第103話 銀行発掘開始

 もし俺に、選択肢が二つ有って、理性と感情で選べるとしたら、ゲームだったらどう選ぶか決まっている。

 まず、正解がどちらか確かめた後、不正解の選択肢でその後のルート確認だけしてセーブはしない。その後ロードし直して正解ルートを進む。

 ルートが分岐ではなくオートセーブでポイント制だったら、より進むべきルートに近くなる選択肢をリサーチしてから選ぶ。


 現実だったらどうするか。一度しか選べないのだから、時と場合によって選ぶしかない。

 トラブルを避けるために、理性的な判断をする事もあるだろう。

 我慢できずに感情的に突っ走る事もあるだろう。

 今回はどうするか。

 今は何もしない。何もできない。

 事前準備が足りなすぎる。




「近所でこんな事になっているのか」


 砂埃を巻き上げないようゆっくり北上して。その後、太田から伊勢崎へ向かう三百五十四号線沿いで小休憩中、無人機が破壊され確認できなかったエリアを近場の間道を通る森林から観測したのだが、目前の開けた荒れ地の向こう、窓が壊れて風が吹き抜けた廃墟ビル群に大量の人影が動いている。この辺りは既にファージが濃く、人が住むには適していないのに。

 あれは・・・、パッと見はバカでかい刑務所の街だ。機関銃を肩から下げた監視が至る所にいる。蔦が這い木が生い茂る廃墟ビル群を鉄条網で何重にも囲っていて、内外には死体も多く打ち捨てられて、カラスではない何か変な鳥だか虫だか分からないスカベンジャーたちの餌になっている。

 濃すぎるファージの影響で大気が歪み、陽炎で揺らいでいて補正をかけてもしっかりとは見渡せないが、サワグチが見たら発狂しそうだな。


「飼ってるのか。いるのはコボルドか?」


 コボルドやエルフ以外にも、普通の人間や見たことが無い人種も大勢いる。


「カッカすんなよ?上の二号線みたく交易ルートでもないし、ファージ汚染地域で監視が無いからな」


 カメラから目を離した俺は横のおっさんに諫められた。

 公の監視が行き届かないこの地域は、文字通り無法地帯だ。

 籠原の医療センター付近は霧はそれなりに濃いが、コボルドや盗賊がちらほらいるくらいだからまだ平和だ。


「分かっているとは思うが」


「分かってる」


 サワグチはアレで失敗した。

 十数年前はファージの霧の中以外でもそこら中であんな感じだったのだろう。

 あれを俺は今開放できるだろうが、あそこに飼われているのは無害な人間ではない。

 ほとんどは教育されていない家畜だ。

 保護する環境を整えずに開放でもしたら、犯罪と混乱が増えるだけだ。


 愛玩動物を可愛がり、家畜を喰う。

 それと同じ事が、人間で行われているだけで、この湧き上がる怒りは何なのだろう。あの中にはモラルの有る人間も少なからず監禁されていて、苦しみながら命の消える時を待っているのだと思うと、胸が張り裂けそうになる。

 分かっちゃいたが、この世界はナチュラリスト以外にもクソが多すぎる。


「検索エンジンに登録されないドロップシッピングの保管施設だな。あそこまで大っぴらで大規模だと、都市圏に伝手のあるシンジケートかもな」


 この辺りの道は危険なので使われていない。

 という事になっている。

 東武ライン沿線は辛うじて機能していたが、多くの車道はこの間の肉嵐からまだ復旧しておらず、それに加え、南の利根川までの間は安全な地域がほとんど無い。

 計画されていた太田までの北上ラインもショゴス雲襲来で頓挫している。


「そういや、人身売買は政府公認なんだっけ」


「臓器売買法の一環だな。どこの国でも合法だ」


 世界が二回滅んでも、資源大国が沢山ある人類発祥の地アフリカは結局貧困から抜け出せずにいる。資源大国のアフリカ諸国は結局、いつまで経っても資源採掘以外の産業が成長しなかったんだな。そしてこのさいたま都市圏群や本州政府、アメリカ大陸連合とかがアフリカを経済支援をする一方、ヨーロッパ都市国家連盟がフランスを主軸に植民地税を搾取しているマッチポンプ状態は未だに変わらない。俺が眠る前も、植民地税に関しては何度も騒がれたが、騒いだ奴らは何故か早死にし、結局黙殺された。

 未だに人権の祖フランスとかイキってるのが笑える。


「イギリスとドイツは都市圏群側なんだっけ?」


「随分昔の国名だな。変な事考えるなよ。俺は長生きしたいんだ」


「なら、保育施設の先生でもやれよ」


「この顔でか?皆泣いて逃げ出すぜ」


「安心しろ。子供はな、ハートで人を見るんだ」


「ガキが言うと泣けるな」


「おーい。そろそろ時間だぞ?」


 黒革が呼んでいる。

 皆もう車に乗り込んでいる。

 伏せていた茂みから匍匐で戻り、一緒に見てた傭兵と一緒に先頭の車両に乗ると、中に殺し屋が移動してきていた。


「席替えか?」


「隣のヒゲが、胃が痛くなったって」


 笑える。


「そんな繊細な神経で俺の仕事こなせるのか?」


「昔、奴の同僚の顔の皮を生きたまま剥いだ。トラウマ刺激したらしい」


 それは。ドン引きだわ。


「お前スキナーだったの?」


「依頼主が子供を身代金と交換する筈が、精液漬けの全身の皮とスナッフ映像だけ送られてきたから、関係者全員にその復讐」


 そうか。


「お疲れ」


「持ちつ持たれつ」


 なんか違う気がする。

 何故カランビットで遊んでるんだ。速くてキモい。

 前の席のおっさん二人が冷や汗をかいている。


「まぁ、今回は荒事を任せる気は無い。オブザーバーとして控えててくれ」


「なぁ、ボウズ。そいつとどこで知り合ったんだ?」


「こらおい。ヤメロ」


 おっさん二人のコント見てもあんま面白くないんだよな。


「公園でドーナツ揚げてた。美味かったんでナンパした。おい。前見とけ」


 二人してギョッと振り返って俺と殺し屋を交互に見ている。

 大宮ではあのドーナツ屋有名だと思ったんだが、そうでもないのか?


「待て相棒。これがデートなのか?」


「仕事だ。デートは別で頼む」


「なら良い」


「「相・・・棒?」」


「ったく。おいお前らお客さんだぞ?仕事しろ」


 さっきの施設から装甲車両が二台こちらに向かってきている。

 無人機で見ると、機関銃片手にヤル気満々なアホ面が車上から上半身を出してシコッていた。

 こちらと違い速度を気にせず砂煙を巻き上げてぶっ飛ばして向かってきているのでコンタクトまで後三分も無い。

 アスファルトが剥げた雑草だらけのあぜ道だし、タイヤ痕が消せないので逃げ切るのは難しい。


「でも何で気付かれたんだろ?」


 この距離なら絶対見付からないと思っていた。ファージ探査に不審点は無かった。ファージが濃すぎて光学探査で見つかる距離でもなかったのに。


「エルフの監視者を常駐させてるのかも。あいつらはソナーよりビンカン」


 俺の”自称第六感”の延長みたいなものか。


「地雷は二号車だっけ?」


 聞かれるなよ?


「バレたら避けられる。通信はレーザーな」


「らじゃ」


 バカ正直に応戦する事も無い。

 速度そのままで後ろの車が対戦車地雷を二個フリスビーする。何度かバウンドして止まると、カサカサと道路脇の茂みに消えていった。射出型なので埋める手間が無いし、使わなかった場合の回収も楽だ。

 二分後、爆発音と共に黒煙を確認。

 上空の無人機でも破壊を確認した。

 今頃奴ら、慌てて確認作業をしているだろう。

 ちょっと調べれば分かるのに。ご苦労な事だ。

 ヤるのは得意だが、ヤられるのは苦手な奴らだとみた。

 監禁者の逃し屋とでも思ったのかな?

 都市圏に問い合わせるのか、熊谷と組むのかは知らないが、次に何かやってきたら不幸な事故が増える事になる。




 前橋へ分岐する十七号線は既に廃線となっているが、東西に流れる三百五十四号線と鉄道の東武線は肉嵐の跡もまだ細々と運用されている。

 その二本と利根川の間には大規模なファージ汚染地域が染みだらけに広がり、不可解な現象のオンパレードで人を拒んでいる。

 そしてそれを逆手にとって、非合法組織や社会不適格者たちが自身らのテリトリーを築いているのだが、ファージの中にいる限り、都市圏も手出しはしていない。

 脅威として見えている分、ナチュラリストよりも遥かに対処しやすいし、いくら潰しても絶滅しないゴキブリに無駄な税金を使う事も無いから。というのが建前だ。

 実際、輸送施設を襲う盗賊の方が市民から嫌われている。

 濃密なファージ溜まりは、物理現象の限界に挑戦する事象が多発するので、時と場合によっては死ぬより酷い目に遭ったりするが、平和とはほど遠い世界の連中にとってはそのくらい些事なのだろう。


「後一分程で第一キャンプ地に着く。探索班は手順確認」


 人飼い共は今は捨て置く。

 市警は面倒だ。後でサワグチと相談しよう。

 キャンプ地に到着後、最終確認をしたら俺を含めた十一人は湿地帯をフライボードで突っ切って地銀跡地に向かう。

 現地の映像も、道中の偵察も電波の届く範囲内はリアルタイムで把握している。

 多少の脅威はあるが、なんとかなるだろう。

 キャンプ組は運転手と射撃手に別れて一台に二人ずつ分乗し、合流地点まで移動を続ける。一所に留まっていると、襲ってくれと言っているようなものだ。まだ熊谷の奴らは動き出していないが、呑気に待ち構えている気は無い。


 待ち合わせポイントを変更する場合も信号弾のみで無線は使わない。

 無線連絡は無しだ。盗聴されたらアホだからな。

 ファージ通信ならいくら暗号化してもエルフがいたら直ぐ身バレする。

 俺ら同士の近距離通信もレーザー通信のみだ。

 共有サーバーを作らないP2P的な情報共有化は、殺し屋に突貫でシステムを組んでもらった。マジこいつ何でもできるよな。

 お陰で、近距離送受信によるハッキングや情報漏洩はほぼ気にしなくていい。

 それだけで俺の手間が段違だ。


「全員スラスターの予備も点火と運転確認は済んだか?途中で落ちたら置いてくぞ?」


「引率の先生が落ちたら?」


「俺が落ちたらお前ら背負って行け。雇い主だぞ」


「差別だ!ストライキすんぞ!」


「んじゃお前、今日夕飯抜きな。因みに、ノワール・ド・プルミュエール予約してあるんだが」


「聞こえたか!お前ら!命に代えても先生を守るぞ!」


「「おぉー」」


 気の無い返事だな。お前ら、そんなんでダイジョブか?


「調子いい男は嫌われるよ」


「てめぇはショタスリーパーべったりの癖に」


「あぁん?」


 こいつら、一々軽口叩かないと死ぬ病気にでも罹ってんのか?

 一応、俺も目視で確認した後、三組に分かれて背中も再確認させる。

 大丈夫だな。


「おっし。作戦開始」


「締まらねぇなぁ」


 ブーたれてるのは無視だ。

 全員に遮音用のスフィアを分配し、メインエンジンを点火した後、数歩助走をつけて、ぐちゃりとぬかるんだ畦道から浮かび上がる。

 俺らのエンジンの起こす熱風に驚いて、付近に潜んでいたカエルの大群が一斉に跳んで逃げ出した。

 背中から足元に移動したボードは、熱気は来ないが発生する赤外線でほんのり足が暖かい。

 俺の率いるメイン探索チームは五人編成、残り二組は三人編成で哨戒に就く。

 二番手で斜め後ろを飛ぶ流殺し屋は、流石にもうオフィススーツを脱いでいる。

 距離は十メートルも離れていないだろうに、音は全く聞こえない。

 自分のジェットエンジンの出す音も、耳を澄まさないと風音に紛れて消え、五十メートル離れた位置を飛んでいる無人機には環境音程度の反応しか検出されていない。

 これなら視認されなければほぼ見つからないだろう。


 眼下の沼地は元は商店街だったのだろうが、今は見る影も無い。

 半分沈んで錆て溶けている車、屋根ごと崩れた住居、時々、その陰から棒を持った原住民らしき者が顔を出すが、俺らを見て慌てて引っ込む。


”十一時の方向。一キロ先。敵性勢力十二。交戦開始”


 左の索敵を任せているチームから連絡だ。

 早いな。傭兵じゃないよな。


”確認した”


 無人機には捉えられなかった。隠れてたのか?

 どう隠れてたのか映像を確認する。


”俺らを獲物と間違ったみたいだな。手を上げたのでそのまま通り過ぎる。二人致傷。損害無し”


”了解。ルート気取られないよう注意”


”了解。クロスボウがメインだった”


 面倒だな。

 上手く使えないしバレやすいがファージ展開範囲広げておこう。

 無人機で把握される熱源や電磁波の発信源は随時更新され、共有されている。画像を確認したが、ギリースーツ着てクロスボウ持って動かず沼に潜んでいた、赤外線で視認出来なかった。流石にこれを見付けるのは難しい。

 クロスボウはガス式でなければ音は小さいが、弦を張ったまま放置が出来ない武器だ。短時間で使い物にならなくなってしまう。

 なので、撃つ直前に弦を引くのだが、その音を無人機に記録しておけば良いのか?

 水の中で引かれたら聞こえないしなぁ。

 ファージ探査も万能ではない。

 丁寧に索敵するしかないな。

 交戦した連中にはもうマーカーが付いている。

 そんな訳ないのだが”只の狩りで誤認しただけ”と言われたので録画済みである事を警告してから解放したそうだ。


”後一キロ程進むと完全に外とのファージネット接続不能”


 殺し屋からのワンポイントアドバイスだ。


 元々、ファージ濃霧地帯外部との通信は想定してなかったが、そこからが本番だ。


 近距離でのレーザー通信が有効なのは確認してある。

 遮蔽物に遮られても、この山ほどあるスフィアを使って反射させれば問題無い。

 エジプトのピラミッドで使われた採光と同じだ。


”レーザー通信距離の最大は二百メートルだ、スフィアは最適化してあるが破損時のカバーはとりあえず予定通り各自裁量でいく”


 今の時点でスフィアが破損して減っていたら、壊されるの覚悟で上空に滞空している無人機を降下させて電波のカバー範囲を広げる手はずだったが、取り越し苦労だったな。


”そろそろウナギ地帯だ、水面より五メートル上空を維持。タワー作って引きずり込まれるからな”


 ピクピク虫ほど凶悪ではないが、この辺りにはゴンズイ玉みたくウナギ玉が点在している。

 文字通り、ウナギが大量に固まった群れで、外敵からの保身なのか、捕食の為の効率化なのか、この世界に研究している学者が居ないので不明だ。

 ウナギの形状は、最大三メートルくらいで頭部に髭が大量に生えていて眼が無い。

 ウナギじゃなくてイソギンチャクなのか?口も周りのヒゲがモショモショ動いてクソキモい。

 詳しくは分からないが、水に落ちたら骨まで喰われるのは間違いない。

 動くものに反応して群れが塊のまま素早く襲いかかり水上にも伸びあがってくる、偵察時には原因が分かるまで無人機を結構沈められた。


”水の黒ずんでいる所はとりあえずウナギだと思った方が良い”


”結構あるんだが”


 ぱっと見多いよな。

 マーカー付けると塗りつぶしになってしまう。


”なーっ!?キモッ!!”


 おっさんの悲鳴ほど見苦しいものは無い。

 俺の隣で、崩れかけたビルの窓からウナギが大量に噴き出して降ってきた。

 先頭の俺が狙いだったみたいで、慌てて避けた。

 誰も巻き込まれなかったが、激しい水音が爆撃音並みに木霊する。


”音、消せなかったな” 


”噛まれたか?”


 後ろを飛ぶおっさんの声が少し震えている、毒でもあるのか?


”大量に噛まれたり、傷口からウナギの体液が入ると麻痺するぞ”


 何だそのトンデモ設定は。


”ソースどこよ?”


”マジだって”


 それより、建物にウナギが詰まってるってのが恐怖だ。

 こっそり養殖してる訳じゃないよな?

 魚は温度検知が難しいので動体検知するしかない。

 陰に潜んでいるのに気付かずにもろ被りしたら一瞬で骨になる。

 ノイキャンの所為で近場の音は判別しにくい。


 今出してしまったウナギの着水音で色々寄ってきそうだ。

 早めに抜けたいな。


”霧が濃くなってきたな”


”あ!俺に言わせろよ”


”バカばっかり、ドン引き”


 殺し屋が辛辣だ。


 上空を舞っているだけだった虹色の霧は地上にも巻き始めている。

 霧の中に大きな影が飛んでいるのが時折見えるのだが、赤外線にも電磁波にも検知されない。

 カメラには映っていないのに肉眼で見えるって何なんだ?


”大きい影が見えたり消えたりしてるんだが?”


”俺も、目が疲れてるのかと”


”集団幻覚か?検知できてないんだよなぁ”


 俺らのやり取りに殺し屋が溜息をついている。


”知ってんのか?”


”触らぬ神に祟りなし。向こうもこっちを補足していない。気にせず立ち去る”


 あ。はい。


 水面に油が浮き始め、空気が汚くなってくる。

 粉塵が多くなってきて、フィルターがフル稼働している。

 っと、時間だ。

 三、二、一。


”ジェットが過熱しやすくなる。予定通り一分後に見えるビルの屋上で二分休憩だ”


 この辺りから、霧に油が含まれ始める。

 小まめに洗浄しないと吸気と過熱でエンジンが燃えだす。

 この先の十字路を曲がると大きいビルの陰にまだ屋上が崩れていない二階建ての建物があり、安全は確保してあるので、そこで小休止だ。

 全身、汚れが付かないように加工はしてあるのだが、気休め程度にしかなっていない。

 フワッと降り立った建物の屋上は、俺らが巻き起こすジェットの爆風で表面の苔がバリバリ剥がれて吹き飛んだ。

 錆びて赤黒く溶けた空調機器の陰で、全員に点検とエンジンクールダウン用のスプレーを指示。

 偵察中の二組からも休止に入ったと連絡が入る。

 ここまでは予定通りだ。

 ベトついてきたヘッドギアの油汚れもついでにスプレーで掃除しておく。

 視界が塞がっても問題は無いが、見えていないと気分が悪い。


”相棒”


 殺し屋がしゃがんで隣のビルを見ている。

 何だ?


”どうした?”


 近づくと足元が爆ぜた。


”警戒!ビル!”


 狙撃だ!


”念の為反対も確認!”


 俺ら全員が隠れると同時にグレネードがバラバラ降ってくる。

 スフィアでキャッチさせ、投擲地点に突貫させる。

 くっそ!高いスフィアが!どうせ音でバレるんだ。ファージ使っちゃえば良かった。

 空気が振動し、爆風で身体が圧搾される。

 ビルが倒壊するほどの威力ではなかったが土煙で周囲の視認は不可だ。


”安全確認!”


”RPG!”


 マジか!?


 飛翔物にファージ連動させて手持ちのSMGで照準を合わせる前に上空で爆発した。

 良かった、徹甲弾だったか。榴弾だったら全滅してた。

 殺し屋が銃を上に向けていた。撃ち落したのか。

 まだ来るか?!


”後ろ、脅威無し”


”了解、奴らがアホで助かった。各自、発泡壁展開。ジャミング開始後、一人俺について来い、視認がしづらい今のうちに制圧する”


”先生は邪魔だけしてろよ。俺ら行くわ”


 どうすっか。


”死ぬなよ”


 任せることにした。

 どうせ遮断はしているだろうが、高出力でジャミング開始。

 ついでにソナーで場所も特定して共有化。

 動体は三十二。多いな。


”後ろ。人は居ないが、無人機とトラップも確認”


 挟み撃ちは無人機任せか。手動操作ならもう使用不能な筈だが、自律だったら反応して動き出す筈だ。


”三機出たな。ミサイル持ってる。破壊すんぞ”


 少ないな。装備整える金が無かったのか?

 ハックしても良いんだが、時間が惜しいな。


”よろしく。共有したんで見えてるだろうが、ビル内、三十二人中動けそうなのは二十一人だ。動いてない奴はまだ検知されてないだろうから、待ち伏せくれぐれも”


”ハイハイ。おいちゃんたちプロに任せとけ”


 相手もプロだろ。俺らの事分かってて待ち伏せまでしてんだから。


”ナトリウム弾だ!”


 煙に紛れて向こうのビルに突入した傭兵が叫び、直後に金属音が響いて、一帯に白色煙が充満する。

 ファージ対策か。

 確かに、ダイレクトアタックするしか無くなるな。

 でも、こっちにはスフィアの物量があるんだよなぁ。


”十秒耐えろ。押し流す”


”余・・裕。・・”


”別・・にい・・。、らない。し”


”なら助けねーぞ”


””さーせ、ん””


白色煙の中でのレーザー通信は見えはしないが位置バレバレなので、ファージで短距離緊急回線に切り替えたが、ファージ自体がナトリウムイオンで阻害されて通信環境が激悪だ。

 相手も条件は同じなので、明らかに俺対策だ。

 ただの待ち伏せではなく俺目当てだって事だ。


 哨戒中の二組に狙撃を頼み、風上からスフィア管理で風を呼び起こし、ビルごと風に当てる、十秒もかからなそうだ。周囲にファージが戻ったらこっちの建物の全員に認識阻害をかける。

 ソフィアに習った光の入射角を空気中で弄る技術の応用だ、これだけで赤外線、可視光、電磁波などの光線類から見え難くなる。

 勉強不足でソナーは対応していないが、どの道、音はスフィアで遮音してある。動体検知は避けられないが、俺ら待機組は動かなければ良い。目くらましとしては十分だろう。


 隣のビルから射撃音が聞こえ始めた、奴らの武装は遮音が全く無いみたいだな。

 サプレッサー付けると威力減衰激しいし、遮音用スフィア揃えるより雇う人数多くした感じか。


”カバーいるか?”


”アームあるしな。全員位置バレしてるし、ガンファイトで負ける気がしねぇ”


”止めはどーする?”


 二度とバカな気を起こさないで欲しい。

 頼む側も、仕事を請け負う側も。


”刺してくれ”


””了解””


 念の為張っていたが、誰も逃さずに二人で三十二人制圧に五分かからなかった、金の力もあるだろうが、スミレさんの専属たちは、名乗り出るだけあって熊谷のプロ相手に優秀な立ち回りだ。

 現地での探索時間が四分削れたが、装備品の損耗も一人弾切れになった程度。時間的損失はほぼゼロだ。

 弾の重さはバカにならない、上の無人機に予備のボードと弾を積んでいるがたかが知れている、荷物が適度に軽くなったので丁度良い。

 無人機からの映像しか無いが、キャンプチームの方もまだ襲撃は受けていないので、まだこれから何度かコンタクトが有るだろう。

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