第7話 ゲート

 ああん?!目の加速?いえすいえすいえすいえす!


 頭の痛みもラグも発生せず、ブンブンと飛んでくるボーラがブレずに綺麗に見えた。よくあるゲーム設定とは違い、スローモーションにはなっていなかったが、俺には十分だ。走り幅跳びの要領で余裕にかわす。慌てて後ろ手に何か出そうとした犬の頭を踏みつけさらにジャンプ!

 面白くなさそうな唸り声を後に止まらず走る。

 橋のこっち側はさすがにガラスは撒かれてなかった。勢いそのまま走り続ける。

 少し後ろにつつみちゃんの息遣いを感じる。

 犬は追いかけてきているのだろうか?ごっついブーツを履いていたから足音は大きいはずだが聞こえない。振り返る手間が惜しいが又投擲されても厄介なので、一瞬チラ見する。


 いない。


 回り込みにいったのか。諦めて逃げたのか。

 とりあえず走り抜けるしかない。また出たらその時考えよう。

 全力疾走で大通りを曲がると、珍妙な公園が見えてきた。

 等間隔で電信柱のごとくそそり立つ大木に囲まれた直径二百メートル程の区画にある公園内に入ると、下草もなくむき出しの地の中央に小高い丘があり、頂上にどうみてもトーチカな建造物。鉄条網が至る所に張り巡らされ、見える限りでは数本の通れそうな小道が全部トーチカまで続いている。

 あれが市街地のゲート替わりなのか?


「もう、大丈夫だか、ら。ちょっと待って!」


 息も絶え絶えにつつみちゃんからストップがかかる、そのままへたり込んで荒い息のまましばらく動かなくなってしまった。

 辺りを警戒するが、見える範囲には誰も居ない。トーチカにいくつか空いている小窓も、明暗差が有りすぎて暗がりで見通せない。


「よこやまクン、呼吸オカシイでしょ。何で普通なの?スリーパーってそんなに肺活量あるの?病み上がりみたいなもんでしょ?」


 確かに。

 普通は動けない。ガキの頃大けがで入院したのだが、その時は何週間も寝たきりの後、歩くのもおぼつかなくてリハビリに三ヶ月かかった。


「若いから?」


言ってしまってから“しまった“と思うが、後の祭り。

つつみちゃんはぷっくりふくれている。


「ふん」


 元気が出たのか、てくてくとトーチカに近づき、入り口辺りで一旦立ち止まる。

 無数の金属板がスライドして自動で穴が開いていく。人が三人並んで通れるくらいまで開くと、そこで止まった。

 複合金属でできたその構造物は、近くで見るとトーチカとは似ても似つかぬモノだった。

 何重もの継ぎ合わせた合板の間から、のたくったケーブルや配管が中を見通せないほど組まれている。この構造物自体は、耐火性や耐衝撃性は無さそうだ。ああ、全く錆が無いので、金属じゃないのかもしれん。


「ん?!」


大切な事に気付いた。


「カードリーダーは?本人認証はどうやってるの?」


 そう、それは万能アイテム。冒険者カードとか、ギルドカードとか、ゲームによく出てくるアレだ。ありとあらゆる情報が詰め込まれたり、通信に使えたり、場合によっては話のつなぎに使われたりする。

 クラシックゲームの過渡期に、手甲や銃の形で登場したPDA(携帯型情報端末)は、ネットの普及と端末の小型化低コスト化により一気に現実に。その後カード化することで落ち着きをみる。

 当然、当時の創作者は創作物に落とし込み、取り入れるのだが。お決まりとして、初めて入る“町”には本人認証、通行証を所持してなくて、“カード見せろ”とか言われながらやっぱ門番とかガードシステムと一悶着したいのがゲーマーというもの。

 ワクワクでちょっとどきどきしている俺をかわいそうなモノを見る目で軽く蔑みつつ、・・・あれ、さっきの根に持ってる?


「それ、レトロゲームのやつでしょ?無くしたり壊したり盗まれたりしたらどうするの?」


さあ?


「ついてきて」


 馬鹿な事言ってないの。と俺の背中を押し、ゲートを抜ける。

 因みに、壁の厚みは十メートル以上あった。屋根無いし・・・。トーチカでも何でもないわ。なんだこれ。

 階段から下に降りて薄暗い地下道を進む。いたいた。あれ門番だろ?


「つつみー、生きてたかー」


 短機関銃をたすき掛けにした厳ついオーク顔のおっさんたちが通路のど真ん中で座りこんでホットコーヒーを飲んでいた。いい匂いだ。俺もカフェイン欲しい。


「失礼ね。てか、邪魔」


 腕を組んだつつみちゃんは顎をしゃくる。


「仕事しねーとな~」


 ひとしきり仲間内でゲラゲラ笑ってから道をあける。

 通り抜けざまにバンバン背中を叩かれた。


「籠原ジャンクションにようこそ!」


「長く生きろよ!」


「俺らが守ってやっからよ!」


ってぇ・・・。おもいっきりたたきやがって。

ここ、籠原って言うのか。埼玉なのか?

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