第4話 感じていた優越感と後悔
小学校の時から時々感じていた視線。
最初は偶然かと思ったけど、中学に入った時に確信した。
クラスが変わってもあいつは俺の事をずっと見ていた。
俺の姿を見るためだけに登校時間を合わせて昇降口で待っているあいつ。
はっきり言って気分が良かった。
小学校の時は話す事あっても、上から目線で他人に冷たかったあいつが俺に夢中なんだと思うと何とも言えない優越感に浸れた。
それは俺の学校生活を輝かしいものに変えていった。
「誰かに好かれている。」
それだけで自分に自信がつく。
大好きなバスケ、そんなに好きじゃない社会の意味のない暗記にも身が入るってもんだ。
俺の事を好きだって思う女子は沢山いたけど正直興味なかった。
でもあいつは違う。
他の誰にも冷たいあいつが俺にだけ注ぐ熱っぽい視線。
いつか俺に告白してくるんだって期待していた。
付き合ったら運動が苦手なあいつにバスケ教えてやろうかな。
テスト前は一緒に勉強したりすんのかな。
そんな風に描いていた青春の未来図を、俺は自らの手でぶち壊してしまった。
だから今再会してすごく後悔している。
小山夏希はそこまで目立つタイプではないが、小学生顔負けの彼女の持つその長い手足でミニスカートを履いて来た時には学校の男どもの視線を一気にさらっていった。
大人になって再会した彼女はさらにあか抜けていた。
長い手足にくびれの身体がついて、大人の女の顔をした彼女は学生の時とは見違えるほど「いい女」になっていた。
同世代の女性と会う機会はあるけど、とても小6の子供が居るようには見えなかった。
あの時のようなとげのある話し方もしないし、自分の子供達を快く受け入れてくれたり、ワインの入ったグラスを持って陽気に笑う彼女を愛おしいと思ってしまった。
この時間がずっと続けばいい。
このまま美沙とはなかった事にして小山と三人の子供と家族だったら良かったのにとか、最低な事を考えてしまった。
「岡田?」
夏希の呼びかけで雅人は我に返った。
「何?」
「あのさ、うちは全然いいけどほんと奥さん大丈夫?実際何があったの?」
雅人は家内である美沙とうまくいっていない事から小山家に来るようになったのだが、はっきりとした理由を伝えていなかった。
夏希も始めは気を遣って理由を深く追求しなかったものの、さすがにしびれを切らして思わず聞いてしまった。
「そうだよな・・さすがに何も言わずにって都合いいよな。」
「そういう意味じゃないけど・・・はっきりした事情分からないままだと何かモヤモヤするってゆーか。」
「言われてみればそうだよな。自分達が同級生だったとは言え、世間からしたら保護者同士って関係だし、周りの目とか小山も気になるよな・・・。」
「それはあるかも!不倫とか言われても嫌だし、ちゃんと聞いときたい。」
「実は・・・もうしばらく帰って来てないんだ。LINEは既読つくし、返信も来るけど・・・。」
「え?どのくらい?」
「もう2カ月かな。ちょくちょく実家帰る事はあったけど、さすがにな・・・。」
「奥さんは・・・やっぱり浮気してるって事?」
夏希は雅人の口もごった言い方にじれったさを感じ、確信をついた答えを聞いてしまう。
「そうだと思う。」
雅人は認めたくないのかはっきりと断定はしなかった。
「確かなの?」
「あいつの実家に聞いたら帰って来てないって言うし・・・・実は相手も分かってるんだ。」
雅人の妻である美沙はパート先である印刷会社に新入社員とここ1年位頻繁に会っているらしい。
始めは職場の飲み会に3カ月に1回程度参加する程度だったが、だんだんと夜の外出の頻度が増え、しまいには雅人が在宅勤務になったのをきっかけに外泊も増えたそうだ。
今現在に至っては、もう2カ月ほど美沙は帰っておらず、仕事の合間に全ての家事育児を雅人が行っているとの事だ。
始めは「実家で少し休みたい」と言っていた美沙の言葉を信じていたが、あまりにも長すぎる帰省に実家に連絡を取ってみた所、「娘は帰ってきていない」と言われ、薄々感じていた疑惑が本物になったのだ。
雅人の話を聴きながら不憫に感じながらも、「もしかしたら」の可能性を期待せずにいられない夏希だった。
25年越しのフォークダンス まろん @9mayukko9
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