第19話 地下探索に関する情報公開

 ドローンが地下の道の調査を開始してから数日後。新入りの二人が慣れてきた頃だなと田中が感じていた時でもある。探索者のみが持つパスワードで見る事が出来る連絡が入って来た。時刻は午後三時。夜の営業時間に向けて準備が始まる時間帯だった。


「田中君。探索者のメールが来てるわよ」

「あ。マジですか」


 共に働く辻がタブレットに新しい連絡が入っていることに気付いたことから始まる。田中はすぐに控室に入る。題名を見て田中はとうとうやって来たかと思った。明日の午後四時に地下探索の情報公開が始まる。これはどの探索者でも奥多摩所属なら呼ばれるものだ。当日休みだった場合、一応振替休日してもらえる。


「田中君。研究部門から遅めの昼ごはんの注文が来たわ。サンドイッチでいいかしら」


 探索者の上部に連絡しようとした時だ。辻に声をかけられた。研究部門よ。その時間は昼ではない。おやつだ。それらを心の中で浮かんでしまった田中は言いたい事をぐっと抑え、返事をする。


「ええ。それでお願いします」


 その日は探索者の情報公開開催の確認を示した後はいつも通りの食堂だった。そしてその翌日の午後四時前。田中は探索者専用の建物に向かう。研究部門の建物の左隣。入って二階にある会議室に行く。奥にホワイトボード二つと吊り下げた布のシアター三つがあり、その前に折り畳み式の席と長いテーブルが多数ある。ほとんどの探索者が座っている。アメリカから来ているジョセフもいた。気付いたのか、振り向いて笑っている。丁度彼の右隣の席が空いていたため、田中はそこに座る。


「全員揃いましたので地下探索の情報公開を開始いたします」


 数分後に奥多摩ダンジョン所属の探索者全員が集まったため、地下探索の情報公開が始まった。身長百八十ぐらいある切れ長目のカッコいい三十代の男、永江という探索者の世界で上層部の地位にいる者が進行を担う。ダンジョン探索時の迷彩服ではなく、白いシャツとこげ茶色の綺麗なズボンと革靴という格好だ。声も顔も性格もよしということもあってか、女性から人気のある男である。


「ドローンの調査の結果、地下はこのようになっています」


 シアターに地図が映る。ドローンで撮影した位置と地図を併せたものだ。洞窟のように狭く暗い。水滴が上から落ちており、緩い下りの傾斜のため滑りやすいことを田中は理解した。


「この狭さですので一人ずつ通る形になります。暗いのでライトの装備を怠らないように。それと水滴で滑りやすくなっているので歩き方を心掛けるように。研修を思い出してください」


 研修の中に自然の中の歩き方も学習する。実際に山登りをして身に付ける場合があったり、雪の降る地域で練習したりする時もある。因みに田中は一月に東北のダンジョンでその研修を受けている。


「道具については配布資料に載っていますので目を通してください」


 気温や土や空気などの環境で装備も変わる。田中はすぐにスマートフォンのようなものを起動させ、配布資料をチェックする。一つ一つ丁寧に永江は道具の名前を言っていく。


「以上で我々が推奨する道具となります。ただし使う場合、今後地下で活動する前に身体に合うかどうかの確認をしてからでお願いします。成果を出すのも大事ですが、命あってこそですから」


 永江は右手で握っている何かを押す。シアターの情報が新しいものになった。カメラで捉えたダンジョンの生き物についてだ。


「現段階で発見した生き物は三種類です」


 三枚の写真だ。一枚目は白く光る長細い透明な羽根を持ち、目が大きい綺麗な蝶々みたいなもの。二枚目は逆さになっている丸い毛の塊で蝙蝠に近い。三枚目は赤い目みたいなものを持つ透明な蜘蛛で、手のひらに乗る大きさが最大だと書かれている。


「上の階層のダンジョンに比べると少ないです。しかし蝙蝠のようなものが吸血するのか否かで変わります。そのため事前に調査してから入るべきというのが研究部門の見解となっています」


 永江は再び握っている何かで操作する。今後のスケジュールが映し出される。


「今から探索のスケジュールを発表していきます。今週の木曜日までに発見した生物の詳細を調べます。また出来る限り、降りて何があるのかを見ます。その後に探索者を編成し、調査を開始します。今から質問を受け付けますが、ある場合は挙手をお願いします」


 探索者の資格を持つ者が次々に手をあげる。永江が名を言い、質問を聞き、それに答えていく。その繰り返しだった。想定した質問の数より多かったため、予定していた終了時刻の午後四時三十分を通り過ぎた。


「以上で地下探索の情報公開を終了いたします。皆様お疲れ様でした」


 永江の終了宣言と同時に田中はスマートフォンみたいな機械の電源を切る。ジョセフに軽く挨拶をし、全速力で歩く。探索者だが、料理人だ。即行で食堂に戻っていったのだった。

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