第22話 地下探索①

 土曜日、地下探索の日を迎えた。田中は真っすぐ食堂に行かず、探索者の建物に行き、自分自身の迷彩服を取って着替える。そしてヘルメットにライトを付けるなど上層の探索とは少し違う格好をする。午前十時。田中達は予定通りに地下探索を開始。昨日の打ち合わせ通り、菊池を先頭にして下る。上がる階段の傍には蓋があった。しかし研究部門が頑張ってくれたお陰で地下への入り口の穴と化している。


「菊池、慎重にな」

「分かってるよ」


 新井の台詞に菊池はフッと笑う。アホなところはあるが、頼りになるところもある男なのだ。


「本当に狭いな。洞窟だ」


 菊池のオーケーサインが入ったため、田中達も地下に入って行く。ポツポツと滴る水の粒。それによって地面が濡れて、空気に湿り気を与える。


「田中、測定」


 王天佑の指示を聞いた田中はすぐに大人の拳と同じぐらいの大きさの計測器を取り出す。数字をそのまま報告する。


「温度二十三度。湿度六十七%。酸素濃度は二十一%。窒素七十八%。その他」


 その報告を新井が腕時計の似た物から浮かぶ画面操作でメモをし、王天佑と菊池と千葉は周囲の警戒をする。


「メモ完了っと。あと研究部門に報告した。二人とも、変化はあるか」


 新井の問いに菊池はすぐに答える。


「変化ないよ」

「同じく。異常なしやな。ずっと静かなまま。王ちゃんは」


 千葉の返答も聞いた王天佑は薄暗い先を見通しながら言う。


「こっちもだよぉ。よし。スキャンを使ってこうか」


 見た目は狭い洞窟の道。蝙蝠に似た毛の塊が上にいるぐらいだ。田中は王天佑の発言の意図を何となく察した。どの種類も生き延びるために様々な手段を用いる。その中に見えづらくする何かがある。カメラ搭載のドローンの技術は万能ではない。見過ごす時は普通にある。


「ほいほい。コイツの出番っちゅー話やな」


 張り切る千葉は全体が黒いゴーグルをかける。縁にあるスイッチのようなものを押す。


「新井。此奴との連動頼むわ」


 新井は腕時計型の物とそこから浮かんでいる画面に何回か触れる。


「ちょっと待ってろ。よし。繋がった。やっていいぞ」


 新井の了承を受け取った千葉は口元を緩ませる。田中は定期的に温度や湿度などの数字を見る。多少の変化はあっても、生息する上では問題ないものだ。


「よーし。始めたで。あ。菊池の近くに反応があるわ」


 千葉の発言を聞いた菊池は驚いたように声をあげる。


「マジで? 見た感じそういうのなさそうだけど」

「使ってみると分かるで。田中、それ見ながら周囲の警戒出来るか?」


 計測器についてはずっと見るわけではない。定期的に確認出来れば問題ない。田中はシンプルに答える。


「問題ねえよ」

「そんじゃよろしく頼むわ」


 耳と目を使って、周囲の警戒をしていく。物騒な音がなく、殺気がない。上の階層のダンジョンに比べると平和だと田中は感じる。先頭にいる菊池はしゃがむ。リュックサックの側面から器用にスキャン用のゴーグルを取り出して使う。


「王ちゃん。メモして研究部門に報告して欲しい」

「新井の準備は出来てるから大丈夫だよぉ」

「はーい。苔の仲間らしきものを発見。中に丸い卵、多分これは虫かな。それを見つけた。どっちだろうな。見た目は蜘蛛でも生態違うかもしれないし」


 菊池の報告を聞いた新井はメモをして、研究部門に送信する。すぐに返事が来たため、そのまま読む。


「返事来た。出来る範囲で採取してくれ。卵もだけど。岩とかもよろしく。だそうだ」


 王天佑は腕を組むという考え込む仕草をする。


「そうなると菊池、虫の卵らしきものと苔っぽいのを採取して。千葉はスキャンの別機能を使って。ドローンの事前調査と合っているかの確認をしてねぇ。新井は連絡する係だからそのまんまで。田中は俺と一緒に周囲を警戒して。数値に異変があったらそれも報告お願いね」


 数秒後にはノンストップで指示を下す。田中達は返事をする。


「了解」


 田中は計測器を見ながら、周囲に異変があるかどうかを確認する。いざとなったら動けるように……というわけにはいかないが、自分なりに警戒をしたのであった。

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