第14話 人神友装/ヘミテオス・アミキティア
[適性存在二体を確認。これより、排除します]
無感情な機械音声ととも無数のロボット兵が俺たち目掛けて進軍してくる。建物や人を襲っていた個体も狙いを切り替えているところを見るに、よっぽど高い優先度に認定されてしまったみたいだ。やれやれ。
「準備はいいかよ、カナ」
「なんの準備かしら。アタシは最初っから準備万端なのだわ!」
よく言うぜ。さっきまで半泣きだったくせに。だけど、その空元気は心強い。
一緒にいようと啖呵を切った手前、俺も頑張らなきゃだしな。そう思うだけでも力が溢れてくるってもんだ。
「―――マモル」
「なんだ、よっ?」
呼びかけられてカナの方に顔を向けた瞬間、唇に柔らかくて熱い感触。キスされたのだと理解するのと、体中の魔力が活性化したのは同時だった。
体中が熱くなって活力が漲ってくる。それと併せてカナの想いが流れ込んでくるのを感じた。戸惑い、寂しさ、そしてそれらを上回るほどに大きな嬉しさ。その全ての想いが大きな波濤となって全身を包み込む。
爆ぜ昇った魔力の奔流が収まるとカナの姿が消え、その代わりに俺の内側にその気配を感じることができた。
「カナ……?」
『にゃはは、アタシたちの初めての共同作業ねっ!』
脳内でようやくいつもの調子に戻った騒がしい声が響く。
いや共同作業って。照れるだろ。
『マモル、今ならアタシの力を一部だけど使えるわ。合わせて。一緒に唱えるわよ!』
言われずとも、唱えるべき言葉が口をついて出る。
―――人神友装。
「『ヘミテオス・アミキティア!!』」
体内を満たす暴れ狂う力が魔神の命に従って、俺の手足を覆う半透明のオーラの鎧と化した。その色はカナの纏うドレスと同じ深紅に染まっている。
「なんだこれ。力が無限に溢れて……!」
『アタシとマモルの絆の証。人と神が心を通わせて可能となる想いの結晶よ。ほら、敵が来るわ。戦いましょう、二人で!』
言われなくたってそのつもりだ。両の足を踏ん張り、両の拳を握り込む。
[敵性存在の霊力増大を確認。ただちに排除行動へ移ります]
ロボット兵が素早く連携しこちらへ襲い掛かってくる。だけど、今はもう怖くもなんともない。ああ、そうだ。今なら、たとえ神が相手だって負ける気なんて微塵も。
「しねぇな!」
『しないのだわ!』
一歩踏み込む。石畳の地面を砕いて俺の体が前へすっ飛んだ。
一秒で眼前に届いた敵目掛けて、引き絞った右拳を全力で振り抜いた。
ドゴォ!! と、およそ無機物を殴ったとは思えない重い衝撃とともにロボット兵の機体がひしゃげて吹き飛んでいく。
僚機の破壊に混乱するような挙動を見せるロボット兵を一瞥して、俺は構えた〈マリステラ〉をボウガン形態へ変形させて、ありったけの魔力を流し込む。
「“均衡を破る三叉炉心が一つを呼び起こす。我求めるは、あらゆる障害を乗り越えて切り拓く為の力。顕現せしは森羅に届く
館で使えるようになったジョブクラス〈ノーティラス〉の能力。アーティファクトに秘められた真銘を解放し十全の力を引き出すスキルを発動させる。
『マモル、今度はアタシの力も使える。放つ矢を分裂させて一気に敵を狙うのだわ!』
「おう!!」
変形した〈マリステラ〉の
「よし、これならいけるぜ!」
『待って、マモル。なにか様子がおかしいのだわ……?』
カナの訝しむ声と同時に、粉々になったはずのロボット兵が次々に一点を目指して動き出す。機巧が軋む音を立てながら、一体ずつ変形・合体していく。あっという間に、俺たちの前に巨大化したロボット兵が立ちはだかった。いよいよこちらを本気で潰すつもりらしい。
「デカい……!」
『大丈夫よ。アタシたちなら!』
体内の魔力がさらに高まり続ける。気を抜けば呑み込まれそうな程の熱を四肢のオーラへ巡らせて、ロボット巨兵へ飛びかかる。
放ったパンチの重さが巨兵を一気に押し返すが決定打にならない。なんとなくだが、持久戦は分が悪い気がする。決めるなら一撃だ。
「打撃じゃダメなら―――」
『だったら切り裂くのよ。立ちはだかる全部を斬り拓く、マモルの
リィン、と。
握りなおした〈マリステラ〉の刀身が俺たちの高まる魔力に呼応して振動する。イメージするのは、鋼鉄すら断ち切る最強の斬撃。それを口上に乗せて唱える。
「“均衡を破る三叉炉心が一つを呼び起こす。我求めるは、あらゆる障害を踏み越え切り拓く為の力。顕現せしは万象を薙ぐ
上段に構えた刃に紅のオーラが収束する。俺とカナ、二人の呼吸がピタリと合わさった瞬間、一気に振り下ろす。
「『切り裂け、トリシューラぁあああああああ!!』」
放たれた鋭い一閃が、ロボット巨兵の厚い装甲をあっさりと両断する。真っ二つになった機体が一拍遅れて大爆発した。
「はあ、はあ……。やった、ぜ……」
「マモル!」
合体を解いたカナが勢いよく抱き着いてくる。力を使い果たした俺はたまらず後ろに倒れ込んだ。
「アタシ、なにがあってもマモルと一緒に戦うわ。今度こそ、最後の瞬間まで!」
「ああ……。俺も同じ気持ちだ、カナ」
ひょんなことから右も左もわからない異世界で冒険をする羽目になったけれど、信頼しあえる仲間がいてくれるなら、きっと乗り越えられる。カナだけじゃない。トワや、行方はわからないが咲だってそういう仲間なのだから。
そうすればいつか、必ず元の世界のクラスメイトたちとも再開できるはずだから。
なんて安堵しながら、俺はふっと意識を手放したのだった。
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