第21話 地下探索事前打ち合わせ
金曜日になり、田中は地下探索の事前打ち合わせに参加する。ランチタイムの準備は出勤している鈴岡に任せている。こういう時に食堂で働く仲間がいて良かったと田中は思った。
「失礼します」
探索者専用の建物に入り、二階の八畳の部屋に入る。長い机と背もたれがある回る椅子ぐらいしかない、シンプルなものだ。迷彩服を着ている新井達は既に席に座っていた。田中も空いているところに座る。
「それじゃぁ。名前は知っていても、田中にとっちゃ対面は初めての奴もいることだし。自己紹介をしようか。それでいい?」
アフロみたいな茶色の髪型で手足が長い男がゆるりと発言。言っていることはごもっともというわけで田中達はそれに無言で頷く行動を示す。
「そんじゃ言い出しっぺの俺から。王天佑だよぉ。二十六だけど、資格取れたのは三年ぐらい前かな」
王天佑と言う男は大学卒業後に一度民間企業に就職。しかし数カ月ほどで経営の悪化で倒産し、丁度いいタイミングで探索者の研修生募集が始まっていたため、申し込んで今に至る。比較的歴は浅いが、探索の最前線にいる時点で立派な猛者である。
「時計回りでいいよな。皆知ってると思うけど……言うぜ。新井蓮だ。よろしく」
新井は簡潔に言った。素っ気ないと感じる人もいるだろう。それでも問題ないぐらい、彼は何度も探索に行っているし、名前と顔も知られているのだ。
「ほい。千葉尊や。生駒のダンジョン所属やけど、交換研修っつーことでここにおる。短い間やけどよろしゅう」
小柄で三白眼で明るい茶色のボサボサヘアーの男の千葉尊は大阪府出身の男だ。半年前から研修生として奥多摩のダンジョンで活動している。因みに通信制の大学生でもある。
「田中琥太郎だ。食堂のスタッフとして働いているわけだが……探索者の資格も持っているため、今回の地下探索に召集された。久しぶりの探索最前線となる。色々と世話になる。よろしく」
田中は立ち上がって、最後にお辞儀をした。
「こちらこそよろしく。まさか食堂の兄さん! 何回か利用させてもらってるで!」
千葉は笑いながら、田中の背中を強く叩く。予想外だったのか、田中は痛そうな顔になる。
「あ。ありがとう。顔は覚えてたし、最前線でよく聞く名だと思ってたけど……交換研修だったんだな」
「ああ。あっちでも前におる人間やからな。自分は。それに半年もおるとな。ずーっと前からいるような感覚になるんよな。おっと。ずっと喋るのはマズイか。菊池」
菊池と呼ばれた172cmの中肉中背の黒髪男がこくりと頷く。
「おう。俺は菊池ヒカルだ。盾として使えるぞ! 多分!」
元気よく発言した。田中は色々と突っ込みたいが、本題に逸れてしまうため、言わないように堪える。
「それじゃ。本題に入ろうか。生物の種類はかなり少なめだ。ドローンの下調べの段階じゃ、一人ずつの横幅の通路。滑りやすいし、薄暗い環境下になるだろうねぇ」
王天佑が今までの振り返りを行っていく。わざわざ紙に丁寧にまとめている。それをテーブルの上に広げる。
「装備はこういう感じになるから、後で確認作業をする必要があるよ」
「うん。王ちゃん、予約しとるんか?」
「ちょっと待て。俺がやっとく」
「新井、おおきにぃ」
ポンポン会話をしながらも、事を進ませていく新井と王天佑と千葉である。
「あと並ぶ順番も決めなあか」
「はいはい!」
千葉の台詞を被せるように菊池は張り切るように手を挙げた。
「とりあえず俺が先頭でいいっしょ! 夜目は効く方だし!」
「そうしとこうか。あとは」
洞窟に似た環境下でのリスクとして何があるのか。どう動くべきか。万が一の時はどうすべきか。田中達は真剣に話し合った。その後は装備がある倉庫に行き、調整した方が良さそうなものは技術者がいる作業場に持っていく。ジグザグに折り曲げた金属で出来た水色の四角い建物に入る。
「失礼します! 至急頼みたいものがあるんですが!」
新井が作業の音に負けないよう大きい声を出す。何故か「しゃあ!」というおっさんたちの声が中に響く。状況を読めないため、田中達は困惑してしまう。
「すまないすまない。こっちの話だ。ああ。地下のものだってのは分かるよ。明日に間に合わせるようにするよ」
紺色のつなぎ服を着ている坊主頭の五十代の男が近づいてくる。探索者の上層からある程度事情は聴いているのだろうなと田中は感じた。
「それで期限は何時までだ」
リーダー格のような王天佑が答える。
「午前十時までにお願いします。厳しい場合は調整しますが」
「大丈夫だ。上からそういう頼みが来るだろうというのは聞いてたからね。あと細かい設計をAIに任せたりすりゃ間に合うさ。これで全部かね」
「はい。ありがとうございます。失礼しました」
「がんばりな」
この後、田中達は作業場から出て解散となった。出来る限りの準備は出来た。体調を整えて、明日の探索に備えよう。そう思う田中であった。
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