第9話

「コイツがアークか。」

俺はアジトの最奥にある研究室のような場所に訪れていた。

少女が液体で満たされたカプセルの中に漂っている。

「そう、この方が私達の主、アーク様よ。」

アポフィスはうっとりとした顔で答える。

「見た目はただのガキだが、どれくらい強いんだ?」

「こんな姿になったのはこの世界に来るために力を使い果たしたからよ。以前はもっと凛々しいお姿をしていたの。」

「そうかよ。それで、復活するまでは後どれくらいだ?」

「ハッキリとは分からないけど、もうすぐだと言うのは断言出来るわ。」

「その言葉が本当だと良いんだがな。」

「疑っているの?」

「お前らとは時間の感じ方が違うんだ。」

「もうお帰りかしら?」

「ああ、ボスがどんなヤツか、知りたかっただけだからな。」

俺はそのまま研究室を出て行く。




私は激痛で目を覚ます。

「どこ?ここ…」

周りを見渡すと病室のようだが、気を失っている間に何があったのだろう?

「シャル!大丈夫だった?」

「ピクシー。大丈夫よ。それよりもどうしてこんな所に…」

「だから、私にはピーピルって言う名前があるって言ってるのに!それはそうと、親切な子達が人を呼んでくれたの。」

「親切な子達?それって」

「あ、起きたんだ!心配したんだよ?」

少女の朗らかな声が聞こえ、ピーピルは慌てて隠れる。

ピーピルが隠れたのを見たシャーロットはその声の主に目を向ける。

「あなたは、隣の席の…」

「天野希だよ!倒れているのを見つけて救急車を呼んだの。」

「そうだったの。ありがとう」

「ねえ、あなたはこれが何なのか分かるんじゃない?」

希は変身アイテムであるコンパクトを取り出した。

「それは!」

「やっぱり知ってるんだね。あの時の紫の魔法少女はあなたなんでしょ?」

「そうだとしたら、何?」

「私達、協力しない?相手はとても強い。みんなで力を合わせれば!」

「黙って。私は友達ごっこをするために日本に来たわけじゃないの。私には、殺さなければならない男がいる。」

「あなたは本当は優しい子のはず。だって、魔法少女に選ばれたんだもの。でも、今は憎しみに囚われているわ。どうして魔法少女になったのか、初心を思い出して!」

Shut up黙れ!お前に何が分かる!ジャックは罪の無い女性を何人も殺した。私の姉も…私が、仇を取らないといけない!」

「私にはあなたが何を思っているのか分からないけど、ジャックが殺人鬼だと言うならそれこそ早く倒さなければいけないよ。仲良くなんてしなくてもいい。ジャックを倒すために協力するべきだよ。今はね」

「分かった。」

「それじゃあ、先生を呼んでくるから、またね。」

希はそのまま帰って行った。

「どう?叫んでスッキリした?私が防音の魔法を使ってなかったら色んな人に聞かれてたよ。」

「スッキリはした…かな。うん、ありがとう」

「ありがとうだなんて、珍しい事もあるものだね。」

「う、うるさい!私は寝るんだから!」

「狸寝入りって日本のことわざがあるんだって。」

「あー!聞こえない聞こえない!」

シャーロットは耳を塞ぎながら、布団に被るのだった。




「おや、今日はエナジーを集めに行かないのですかな?」

「気分じゃない。」

「そうでしたか。」

「お前、何を持っている?」

「これですか?街に出た所、美女を助けたので、その方からお土産をもらったのですよ。」

「随分血なまぐさいお土産だな。」

「そうでしょう、そうでしょう。私はとても気に入っているのです。では、私はこれで。ダメになってしまうといけませんからね。」

ジャックが去って行くのを見送る。

「お土産、ねぇ」

休憩室でコーヒーを啜っていると、マルシスが入って来た。

「げ、お前かよ。」

「それはこっちのセリフだ。最近見なかったが、どこに行っていた?」

「ちょっとばかしお使いだ。アポフィスから頼まれてな。」

「という事はボス絡みか。」

「そう言う事だ。」

「ご苦労な事だ。俺はもう行く。」

休憩室を後にし、街に出てきた。

何かをするつもりは無いが、手持ち無沙汰だったため暇つぶしだった。

「暇つぶしか。そう言えば、俺は趣味なんかも無かったな。どうやって暇を潰そうか…」

「「あ」」

「ん?お前らは…誰だ?」

見覚えのある2人がこちらを見て固まっている。

「麻美、どうする?」

「百合さん、どうしましょう?」

じっと顔を見て思い出そうとするが、記憶にモヤが掛かっているかのように思い出せない。

「思い出せないと言うことは、そこまで重要な事じゃないって事だな。」

2人組を放置して俺は散歩を再開する。

公園のような定番コースは避け、人通りの少ない路地裏などを歩く。

子ども笑い声など聞けば暴れたくなるかもしれないからだ。

「この辺りには来た事が無かったな。」

キョロキョロと周囲を見渡すが、それよりも気になる事がある。

さっきの2人が俺の後をコソコソとついてきているのだ。

「バレてないと思ってるのか?」

後ろ目に見ながらどうしようかと悩む。



「あの人絶対アフリだよね。」

「絶対にそうです。私達は認識阻害があるので気付かれませんでしたが」

「でも、何かするつもりは無さそうだよね。」

「イーヴィルを出現させるならもうやっているはずですし、目的が違うのでしょうか?」

「あ、あそこの曲がり角を曲がったよ。」

「行きましょう。」

すぐに曲がり角を覗き込むとアフリはいなくなっていた。

「あれ?いなくなってしまったわ。」

「気付かれていたのでしょうか?」

「そうかもしれないわね。後を尾けるのは諦めて帰りましょう。」

「そうですね。」



「やっと諦めたか。」

少し離れた所から2人を眺めている。

「どこかで見た顔だと思うんだがな?」

この疑問はまったく解消されず、何かの胸騒ぎのような物のせいで四六時中モヤモヤする事になるのだった。

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