第3話  雅人に抱かれた女

同じクラスのちょっとクールで大人びている雅人。


バスケを習っていて運動神経抜群。


控えめに言って「かっこいい」


だから目が合うと恥ずかしくて反らしちゃうし、話しかけられても可愛くない答え方をしちゃう。


でもこっそり見つめてた。


バスケ応援しに行ったり、同じ係に立候補したり。


一日何回か目が合うだけで胸が高鳴る。


喋れた日は記念日。


それだけで幸せだった。



あれから小山家と雅人達が夕飯を共にする事が増えていた。

優と柊也がもともと仲が良かった事もあり、夏希が仕事を終えて帰ってくるまでの間、2人は小山家で宿題やゲームをして過ごしていた。

そこに仕事を終えて帰って来る夏希が夕飯の支度を始め、雅人が凛久を連れて小山家にやって来る。

これが最近のルーティーン。


「あのさ、ご馳走になってばっかりだと悪いからこれ、会費として受け取って!」

雅人は凛久をリビングの床に下ろして、夏希に1万円札を渡した。

「あぁ!いいのに~でも助かる!ありがとう!でも会費って何よ(笑)」

「え?食事会?飲み会?の会費(笑)」

雅人はすっかり勝手知ったるという感じで買って来たワインやビールを小山家の冷蔵庫に入れていった。

「今日の夕飯何?」

「私もさっき帰ってきたばっかりでさ、おでんにしたの。」

夏希はスーパーの見切りの値札の付いたおでんセットの大袋を持ち上げて見せた。

「お~いいじゃん!今日は寒いしな。」


優と柊也、互いの息子同士が小山家にて遊ぶ時、雅人が凛久を連れて迎えに来るついでに買い出しをしてきてくれて一緒に夕飯を共にする。

週に2回程度だが、この時間が夏希の生活を輝かせていた。


学生の時は遠い存在だった憧れの雅人が今自分の家で子ども達と一緒に食事を共にしているのだ。


これがずっと続けばいいのに・・なんて願ってはいけないよね。


「今日はね、優と柊也君、私が帰ってくる前におでんに入れる大根切ってくれたりゆで卵用意してくれてたの~!おかげで助かっちゃった!」

「最近お世話になりっぱなしですから!」

柊也は自分の持っているお椀に竹輪や餅巾着をよそいながら告げる。

「ったく柊也は調子いいな!」

「父さんだってちゃっかり居座ってるじゃん。」

柊也と雅人がじゃれ合っている場面が夏希には微笑ましかった。

「うちは全然いーよ。柊也が来ると柊也のお父さん来るから、かーちゃん嬉しそうだし。」

「優!!」

自分の淡い期待に息子の優は気付いていたようで、淡々と自分の心情を言われてしまってかーっと熱くなるのが分かった。

「ははは!優君、それほんと?俺もまた小山に会えて嬉しいよ!」

「・・・っ!」

雅人の「嬉しい。」に特に意味なんてないんだろう。

分かっている。

だってあの時も・・・・。


「りっちゃんトイレ~」

「あ!優、凛久ちゃんトイレ連れてってあげて!」

柊也の妹の凛久がトイレを訴えてきた事で我に返った夏希は、優を呼んだ。


「小山、ほんとありがとな。最近俺も・・・美沙の事で結構参ってたから元気貰ってる。」

美沙、というのは雅人の妻の事だ。


雅人からその名前を聞く度、無意識に「雅人に抱かれた女」という異名が頭をよぎってしまう。

見えない相手への嫉妬が少しずつ夏希の心をかき乱していく。







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