第23話 地下探索②

 菊池の採取完了という元気な報告が来たため、田中達は地下探索を再開。狭くて歩きづらいため、体力の消耗が激しい。「一時間は経過したし、そろそろ休憩だろうな」と田中は読む。


「経過一時間。しかもこの感じなら」


 王天佑が呟く。ドンピシャだった。


「菊池、ストップ!」

「はーい」


 王天佑の「ストップ」を聞いた菊池はワザとらしく、行進を止める足踏みをして移動を中断した。くるりと回る動作もやってのけている。


「お前の行動読めんわ」

「千葉、それは諦めろ。永江さんだって困惑することもやるからな。そんで王ちゃん、このタイミングってことはやっぱ」


 新井も田中のように展開を読めていた。それを察していた王天佑は頷く。


「うん。休憩だよ。マップを見てる限り、ここで休むのが最適だろうしね」


 そういうわけで貴重な休憩時間に入る。各自自由にリュックサックから物を取り出す。水筒だったり、スティック状のエネルギー補給だったり、様々である。


「思ったよりも地下、小さいよな」


 もぐもぐと食べる音と水滴が落ちる音のみの空間に、新井の声が中によく響く。田中は地下の事前調査を思い出しながら言う。


「現段階だとそうだけど……まあ、水の深さどんぐらいとか謎のとこ多いからな。小さいとも限らねえんじゃねえか?」

「あー潜ったらどっかに繋がってましたとかもあり得るだろうしねぇ」


 王天佑の発言に菊池が反応する。


「え。今日潜るの? 項目になかったよね?」


 かなりの焦り具合である。千葉は乱暴に菊池の頭を撫でまわしながら、突っ込みを入れていく。


「なんで潜るっちゅー発想になるねん。装備の欄にダイビングのあったか? ないやろ? 大体なあ。人を襲う物がおるかもしれへん。毒を持つ何かがいるかもしれへん。そういう可能性あるのに、情報がないまま、俺ら探索者にやらせるわけないやろ?」


 息を吸う間もない、早口の突っ込みだった。やられている菊池は無抵抗にゆさゆさと揺れている。王天佑は彼らを見守りながら、予想しているものを言う。


「水中はドローンを使う形になるだろうね」


 だろうなと田中は感じた。


「潜らなければオッケーと。なら釣りは? 持って来てるんだけど」


 菊池の発言の中の「釣り」というワードに田中は困惑する。他の皆も似たような反応をしている。


「いやちょっと待ってや。なんで釣りの道具を持ってきたんや!」


 千葉の突っ込みはごもっともだ。リストに載っていないため、田中達は持って来ていない。そもそも釣りを想定した仕事ではない。


「いやぁ。水中の生物がどういった感じかとか、実物がないと分からないだろうから。大丈夫だよ。書類に出してるから知ってるはず」

「そりゃそうやけどさぁ」


 菊池が言う理由を聞いた千葉は頭を抱える。新井は探索者の上層部と研究部門に何かを送信した。気になった田中は聞く。


「新井、何したんだ」

「やってるらしいけど、念のため報告ついでに確認。ま。使うかどうかは俺ら次第だと思うけど、一応組織で動いてるからな。先に研究部門、次に上層部って感じで」

「それもそうだな」


 田中は納得する。探索の最前線となると、上層部は探索者の判断に任せるケースが多い。それでも報告は大事だ。把握しておくのも部下の管理の一つの仕事だ。研究部門の次に送る新井の予定については言及しない。


「来た。ぶっふ」


 新井が吹き出した。田中達の視線が新井に集まる。


「どしたどした?」

「全体の装備の確認後に新たなものを追加した記録があるから問題なし。とりあえず釣って来い。そして持ち帰って、研究部門に捧げよ。だってよ。ぜってぇ永江さんか鷲尾さんが返信してる」


 ヘルメットなどの装備管理はAIが把握しているし、報告も認知している。そこから上層部に知れ渡る仕組みだ。そのため返事をした者は探索者側の人間しかいない……というのが新井の考えだ。田中は多分二人は察知して研究部門のところにいたんだろうなと推測した。


「あ。追記で来た」

「何て来たんだい」


 王天佑の質問の答えとして、新井は追記内容をそのまま読む。


「もしものことがある。田中君。いざとなったらいつもの癖で持ち歩いている狙撃銃を使いなさい」


 田中は背負っている狙撃銃の銃身に触れる。いつもの金属特有の冷たいものが伝わる。どこか湿っぽい雰囲気が出てくる。


「えーっと。何でかって疑問、浮かぶだろうから事前に答えます。菊池君が釣り竿持ってくと言うので、その時にデカい何かをやりかねないなと思って。まあ。君達なら大丈夫でしょ」


 数秒後には普通にぶち壊していく新井であった。


「新井、雰囲気をぶち壊す気で続きを読んだろ」

「バレたか」


 田中は思い切りため息を吐いた後、新井の腹に軽くどつく仕草をする。新井はお腹を抱えるという、痛がるフリをした。それらを見ていた王天佑は呼びかける。


「新井と田中、そろそろ探索再開するからね」

「分かった」


 のんびりとした休憩は終わりだ。田中と新井はすぐに切り替える。道はまだまだある。想定していないものもある。探索者達は気を引き締めるのであった。

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