第151話 フェイント
作戦自体は納得いくモノだった。
だが、色々とおかしい。
「何で現場に出る人員が十二人だけなんだよ」
「相手はエルフではない。低能の人喰いだ。皆殺しが目的ではないからこれで十分だ」
教育って大事だよな。
こっち来てホントそう思う。
「上杉が放流してるコミュニティが判明したから、そこまで押し込んで共食いさせる。抑えきれなくて閉め出した処を殲滅する」
そう上手くいくのか?
「上手くいかなかったら?」
「誘導自体はそう手間はかからないだろう。押し込んだ寄合衆をどう扱うかは五分五分だ。最悪、手間だが施設ごと焼き落とす」
中は人喰い育てる牧場になってるのか。
「洗脳はしているが、所詮人喰いだ。餌がなくなれば管理者だろうが何だろうが喰いつくすだろう」
「管理者たちがおめおめと喰われるのか?」
「判断する前に警備に穴を開け、牧場を開放する予定だ」
普通に攻めるより遥かに楽だけど、上手くいく気がしない。
「安心しろ、まだやった事のない作戦だ。それに、下で考えた。リョウマ殿のアクセス能力も織り込み済みの作戦だ」
そうは言うけど。
「ナチュラリスト側に俺がいるのバレないよう立ち回るんだろ?」
下で考えたって事は、浜尻がシミュレーションした結果ゴーサイン出たって事だ。
「そうだな」
でも、ムリゲー感半端ない。
「確実に落とす。管理者は一人も逃さない」
「だからって何でこんな少人数なんだ?」
自分で言ってみて、違和感に気付いた。
俺の存在がバレる前に全てのかたを付けるつもりだ。
あのタンクたちにリークしてもらって兵站把握して、全域で一気にヤるつもりなんだ。
四日後、上手くいったら一気に事が動いていく。
「いや。もういい。言われたら俺は動くだけだ」
「そうだ。それで良い」
カンガルーは満足そうに頷いた。
「オイ姉御!聞いてないぞ!何で九十九里のボンボンがいるんだ!」
当然のことながら、俺が作戦に参加する事は伝えてなかった。
いやもう。こういうのいいから。
どうせ殴るんだろ?こいつら殴るの大好きだからな。
みなかみ口で顔合わせという事で、集合する事になったのだが、俺がここに来たときに綺麗な挨拶したあいつらだった。
外回りには慣れてる奴らだって話だけど。
「こいつは下で踊らせとけば良いんだ!担当は一番多いんだろ?!二百人相手に守れねえぞ!」
あ。そういう。
「真っ暗な森の中でギリー着てワラワラ向かってくるジャンキーの人喰いが二百人だぞ?」
それって、俺が居ようが居まいが無理なんじゃないかな?
ウサギ撃ち銃持ってって対処できる気がしない。
数は力だ。
ファージの霧が発生していたら、俺でも無力化は厳しいだろう。
「公にはできないが、この方は魔法使いだ。今回の作戦では後詰めをして頂く」
ごっつい兄ちゃんたちは俺の靴を見て納得している。
なんだろう、個人的には納得いかない。
「ロビイストはエルフ様だったか。現地で泣きわめいたりションベン漏らしたりしないんだろうな?」
「俺は。一応、パニックになった事はそんなに無い」
ナチュラリストの広報に思われるのは心外だが、今の立場で否定も肯定もする気は無い。
「そりゃ、俺らだって、耳の長さで差別はしない。あのステップはソウルにきた」
噛みついてきたボスっぽいピアスの兄ちゃんは、周囲の奴らを見渡すと、肩にかけていた銃を隣の奴に渡し、俺に近づいてきた。
おお。やる気満々だな。若いって良いな!
片足首のサイボーグ化をしているし、腕の神経も弄っている。
両方起動したな。まともに喰らったらミンチだ。
目のハッキング対策も起動している。
別にそこまでしなくとも。
てか、ナチュラリスト相手にそこまで分かりやすい事ちんたらやってたら、既に死んでる気がするんだが。
カンガルーを見たら、肩を竦めた。
それに気付いた兄ちゃんがいきり立つ。
距離五歩を真っ直ぐ詰めて、迷いのないレバーへの右フック。
いや、えー?どーすんのこれ。
フェイントも何もない。勘ぐってしまうくらい素直な、愚直な軌道だ。
ガッチガチに力が入ってるから見た目ほど威力は無いが、このガタイからの渾身が当たったら困る。
避けるだけにするかな。
次に何が有るかも気になるし。
相手の最終移動位置を予測してステップを合わせる。殴りに来る右フックの腕に最小限の動きで腹を沿わせ、間合いに入って行く。単発だけなら、払うまでもない。
ポッケに両手も入れておく。
腹に入れていたマガジンが掠ってジャケットに穴を開けながらサイドバッグごとすっ飛んだが、気にしない。やっぱバカ力だな。
頭二つデカいピアス顔を見上げ、睨みつける。
俺が避けたのにびっくりして目を見開いている。
「先方に失礼だろ。やるなら全員でかかれ」
おい。そこのカンガルー。
「スーツの力だろ!成金で強くなった気に」
瞬間沸騰したピアス兄ちゃんはカンガルーに怒鳴るが。
「アシスト切ったぞ?脱いだ方がいいか?」
カッとした兄ちゃんが首を掴んで持ち上げようとしたので、金的にしっかり膝を入れさせてもらった。喉にも目にも来なかった。殺す気は無さそうだな。
無言でうずくまる兄ちゃんを見て、取り巻きの警戒が一気に上がる。
ああ、もう油断していない。
後ろはカンガルーたちが塞いでるし、この状況でステゴロ五対一、一人荷物持ちで四対一か。流石にサラリと勝てる気がしない。
補修材はあるけど、作戦前に殴られて大怪我は避けたいな。
ん?
「補修材は?こいつらには効くのか?」
「そうだ。今回は抗体が無い者だけ選抜された」
「なら、多少痛いけど、死ななければ良いな?」
「まぁ。そうだな」
メラりと、周囲の火力が上がった。
「俺も混ぜろよ!一度ボウヤとガチってみたかったんだ!」
このゴブリンは何なんだ。
相手が小さいと簡単にどうにか出来そうに思えてしまう。
大体において、それは正しい。
俺だって、ちっちゃい子がナイフ持って”エイッ!”とか正面から刺しに来てもそう脅威には感じない。
だが、ちっちゃい子が離れた所から突撃銃をこっちに向けていたら?
結局、そいつの見た目よりも、所持してる火力がモノを言う。
今の俺はタダのクソガキだが、ちゃんと大砲を持っている。
シャコパンチしなくとも、そこそこ効かせられる自信はある。
互いにどの程度なのか知っておかないと背中は任せられないので、こいつらがどの程度なのか確かめる。
後、さっきの愚直な拳も気になる。
エルフ相手にあんな真っ直ぐな気持ちで生き残れているとしたら奇跡だ。
後ろからバカ鬼がゲラゲラ笑いながら羽交い絞めにしようと被さってきたので、とりあえず全員から距離を取る。
後ろに不安があるので体表面を活用した全方位ソナーの可視化は起動しておく。
誰か突出するかと思ったのだが、緩く囲んできた。
非常にやりにくい。
こういう時は、待ちの姿勢でちんたらしてるとすり潰される。
後ろの鬼から片付けたいが、とりあえず端からいこう。
で。
一応、なんとかなったけどさ。
「何だ。これは」
しっかり全員、這いつくばらせた。
こいつら明らかにオカシイ。
全員が、フェイントを使わなかった。
殺し合いで揉まれてきて、フェイント無しとかありえるだろうか?
赤鬼は対応してきたが、でも速さで反応した程度でブラフは使ってこなかった。ヤるぞ!という意思が素直過ぎて初心者と殴り合ってる感じだ。
ワザとなのか?出来レースか?
可哀そうなので、急所攻撃は無しにした。
本気で殴っちゃったけど。
「言うな。聞かれる」
カンガルーは苦笑いしている。
聞かれるって、エルフに?
最後まで向かってきていた赤鬼は、ボディにいいヤツをかなり打ち込んでもなかなか倒れなかったので仕方なくシャコパンチで沈めた。痛くて苦しかっただろうに、冷や汗たらしながらもゲラゲラ笑いながら拳を振ってくるのは狂気だ。虎の子は見せたくなかったが、仕組みは直ぐに理解できない筈だ。
やっぱ、駆け引きはカンガルーが圧倒的だ。
帽子の実力は分からないが、口に出すと藪蛇になりそうなので止めておく。
トンネルの前の広場でやったのだが、下がぬかるんでいるので皆石炭臭い泥だらけになってしまった。ああ、もう文字通り泥仕合だ。
入口付近や上の砲台にギャラリーが出来ている。
二人目までは意表をついて直ぐにノせたが、警戒されてしまい、その状態でのタコ殴り全回避は不可能だ。何度か良いのをもらった。
筋骨隆々を無傷で全員気絶させられるほどのマンガみたいな神業の持ち主ではないので、腹を抑えてうずくまってもらっている。
疲れた。
「勝者。出向社員君」
近づいてきた帽子が俺の右手を持って上げると、上の砲台から冷やかしの口笛がとんでくる。
「ふざける余裕あったら止めてくれ。あんたはそういう系じゃないと思ったんだけど」
「あたしこういうの好き」
こいつ、寡黙で冷静に見えて、頭の中は都市圏の傭兵と同レベルかよ。
「まさか、賭けやってないだろうな?」
「うん?」
目が泳いでんぞ!
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