第6話 女子高生ご来店 前編
四月中旬に入った頃。田中はいつものように夜の営業時間が来るまで準備をしていた。途中でダンジョンの二階以上に行ったため、少し計画がずれているが、間に合わせれば問題ないのだ。
「センセーが言ってた食堂って奴だよね」
「うん。でもまだ開いてないみたいだけど?」
若い女子の声が二つ。入り口近くで隠れているつもりなのだろうが、田中には見えていた。プリーツスカートの端が出ている。黒色の髪も出ている。
「お前たち何やってんだ?」
「うわー!?」
新井が話しかけたことで女子が悲鳴をあげた。
「新井先輩かぁ。びっくりさせないでくださいよ!」
「いやーこっそりと何かやってるからつい」
少し騒がしいので田中は入り口付近まで行く。彼女達が新入りっぽいので話しかけたいというのも理由である。
「新井、確か……暫くダンジョンの上層階で寝泊まりじゃなかったか?」
とりあえず最初に常連の新井に話しかける店主だ。女子二人は彼らを観察するような目で見る。
「おう。ちょっと早めに切り上げた。ドローンが確認したところまで行っちまったからな。上の階層に行くのは来週になってからだろうよ」
「そういうことか」
田中は納得したように言った。新井は最前線にいる人間だ。そういうこともあり、常連とはいえ、来られない時も普通にある。今週はそういう予定だったのだが、ドローンで把握した範囲を主に探索しきったため、食堂前にいるようだ。
「そんで育成機関にお邪魔してたってわけだ。因みにこの二人がこの春に新しく入って来た研修生って奴だよ」
一人は染めている黄土色の肩まである髪をツインサイドテールにし、黒色主体のセーラー服に桃色のタイをつけている。もう一人は肩から腰の中間あたりまである黒髪をポニーテールという形で結び、ブレザー制服と呼ばれるものを着ている。身長に大きい差がなく、どちらも150後半はあるだろう。
「てなわけで自己紹介しまーす。今年の春から研修生として来てます。佐藤真美亜と言います。私立詩乃学園高等部一年です!」
黄土色のツインサイドテールの女子高生が明るく名乗った。詩乃学園は東京都内にあり、最近共学化した。田中が通っていた専門学校にもその出身がいたため、名前だけは知っている。何となくギャルっぽい雰囲気を醸し出しているが、本当かどうかまでは分からないだろう。
「佐藤さんがやったので……私もやります。伊津野陽菜と言います。彼女と同じく、私も春から研修生としてこちらに来ています」
伊津野と名乗る黒髪の女の子は静かにお辞儀をした。静と動。あまりにも対照的なコンビである。
「ご丁寧にありがとう。田中琥太郎だ。探索者の資格を持つ料理人だ」
彼女達が名乗ったのだからと、田中も名を言った。視線を食堂のログハウスに移す。
「ここで立ち話というのもあれだ。中に入れよ」
田中の誘いに彼らは……、
「んじゃお言葉に甘えて」
「失礼します」
あっさりと受け入れた。最初から入る気満々だったろと田中が感じたことである。
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