第13話 神泣いて絆固まる
爆発があった入り江の方へ向かうと、収拾が付けられない大騒ぎになっていた。
港の綺麗だった外観は壊れ果て、あちこちから火の手が上がっている。その元凶は、今も街の人々を襲っているロボット兵器とでも呼ぶべき大量の敵だった。
「なんだよあれ!」
「教会の手先、おそらく【
こちらを見るルナの顔が険しい。俺のミスとでも言いたげだ。実際そうなのだろうと思うとぐうの音も出ない。
「今は責任の所在なんざどうでもいいさあ。それよりもみんなを守らないとな。ルナ、来い!」
「はい、喜んで。我が王」
ルナが静かにシンの傍らに寄り添う。こんな時になにをするのか見てると、あろうことか二人は口づけを交わし始めた。優しくしかし激しく。見せられるこっちの身にもなれ。っていうか。
「なにしてるんだよ!?」
「黙ってな兄弟。野暮だぜい?」
「野暮っておまえな…!」
なんて言いあっていると、港を襲っていたロボット兵器のうちの一体がこちらを狙ってきた。俺も〈マリステラ〉を抜いて応戦しようとしたのだが。
「だーから野暮だってんだろうが。―――逢瀬の邪魔してんじゃねえぞ」
「!」
背後。情熱的なキスをしていたはずのシンから、強烈なオーラが放たれるのを感じた。振り返って見ると、ルナの姿はない。だが直感でなんとなくわかった。
シンの両脚を守るように装着されている武骨ながらも優美なラインを描くデザインのレギンス。それは。
「……ルナ、か?」
「おっ。そういう理解は早えな兄弟。そうとも、これが俺達の愛、
「あっ、おい!」
言うだけ言って猛スピードで飛び出したシン。まるで地面を滑るかのように素早く、しなやかな動きで、一気にロボット兵器へ近づくと強烈な回し蹴りでその重たそうな巨体を吹き飛ばした。
止まらずに縦横無尽の動きを見せるシンが、港を襲う敵兵器を次々に蹴り倒していく。ルナと融合し、その力を行使しているのだと直感で把握したが、理解が追いつかない。やはりあの二人只者じゃないようだ。
「マモル、無事、なの?」
応接室で待っていたトワも騒ぎを聞きつけて出てきたようだ。そういえばカナがいないと辺りを見回すも、姿はない。
「トワは無事みたいだな。なあ、カナを見てないか?」
「あの女ったらまだ拗ねているよう、なの。放っておいて、今はわたしたちでなんとかする、の」
言い方はあれだがトワなりの優しさ的な物を感じる。だけど、俺は。
「……ごめん。ちょっと探してくる!」
「マモル、待つ、の―――」
静止の声を振り切って駆け出す。
どこに行ったのかはなんとなく勘でわかる。港横の路地裏を何度か曲がった先、人が寄り付かないような真っ暗な袋小路。その先にカナがいる気がしたから。
いくつかの路地を闇雲に当たって覗き、そうして何個目の暗がりに踏み込む。
しかし奥に辿りつく寸前で、立っていられないほどの衝撃に吹っ飛ばされた。
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カナは独り泣いていた。
大好きな人に自分の正体をばらされたから。
違う。
悲しいのは魔神としての自分をこの世界の "神" と同列だと思われたことだ。冷たい戒律で世界を支配する "神" 。
自分なそんな物ではない。だけど、それこそそれはマモルには関係がない。彼からしたら超常の全ては同一で意味不明な理解できない物なはずだから。
「やっぱりイヤかな……。人間じゃない存在がニコニコしていても気持ち悪いわよね……」
[ガァアアアアアアアアア!!]
「!」
座り込んでいた路地裏の横の壁が、咆哮のような耳をつんざく機械音と共に砕け散った。
慌てて飛び退いたが、自分の動きが鈍いのがわかる。
すぐさま迫る鋼の拳に身がすくむ。変だ。いつもなら一切思考せずとも反撃している。魔神である自分が怯えている? あり得ない。だけど今は思ってしまった。
助けて―――。
「助けてよ、マモル…!!」
「言うのが遅えよ!!!」
「!」
直後。温かく力強い声とともに眩しい白銀の光が差し込んだ。
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衝撃波に体を殴りつけられる寸前、〈マリステラ〉を呼び出して身を守る。そのまま発生源である路地裏へ無理やり突っ込む。
そこで目にしたのは、一際巨大なロボット兵器が今にも座り込むカナを殴りつけようとする状況だった。
反撃が遅れ、鋼鉄の拳が迫る中で、カナの頬を伝う雫を見てしまった。
今認識できる全魔力を足に集中。地面にクレーターを刻むほどの踏み込みで駆け出す。
拳とカナの間に割り込む瞬間、彼女の声が確かに聞こえた。“助けて”と。
まったく。
「言うのが遅えよ!!」
「!」
魔力の流れをコントロールすることにも慣れてきた。足に回していた分を瞬時に腕に流し込み、振り抜いた〈マリステラ〉で敵兵器を押し返す。そして再度足に魔力をチャージ。踏み込み直して追撃。兵器を胴から真っ二つにせしめる。
爆発からカナを庇いつつ、辺りを見回す。幸い敵影は他にない。
「ふぅ。大丈夫かよ、カナって、のわぁ!?」
「マモル…! マモル……!!」
胸元に飛び込んできたカナに驚きつつも、しっかりと抱きしめる。初めて自分から彼女に触れた気がするが、今は構わない。彼女が流す涙を見たら、そうしないといけない気がした。
「どうして……。どうして、助けに来てくれたのかしら?」
「そんなの当たり前だろ。仲間なんだからさ」
「仲間……。だけど、アタシは魔の神なのよ。マモルと一緒いたらアナタを不幸にしてしまうかもしれない。だからきっと別れるべきなのだわ」
初めて会った時からは信じられないほど弱気なカナの声。声音から悲しみと孤独が伝わってくる。
まったく、本当にふざけてる。
「あのなあ。お前がなんなのかなんて関係ないんだよ」
「ーーーえ?」
「だってそうだろ。お前はカナ。俺を助けてくれて、一緒に旅をしている女の子。トワだってそうだ。それだけで充分だ。正体なんて知るもんかよ」
なんて話している間にもこちらへロボット兵器が次々に群がってくる。全部破壊するまでこの騒ぎは収まらなさそうだ。
[ギギ、ギ。人間一名、危険度Sの魔神を一柱確認。適性個体と判別、排除します]
なんだかよくわからないが、こいつらがこの世界の神が強いる理不尽で。教会の連中が俺たちの行く手を阻もうとするってんなら。
「立てよカナ。立って一緒にこの理不尽を乗り越えようぜ。一人じゃ大変でも、二人でならきっと楽しいことがいっぱいあるはずだろ?」
「うん……!!」
いまだ震えるカナの手を取る。そして、二人一緒に並んで、立ち塞がる敵の前へ初めて同じ歩幅の一歩を踏み出すのだった。
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