第152話 計画通りとは

 一旦綺麗になってから十二人で、あのポリグラフした部屋に又集まった。

 今回は、搬送物と一緒とはいえエレベーターを使えたので、移動は楽だった。


「もう身をもって体験していると思うが、攻撃面も防御面も、わたしたちは素直過ぎる」


 ピアス兄ちゃんが不貞腐れている。


「基盤管理者が出来てからおかしくなったんだ」


「そうだな」


「姉御は知ってて言う事聞いてたのかよ!」


「そうだ」


 室内の怒りのボルテージが増していく。

 相変わらず雰囲気が悪い職場だ。


「皆、今日までよく耐えた。だが、今日でそれも終わりだ」


 何を言いだすのかと、全員がカンガルーを見る。


「これまで使っていた寄合衆向けの幼稚なドクトリンは破棄し、更新する。マイバルも気づいてはいるだろうが、どこまで刷新するかは未知数な筈だ」


 ああ。


「古臭いウィルス対策ソフトはこの魔法使い様が監修に入り、最新のモノにする。戦術や戦闘術は最終日にわたし準拠のやり方をデータリンクで履修する」


 全員を見渡したカンガルーは一息ついた。


「我々の更新は、エルフの想像を一瞬だけ、一回だけ、上回るだろう。だが、それで十分だ」


 ずっと、御しやすい狗だと思わせていたのか。

 今まで無学のフリして被った被害は帳消しに出来るのか?


「四日間かけて寄合衆追い込みを行う。それまでに」


 俺の肩を叩く。


「ハッキングを弾きつつ、こいつを殺せるくらいになれ。ベンチマーク通せたソフトは戦闘員全員に配布し、最終作戦時に使う。敵は寄合衆だけではないぞ?」


 ん?


「ん?」


 思わずカンガルーの顔を見た。

 頼んだぜ。みたいな顔で気持ちよく笑っているが、目の奥に悪戯が成功した悪ガキのニオイがかんじられる。


「そんな。付け焼刃で」


 反論はさせて頂こう。


「全員、基礎は出来上がってる。メンタルも十分。知らないだけだ」


「第一、展開してる全員へのハッキング対策なんて、ナチュラリスト相手じゃリアルタイム更新しないと」


「やってくれ」


 無理です。


「基盤管理者もリソースを割く。衛星も使える」


 なん・・・、だと・・・。


「フォオオオオオオオッ!!」


 ピアス君が両拳を固めて叫び出した。

 奇声を上げる周りの筋肉たちと手を叩き合って胸をぶつけ合っている。




 直ぐに共有化のサイボーグ手術をするという事で、兄ちゃんたちは出ていった。


 二百人相手に追い込み漁するだけだと思っていた。

 煮え湯を飲まされてきた食人族を殺して溜飲を下げるとかそういうレベルの話ではなくなっている。

 カンガルーは、俺が誰だか分かってからずっとこうするつもりだったのか?


 確かに、俺がいた二ノ宮の科学技術は都市圏で最先端だろう。

 大宮の電子防衛でソフト面も担っていたので、電子攻撃対策更新にどっぷり漬かっていた。そこそこ出来る自信はある。

 でもあれから二カ月経った。電子戦のトレンドで二カ月経過は長い。当時の知識は既に過去の遺物だ。

 ファージ誘導と嫌がらせの権化なナチュラリスト様にひよっこの俺程度でガチバトルできるだろうか?

 未知のもの、最新のものに対抗出来るか、やってみなければ分からないか。


 それに、俺流の対策やったら俺が誰だか癖でバレる。

 ナチュラリストは対応して動くだろうし、大宮にも伝わるだろう。

 そしたら、俺はどうなる?


 もう一度カンガルーを見た。


「カイヅカに話を取り付けてある。これ自体は、三年前に浜尻が管理者に就任してから内内で進んでいた話だ」


 貝塚!?三年前から?貝塚の衛星使うのか?


「待て。追い付かない」


 カンガルーがドヤ顔している。


「九十九里の代理会社の内の一つを通して貝塚とコンタクトをしていたのは事実だ。青森の件の顛末も、ノコノコ一人でハイキングに来たのも、わたしの想定外だったがな」


 こんだけ鋼鉄作れる近所を貝塚だったら放って置かないのは想像ついたけど。


「もしかして、青森の上陸に許可出たのって?」


「あの後確認したが、わたしらを通してマイバルから院に働きかけたからだ。表向きは別の理由だがな」


 そんな事。ある?


「下北半島揚陸作戦の当事者で、ナツメコ様とも接点が有って、且つスリーパーだなんて。話が出来過ぎてわたしも追い付かなかった。百パーセント罠だと。あの時の気持ちが分かるか?」


「豚に追われてノコノコやって来るしな」


 腕を組んだ赤鬼がニヤニヤして俺の顔を覗き込んだ。


「あん時ボウズが喰われてたら俺らは貝塚に炭田ごと消し炭にされてたぜ」


「貝塚は俺がここに居るのを知っているのか?」


 カンガルーは言うのを少しだけ迷ったみたいだ。


「ああ」


「そうか」


「何も聞かれなかったし。何も言われなかった」


 一番怖いな。


「四日後、午前三時より貝塚所有の衛星使用の許可は下りている。全員へのリンクは工場襲撃までの二時間で終わらせる。浜尻と全兵士に、リョウマ殿を中継してハシモト重工の輸送システムをインポートする。あいつらは上杉の全兵站を担っている。在庫も全て把握している筈だ」


 全ての食い物を奪うのか。


「そんなに上手くいくのか?」


「寄合衆は所詮、烏合の衆だ。本部にお伺いたてなきゃ大規模に動けねぇ。食い物無きゃ、我慢できなくなって全員で押しかける。これまでにも天候不良時には何度もあった」


「こっちにヘイトが来ないのか?」


「俺らを殺して喰うのは一苦労だ。面倒を嫌う。配給は、送られてくるのを捌くだけで楽だからな」


 マテ。


「兵站て、食糧は人かよ」


「主食はな」


 寄合衆全員が米の代わりに人喰ってるのか。


「三万人とかいるんだっけ?」


「今回相手する寄合衆は鷲宮傘下、上杉方指揮下の総勢七千人だ。施設管理者たちは五十人程度だろう」


 七千人の人喰いを維持する為に何をやっているのか。

 考えたくも無い。


「食糧になっている人を全部殺すのか」


 ゴブリンが溜息を吐いた。


「おい。スリーパー。勘違いするなよ?奴らが出荷してるのは人の形をしているだけで、何の教育もされていない家畜だ。生まれた時点で既に脳萎縮を受けててホルモン剤も大量投与されてる。再教育は不可能だ。喰われる前に殺すのが情けだ」


 自分で言っててプルプル怒り出した。


「それでも。俺らを殺して喰う方が楽しいから、その為だけに捕虜と少数部落民を集めて労働キャンプを運営しているんだ」


 昔、荒廃した世界設定のゲームとかで、人肉を食べる奴らが出てくるゲームや映画が少なからずあった。

 ぶっちゃけ、インパクトはあるけど、非効率だよなあ。

 とか思っていたが、二百六十年ぶりに起きた世界では当たり前になってしまっている。

 今、金持にもらった資料によると。ハシモト重工では、大昔にナチュラリストによって食肉用にデザインされたDNAを使い、出生から十四カ月で出荷できる一括管理をしていると言う。

 工場にはその基幹DNAが保存されているらしく、その破壊も主目的の一つだ。 


「兵隊となる寄合衆の増加に伴い、四年前にシステムの効率化を提案したのが、こないだ来たワシミヤの三男とサナモトがやっているハシモト重工だ。食肉加工場を一つに集約して、大幅なコストダウンとなった」


 人は、一日食べなきゃ力が出ない。

 三日食べなきゃ動けない。


「潰しやすくする為に一つに纏めたのか」


 頷くカンガルー。


「実際、盗賊まがいの小さい業者共は儲からなくて淘汰された。ノウハウはもうあそこにしかない。他の食品の配送も一手に引き受けてるし、あそこを潰せば、頼りっきりの寄合衆は自壊するだろう」


「その後の周辺への被害とか、労働キャンプの扱いはどうなる?」


 以前の牧場の事もあったし、聞いてみる。


「キャンプの奴らは自分の利益しか考えない。キャンプの天然和人は高価だ。餌に限りがあると分かれば必ず華族相手の保身に走る。個別対処していく時間は十分ある。それに、ここ以外のコロニーも、自衛出来ない小さな所は既に寄合衆のキャンプ地になっている」


「壊さずに、占拠するんじゃ駄目なのか?」


「防衛用の人員もコストもかけられない。人肉の加工ノウハウなど、わたしらには必要無い」


 ごもっとも。


「貴族がキャンプを守るって話になったら?」


「その大きい声を出せないように寄合衆を潰すんだ」


 そこで繋がるのか。


「俺はどう動けば良い?」


「四日間、わたしらと一緒に追い込み漁をする。そこで奴らの習性とか思考を認識し、戦闘用ソフトの調整をしてもらう。最終日までに何人かエルフも潰す予定だ。その際、電子戦対策ソフトも更新していく」


 そう上手くいくかなぁ。


「ソフト面でリョウマ殿に勝てる奴はそうそういないだろう。擦り合わせが出来れば、あとはうちらの兵隊を一人ひとり守る電力がどれだけ確保出来るかの話になってくる。バッテリー持たせるくらいなら弾と水持たせたいから、ここから融通する」


「売電するほどあるんだっけ?」


「十二人十二チーム、オペレーター十二人。総勢百五十六人分。フル回転させても、作戦時は売電地域に輪番停電させる事になるだろう。直前まで通知しないけどな」


 十二カ所一斉襲撃か。


「大丈夫なのか?」


「顧客に関しては、送電線をやられることはよくあるから、予備電源はどこのコロニーも持っている。落ち着いたら保障もする予定だ」


 今日中に物理鯖立てて繋いでみるか。

 ハマジリなら最近のここいらのトレンド知ってるかな?


「夜間行軍も兼ねて、わたしの隊は今日の二十四時から作戦開始だ。スフィアの連動も試してもらうぞ」


「スフィアも全員分あんの?!」


 幾らかけたんだ。


「全員分というか、全域分だ。カイヅカの回線はハシモト重工との物流関連の通信メインだ。作戦地域全域では地上のみのレーザー通信網を構築する予定だ」


 物流把握用と作戦用、回線別口かよ。気が遠くなる力技だ。

 想像がつかない。


「貝塚を信用しない訳では無いが、回線全部おんぶ抱っこでは背中が気になるからな。通信手段は気付かれるだろうが・・・、エルフ共も、あたしらの相手しながらスフィアの捜索と破壊は骨が折れるだろう」


 まぁなー。

 回線全部頼ったら貝塚にも真本にも作戦ダダ洩れだし。首根っこ掴まれたまま前線出るのは気が気じゃないだろう。

 鷲宮のネット接続自体は貝塚通した方が逆に安心だろうしな。

 よく考えている。


「とりあえず、寝る前に下行って擦り合わせしたいんだが」


「飯を食った後連れて行く予定だ」


 計画通りって事か。


 何手先まで決まってるんだろうか。

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