第7話
俺が休憩所に行くと、コーヒーを飲むために仮面を外しているジャックがいた。
「おや、休憩ですか?」
「基本暇だからな。」
「…この顔の事は聞かないのですか?」
ジャックの顔には大きな切り傷があった。
「どうでもいい。」
「そうですか。では、私が話したいから話すとしましょう。」
「勝手にしろ。」
「母は娼婦だったそうです。父との関係は客で、父は母を気に入り何度か買ったそうですが、そんな折、母は妊娠しました。その事を知った父はその店には来なくなりました。女手一つで私を育てなければならず、思うように客が取れない事に苛立った母は私の顔をガラスで切り裂きました。私の目が父に似ていたからだそうです。幸い失明する事はなかったのですが、大きな傷跡が出来てしまったのです。」
「よくある不幸話だな。」
「おや、不幸話はお嫌いでしたか?」
「不幸話は好きだが、そうやって不幸ぶっているヤツは嫌いだ。お前がこんな事をやっているのはお前が真っ当に生きていけないクズだからだ。親のせいじゃない。」
「自分は違うとでも?」
「何も違わない。親の虐待なんてどこにでもある話だ。そんな事で被害者ヅラするなと言っている。俺がここにいるのは誰かのせいじゃない。俺が楽しむためにここにいるんだ。」
「Good!ここまで議論を重ねた私達は親友と言っても過言では無いでしょう。これからも仲良くしていきましょうね。」
「誰が親友だ。気持ち悪い。」
「Oh、照れ隠しですね。」
「黙ってろ。」
コーヒーを飲む気分でなくなった俺は何もせずに元きた道を戻った。
希達のいる学校では、転校生が来るという噂で持ち切りだった。
「どんな子なんだろうね?」
「外国人だと聞きましたけど?」
「希は相手がどんな人でも友達になるんでしょう?」
「当然だよ!私はみんなと友達になる事が夢なんだから。」
「はーい、皆座ってー。予鈴はもう鳴ってるでしょう。」
クラスの担任が入って来て席に座るよう促す。
「知っている人もいるかもしれないけど、今日は転校生を紹介します。入って来て」
教室に入って来たのは金髪の少女で、緊張をしているようには見えず、無関心だと感じた。
「私はイギリスから来たシャーロット・エバンズと言います。よろしく」
「皆仲良くしてあげてね。それじゃあ、天野さんの隣が空いてるわね。あそこに座ってね。」
「はい」
横に座ったシャーロットに希は声をかける。
「これからよろしくね。私は天野 希、何か困った事があったら何でも聞いて、力になれる事なら何でもするよ。」
「そう、ありがとう」
シャーロットの言葉は少し素っ気ない言葉だったが、希はまったく気にしていなかった。
休み時間にはクラスメイトが取り囲み質問攻めにしたが、シャーロットはそれにも素っ気ない対応をとった。
「ねえ、一緒にご飯食べない?」
「私は1人で食べるのが好きなの。」
「そっか、それじゃあまた後でね。」
昼休みにも声を掛けたが断られてしまう。
「エバンズさんはどうしてあんな態度を取るのでしょうか?」
「分からないけど、なんだか焦っているように見えたわ。」
「焦っている?何を焦ってるんだろう?」
「さあ?それは私にも…」
「本人に聞いてみればいいのではないでしょうか?」
「そうだね。私達はあの娘の事何も知らないから、当たって砕けろだね!」
「砕けたらダメじゃないかしら。」
「希らしいですね。」
それから放課後に3人でシャーロットと話をする事にした。
「話って何?」
「何だか、悩んでそうだったから、悩みがあるなら話してみない?そうしたら…」
「そんな事をして何になるの?私に関わらないで」
「そんな言い方!」
「私は!こんな所でお友達ごっこしている場合じゃないの。もういい?私は行くから。」
「私はあなたと友達になりたいと思ってる!だから!」
「言ったでしょ。友達ごっこをするつもりは無い。私に友達なんて必要無いの。」
そのままシャーロットは去って行った。
「あはは…ダメだったね。」
「何か悩みがある事は確定したけど、それがなんなのかは分からないわね。」
「人をあそこまで拒絶するような悩みですか?」
「そういう事になるわね。彼女には何か目的がある。その目的は彼女を追い詰める何かである事ね。」
「普通ならスポーツとかかな?大会の前とかはメンタルが不安定になるって聞いた事あるよ。」
「スポーツならこの学校に転校する必要は無いわ。何かに追われているという可能性も薄い。」
「復讐…でしょうか?誰かを追い掛けて来た、とか?」
「ダメね。推測の域を出ないわ。」
「じゃあおじさんに調べてもらう?」
「海外の事まで調べられるのかしら?」
「確かに。尾行でもしてみる?なんて冗談だよ。」
「それも良い考えね。」
「え!絶対反対されると思ったのに。」
「私だってそんな事したくないけど、何かあってからだと遅いでしょ?」
「大丈夫でしょうか?先に先生に相談しておいた方がいいのではないでしょうか。」
「それもそうね。それじゃあ先に先生に相談してみましょう。」
「やっぱり、3人寄ればもんじゃの知恵だね!」
「文珠よ。」
「あれ?」
そうだっけ?と首を傾げる希を連れて相談に行くのだった。
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