ってどんな奴らなんだ?」
「鷲宮の狗だ。なんでもヤる奴らだ」
”今回落とす施設には、エルフの人数自体は五十人ですが、上杉のブレーンが詰めてる筈です。対外利益の八割があそこですから”
食も金も一極集中か。
数年でよく纏めたな。
あの三男は優秀だ。
「俺が現地に行って、DOSアタックで全部片付ける訳にはいかないのか?どうせ最後まで後くっついて行くんだろ?」
”あなたが死んだら代わりがいないのですよ?”
バカじゃないの?みたいな感じで言われた。
”ゲームじゃないんですから。分別付けて下さい”
あ、はい。
”それに、爵位持ちエルフの家系はそのほとんどが体内ファージがゼロです。残りも基準値以下の個体が多いので、DOSアタック含め、ファージによる侵入は難しいでしょう”
マジで!?
意外だ。
俺が都市圏で度々受けてた攻撃はどこがやってたんだろう?
手ごたえは有ったが、特定は出来なかったんだよなあ。
唯一特定できたのは牧場の小人でナチュラリストではなかったし。
ナチュラリスト同士の殺し合いでも体内ファージは弱点になるのかな。
確かに、接続が外部機器なら、何されようが接続切ればノーダメだもんな。
”大宮で殺したのでは?”
「あの時はそんなの見てなかった。接続も危険だったので、ほぼオフラインでやってた」
「なんだ。俺らと同じじゃんか。都市圏も大した事ねえな」
誤解が多いが、弁明も超面倒なので黙っておく。
”そんな訳で、エルフへのDOSアタックは非常に手間がかかります”
のじゃロリが三男と俺がガチっても意味ないとか言ってたが、そういう事か。
だから、酸欠攻撃がメインになってるのか。
相手を即無力化するなら、脳血管に血栓作ったり、脳内麻薬精製の方が確実で早いのに、やらないのはそういう理由があったんだな。
あの鷲宮三男の執事がファージで物理浸食してきたのは、それが一番勝負が付きやすいからだったんだ。
ああ・・・。俺あん時、体内のファージ分布ログ盗られたかな?
一瞬とはいえ、接続したのに盗まれてないというのは楽観的過ぎるか。
あいつらと事を構える時は、要、注意だな。
お、そうだ。
「ファージの霧と同じ感じで、気体管理のヒートマップみたいのも作っとくか?有ると違うだろ。てかもう有るのか?」
”更新内容に、付近の低酸素気体を検知する仕組みは入れてありますが、マップで視覚化は考えてなかったですね。確かに、分かりやすいですが”
「今回に限り、俺と浜尻の全力サポートだからハッキングで誤情報バラまかれる心配は無い。有りだと思う」
”・・・お願いできますか?”
「数値管理のソース渡せ。吸気可否だけなら多分直ぐ出来る」
貰ったソースをざっくり見たが、ファージ経由ではなく、スフィアから照射出来るレーザー光のスペクトル分析を使った気体成分表示を端末毎に可視化させる仕組みだった。
ここまで出来てるなら後は簡単だ。
ちょちょいのちょいだ。
「ちとスフィア出して良いか?」
”もう出来たのですか?こちらで何個か出します。腰のポーチは開けないで下さい。リンクさせますよ?”
「む」
”あら”
「おい。俺にもくれよ!」
「あたしも」
うーん。
「ひょーっ!!こうなってんのか!」
この脳缶、空調管理の鬼だ。
この広いサーバールームの中。入口のハッチからこの脳缶までの通路、それも腰から上だけ吸気可能だ。
「これ、マスク無しで転んだらどうなるんだ?」
”しゃがんでも死にますね。カモッチに何度も注意されたのでは?”
確かに注意されたが、こういう理由だとは知らなかった。
変な動きしたらレーザーで焼き殺されるのかとか思ってた。
あ。
「カモッチって言うんだ?」
”・・・”
「カモッチゃんな。親しくない奴に言われると殴り潰しにくるぞ」
「青柳はオフだとそう呼ぶの?」
「何で俺があいつと親しくしなきゃなんねんだよ!」
金持可哀そう。
「アオヤギは友達がいない」
可哀そうはこいつだった。
「てめえに言われたくねぇし!」
ギャーギャー始まった、放っておこう。
まぁいいや。後で何か負けそうになった時に弄ろう。
”少し見ずらいし、色に関しては、変更出来た方が良い気がします”
「いや。数値表示の上、色は統一した方が良い。別にグリッド表示でも良いし。毒と無毒が個人ごとに違う色だとトラブルの元だ。ヤギちゃんそろそろ黙れ。現場の意見は?」
ギョッとしたヤギちゃんは何かを言いかけたままワナワナしている。
「真夜中とか明かり無しのトンネルでも即断できる識別方法が良い。視覚を邪魔しないのは最低条件」
帽子がスルーして応えた。
確かに。
”距離感統一したいので、マップサイズも何種類かで固定した方が良いですね”
「マーキングはどうやっている?」
”外回りにはマーカー持ってもらっています”
「いや、隊員じゃなくて。敵方の。とか色々」
”というと?”
「いや、あいつら赤外線カメラでも見えねえし。戦闘中はスコープ含め、光物は全部網巻いてやがる。全員ギリースーツだぞ」
「銃の熱は見えるだろ?」
「そういうバカは直ぐ殺せるけどよ。大抵の奴は撃ったら隠す。それに、赤外線だけだと気付かれた時に頻繁にフラッシュされるから目がめっさ疲れる」
「ふふん」
俺は今、ドヤって良い。
「もったいぶるなよ!」
やっぱ使い道は無限だな。
ケイ素生物用の索敵アプリ、アンテナとして使うのは自分の体以外も使用可能だ。今回は霧も、体表面も、スフィアも使えるので多角的にサーチできる。普通のソナーと違ってサーチ用の波は出さないから相手には気付かれようがない。
ギリーだろうが量子ステルスだろうが、動いて音波が出れば丸裸になる。
という訳で、起動。
「ピコン」
言って、青柳を指差し、マーカーを付けてシルエットも表示させる。
「なに?これ?!」
帽子は性能に気付いたようだ。
「一度マーカー付ければ外すのはほぼ無理だ」
方法はあるが、ここで言う気は無い。
「こんなの。反則」
「え?何?忌避剤は?」
ゴブリンは分かっていないな。
「煙幕でファージ弾いても意味は無い。全く動かなかったり、消音ステルスしてればマーカー付けられないが、そういうのは違和感出るから逆に炙り出してグレネード投げてやればいい」
それに、作戦時間中に対処出来る奴が出てくるとは思えない。
「消音ステルスなんてやる成金趣味な奴、こっちには居ない」
だろうな。日帰りじゃないとバッテリーが持たない。
「もう。こいつ一人でいんじゃないかな?」
ゴブリンが半眼で白目を向いているが、俺が前に出て良いのか?
「俺の存在はナチュラリストたちにバレないようにするんだろ?」
舞原ののじゃロリが気が変わらない事を期待したい。
「セキュリティ管理がスリーパー一人だなんて上杉も予想出来ない。エルフ共目の色を変えて管理サーバー探す筈。愉しみ」
「浜尻先生あっての物種だ、そこんとこ宜しく」
”そうだ。セキュリティ対策の更新始めますよ”
「オイオイ。俺らと戦闘データの解析もするんだるぉ?」
「同時は無理。並列思考は出来ないんだ」
帽子がしょんぼりしている。
「スリーパーなのに」
一般人に無茶言うな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます