第2話

「これであなたは4人目の幹部になったわ。」

ベッドから起き上がった俺にアポフィスはそう言った。

「幹部だと?俺には信用も実績もまったく無いはずだが、なぜだ?」

「心に抱える闇の大きさで私達の能力は変わるわ。そしてあなたの持つ闇は私を超える程のもの。簡単に言うと強い仲間は大歓迎という事よ。」

「そうか。まあ、俺には地位など興味ないがな。」

「自分から聞いてきた癖に。それはそうと、あなたの能力を確かめましょう。あなたも気になるでしょう?」

「確かにそうだな。」

「ちょっとした広場があるの。ついて来なさい。」

無言で俺はアポフィスの後ろをついていく。


そこにはバレーボールのコート程度の広さのある広場があった。

「結構狭いんだな。」

「幹部はあなたも入れて6人しかいないのよ?これ以上広くても持て余すだけよ。」

「幹部専用なのか?」

「別に専用という訳じゃないわ。誰も使わないだけ。こんな話はいいのよ。ほら、能力の使い方は分かるはずよ。」

アポフィスの言うように腕に力を込めれば目の前の壁を壊す事が出来ると俺は無意識に感じていた。

「…これは」

頭の中に浮かぶ考えを実現させるために腕に力を込める。

そうすると丸い小さな物体が出現した。

「何なのそれ?」

「何か繋がっている気がする。」

覗き込もうとするアポフィスを追い払い、さらに力を込めると物体は突然爆発した。

「うわ!って、どうして無傷なんだ?」

「あなたの能力は爆弾を生み出す能力なのかしら?爆弾魔らしい能力ね。」

「俺はなぜ爆発したのに無傷だったんだ?」

「自分の能力でダメージを受けてたら意味無いじゃない。私達は固有の能力を持っているけど、それに対する耐性も凄まじいの。」

「という事はまったくの無傷という事では無いのか?」

「そうよ。今回は爆弾が小さかったから無傷だったけど、もっと大きい、ビルを倒壊させるような爆弾なら死なないまでも大ケガを負っていたでしょうね。」

「能力の使用制限はあるのか?」

「私達はイーヴィルと同じくダークエナジーを使って能力を使用しているわ。エナジーが尽きるまでの時間はどれくらい能力を使ったかという事しか目安が無いわね。最後に頼りになるのは感覚よ。引き際を間違えないようにね。」

「なるほどな。」


俺は他の能力の確認も行い、ある程度理解を深めたと感じた後アポフィスに向き直った。

「大体分かった。まずすべき事は魔法少女を倒す事だろ?」

「そうだけど、いきなり実戦をする気なの?あなたが倒されると私の立場が悪くなるからやめて欲しいのだけど。」

「大丈夫だ。これでもリスクマネジメントには自信があるんだ。それにやって覚えていけばいいんだ。」

「あっそ、なら止めないわ。勝手にしなさい。」

「ああ」

「待ちなさい。これを使ってイーヴィルを作るのよ。貴重な物なんだからちゃんとダークエナジーを回収してくるのよ。」

アポフィスは種のような物を投げて寄こした。

「やるだけやってみるさ。」

アポフィスは期待はしないと言うかのように手を振っただけだった。



アジトから出て来る時はワープ装置の様な物を使うのだが、浮遊感のせいで少しだけ気分が悪くなる。

「俺は車酔いしやすいんだよ。クソが…さて、良い感じのヤツはいないかなと。」

イーヴィルを作り出すための人間を探して歩き回る。

「まあ、誰かを殺したい程憎んでるヤツなんてそうポンポンといねぇよな。ん?あれは」

俺が見つけたのは下校中の小学生だった。

その中にたくさんのランドセルを持たされた子供がおり、その子供は憎しみを抱えていた。

そして周りの子供は蔑み、優越感と言った感情を抱えており、中々良さそうに思えた。

「1人では力不足でも、たくさんの仲間がいれば解決出来るってか?」

1人1人の悪感情は小さくとも子供達の悪感情を集めれば十分すぎる程のダークエナジーを集める事が出来る。

そう思った俺は子供達に声をかけた。

「おい、俺の手伝いをしてくれないか?」

「おっさん、誰だよ。誰がお前なんか手伝うかよ!」

「そう言うなよ。な?」

ニヤリと笑った俺は種を使いイーヴィルを生み出す。

「いいねいいねぇ。子供達の共同作業だ。なんて微笑ましいんだろうか。」

イーヴィルに暴れるように指示を出すと周りのビルを壊しながら大暴れする。

「さて、次はと…」

次の計画を実行しようとすると、少女の怒った声が聞こえた。

「待ちなさい!あなたに好きにはさせないわ!愛をあなたに、マジカル・リリス!」

「無力な人々を襲うなんてどれほど卑劣なんでしょう。寄り添う絆、マジカル・アズレ」

「イーヴィルにされた人の悲鳴が聞こえます。信じる力を胸に、マジカル・マリー」

「「「マジカルエデン!」」」

ピンク、青、黄色のフリフリの衣装を着た3人魔法少女の名乗りをボケっとしながら見物する。

変身中や名乗りの最中に攻撃しても弾かれるらしい。

「あれ、今回は新しい人だ。」

「あなた!どうしてこんな事をするの!」

「イーヴィル、ヤツらの足止めをしろ。」

「GYAOOO!」

「話に応じてもくれないのね!」

3人がイーヴィルに集中したのを確認し、アズレとマリーへと気配を消して近づく。

「よう、俺と遊んでくれよ。」

「な!あなたは!」

「邪魔しないで!」

俺に気付いた2人は攻撃をしようとするが、さすが幹部と言うべきか、俺の身体能力は3人の魔法少女を遥かに凌駕していた。

簡単に攻撃を避けた俺はイーヴィルと戦うリリスと距離を開けるため2人を大きく投げ飛ばす。

「「きゃああああ!」」

「アズレ!マリー!」

「おい、よそ見していて良いのか?」

「クッ!きゃああ!」

今まで3人で戦っていたイーヴィルを突然1人で戦わなければならなくなったリリスは守勢に回らざるを得なかった。


「さて、いっちょやりますか。」

俺は格闘技の経験も無いズブの素人だが、魔法少女達はその俺から見ても戦い慣れている様子は無かった。

当然だ、ただのガキが達人級の動きを出来る訳無いんだからな。今までは魔法少女としての身体能力と3人で戦う事で補っていたのかもしれないが、俺は魔法少女よりも身体能力は高い。楽勝だ。

タイミング良くパワーアップでもすれば話は変わってくるが、さすがに現実は甘くない。

…フラグじゃないぞ。

「さあ、俺を楽しませてくれ!」

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