第93話 手術室破壊作戦

「懸念点は、あのチューブと潜んでいる者たち、非干渉群、そして、イニシエーションルームの強度だ。説明を頂こうか」


「まず初めに、陸奥国府とは話が付いているのか?」


 貝塚の顔が少し引き攣った。

 鉄面皮だと思ったのに。びっくりした。

 エルフが俺を見る。


「おっと?スリーパーの前ではしちゃいけない話か?」


「昨日から約束を守って律儀に情報共有をしなかった我々を褒めていただきたいね、つつみ君」


「その件に関して評価する、わたしは何も聞かなかった事にする」


「感謝する。陸奥の御三家と話はついている。下北半島の猿ヶ森砂丘より西には関知しないとの覚書を貰っている」


 つつみちゃんが片眉を上げたが、特に口は挟まなかった。


「なら、問題はほぼ無いと思っていい。チューブの爆破は出来ればしないで欲しい。巻き上がって雲まで届くと、道民が死滅する事になる。非干渉群に関しては、昨日も言った通り、近づかなければ問題は無い。あと、イニシエーションルームは金庫エリアを貫通させた後、千度以上で丸一日は燃やしておきたいな」


「チューブ地帯に籠っている勢力は?」


 エルフは手の平を上に向けた。


「昨日のあれが全てだ。ファージで嫌がらせはしてくるだろう」


「殲滅して良いのかね?」


「旅団青森支部の奴らを悲しむ者はいないだろう。喜ぶ者はいるだろうね。少なくともあたしは拍手喝采するよ」


「よろしい。北条」


「当初予定していた焼夷弾頭による一斉攻撃は効果が無さそうですね。効果時間が千二百度だとしても二十分が限界ですので、一定時間ごとに打ち込む必要がある。反撃や妨害に対処しながらだとコストがかかり過ぎます」


 映画なら、起爆して綺麗に爆炎上げて終わりなんだけどな。

 面倒過ぎて観客全員見飽きて帰りそうな作戦だ。

 皆、頭を捻っている所、白川が声を上げた。


「エレクトロンで短時間で焼き払うんじゃ駄目なのか?」


 エルフはエレクトロン焼夷弾とか知らないみたいだ。


「どういう物だ?」


 可美村に促されて井上が説明をする。


「エレクトロン焼夷弾は二千度以上出ます。時間も半分以下で済むのでは?」


「無理だな、ルームの廃熱機構は優秀だ。時間は必ず必要だ。レアに焼き上がるだけだ」


 じっくり火を通す必要があると。


「中に打ち込んでしまえば問題ない?」


 エルフは首を振る。


「脅威がある異物は数秒で排出される。完全破壊するには外から高熱で焼き尽くすのがセオリーだ」


「もうさ。保管庫の完全破壊だけ確認して、放って置けばいいんじゃないのか?金の無駄だろ?報告だけして都市圏の予算が降りてから対処すればいい」


 白川が匙を投げ始めている。

 北条も、面白くなさそうだが、案が出ないようだ。


「報告して予算が下りて、攻撃が始まる前に、十中八九どこかに移動されてしまうでしょう」


「イニシエーションルームの発見と破壊は、報告されている限りでは、今回が人類初の試みだ」


 貝塚は出来れば破壊したいらしい。

 白川は大きく息を吐き、また考え込んだ。


「事後申告で通達後に破壊しますか?」


 北条の問いに貝塚は鼻を鳴らす。


「あの吝嗇な連中が予算を付ける筈がない。それに、技術が欲しいとか抜かして回収に舵を切ったら面倒だ」


「ああ、確かに。やりかねませんね」


 俺がカンパしようかって言うのも、話が違うしな。

 二十四時間焼夷弾撃ち続けるってのも、予算聞くのが恐ろしい。当分タダ働きになりそうだ。


「イニシエーションルームは、外側からの攻撃には無反応なのか?」


 俺の問いにエルフは意外そうな顔をした。


「無反応というより、外部への攻撃手段が無いだけだ。内部には防衛機構があるし、廃熱にも限界があるという事だ。アレ自体は只の手術室だしな」


 なら、手はあるんじゃないか?


「チューブは地中を掘り進んだりするのか?」


「ああ。あれは、強度が足りなくてそういう構造にはなっていない。人は上に乗れるけどな。地中に構造体生成の設備が有って、また潜る部分で素材回収している。地表に出ている部分はコントロール可能だが、木をなぎ倒す程度でも破損してしまう」


「生え始めのタケノコ壊せば止まるのか?」


「タケノコ・・・ふふ。根元を破壊すると、地下の施設がコントロール不能になり、炭疽菌の流出が起きるだろう。機能を停止させて炭疽菌の培養作業を停止させる必要がある。因みに、あたしはあそこの地下には行った事が無いから、案内出来ないし、止め方も知らないぞ?」


 面倒だな。誰があんなの作ったんだよ。

 テロリストの考える事は意味不明だ。


「我々はチューブの破壊は考えていないぞ?」


 貝塚が釘を差した。

 頷いておく。


「奴らの反撃手段は、昨日有った程度で、規模は同じと見て良いのか?」


「そうだな。あたしの知っているのは施設に詰めていた奴らを除いて五十三人だ。潔癖症の奴がいたとしたら数はもっと多いだろうな」


 貝塚とエルフ以外は皆渋い顔をする。


「炭疽菌に囲まれて、綺麗好きという事は無いだろう。りょうま君、何か愉しい事でも思いついたのかね?」


「HPM車両は有るか?」


「無人機迎撃用に各艦に大量に搭載しているよ」


 なら良い。HPMというのは、強力な電子レンジ、種別的にはレーザー兵器の一種だ。


「何なの?それ」


 つつみちゃんは聞き慣れなかったらしいので、簡単に説明する。


「強力なマイクロ波で電子機器を破壊したり、加熱して熱破壊を起こさせる兵器だ。大量の無人機破壊とかミサイル迎撃に適している。でっかい電子レンジだ」


「ですが、遮蔽物が多いし、距離があそこまで届かないですよ?ああ。そうか車両が有ります」


 北条は気付いたな。車両があるなら、取り外しの手間が無い。


「あそこまで持って行って、終わるまで守り続けるのか?中まで焼けるだろうが、手間も人でもかかるぞ?」


 と言いつつも、白川は既にやる気だ。

 配備資料と、予算概算に睨めっこを開始した。

 さり気なく貝塚に許可のサインを貰っている。


「車両のスペックと強度は?」


「簡易装甲だ。一応奴らの突撃銃は阻止出来る。燃料電池車だから一応無吸気でフル稼働でも三日は持つ」


 良いね。

 作戦はこうだ。


「チューブと建物に、必要最低限の穴を掘り、金庫エリアを破壊、なるべくイニシエーションルームに近づけてHPM車両を設置、起動確認後再度建物を破壊。一帯を埋める」


 北条と白川が笑いだした。


「どうだ?」


 エルフに聞いてみた。


「魔法使いじゃないんだ。流石にあたしたちでも、そんな事されたら掘り出さなきゃ移動できないよ」


「後は、近づく奴らがいたら邪魔するだけで良い」


「良いね。被害が広がらず低コストというのが素晴らしい」


 簡易試算書を見ている貝塚はご機嫌だ。


「埋めるなら、移動は無いのでその方向で車両の補強をしましょう。白川」


「おう。整備班にフレーム強度上げてもらうわ。上には照射しないからな、難しい作業じゃない」


「露出させてから真上に投下すると、下に排出してしまう恐れがある。横に設置した方が良い」


 エルフが補足すると、北条は二つ返事で頷く。


「あの入口の横の部屋は三つ潰せば丁度車両が入る。破壊した時の瓦礫で強度が足りなければ、先に砂でも投下しよう」


「24時間以内に奴らが車両を破壊する恐れは有るか?」


 エルフは少し考え込んだ。


「ぱっと思いつくのは、水浸しにするとかかな。でも、下の電源設備が使い物にならなくなるし、その後掘り出すのが非常に手間だ。ファージと重機で瓦礫を取り除くのが精々だろうね」


 なるほど。


「なら、撒く砂は石膏にしておこう。水を撒かれたら補強がすすむ」


「おう。流石に積んでねーけど、五稜郭に山ほどあるわ。発注かけとく」


 ゲラゲラ笑いながら白川がノリノリだ。


「概ね決まったようだね。作戦が始まるまで、これで一時解散としよう。では北条と可美村は少し休み給え、昨日から寝てないのだろう?」


 可美村、寝てなかったのか。


「いえ、大丈夫です」


「わたしの云う事が聞けないのかね?」


 睡眠薬でも注射しそうだ。


「「休ませていただきます」」


 直立不動で北条とハモっている。

 さて、俺はこれで、今日はフリーだ。

 メールの内容についてゆっくり精査しようかな。

 いやでも、この空母の中でメール展開したく無いなぁ。

 普通に何も考えずに休むかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る