爆弾魔が悪の組織の幹部になった場合

マーベ

第1話

憎い


幸せが絆が愛が


信じない


希望を正義を仲間を


誰も助けてなんてくれなかった


全て奪われた


俺には何も残っていない


だから


奪ってやる


壊してやる


踏みにじってやるんだ





『今日未明、東京都○○区のビルが爆発によって倒壊しました。死者は30代の男性が1人、重軽傷者は10人に上り、原因は依然調査中であり、事件と事故両方の線で捜査を進めるとの事です。』

「なんだ。1人しか死ななかったか。次はもっと強くしないと。」

わざわざ現場に行く必要なんてない。

今はネットで何でも分かる時代だ。現場の様子も地上と空の両方の映像を見る事が出来るし、被害も細かく教えてくれる。CGで再現すらしてくれる親切な番組もあるくらいだ。

スマホのネットニュースを見ながら俺は呟く。

「次はどこにしようかな。」

スマホの画面には遊園地の広告動画が流れており、それを見た俺はニヤリと笑った。

「次はここにしよう。」



効率良く被害を出すために大きな建物や人気のアトラクションの位置を地図に書き出していく。

予告状なんて出さない。俺の目的は有名になる事じゃなく、幸せを壊す事だからだ。無駄な事はしない。

昔爆破解体のバイトをしていた経験を活かして最大限の効果を発揮する事が出来る爆薬の量を計算する。

「こんな感じか。今回は何人死ぬかな?楽しみだなぁ」


適当につけていたネットニュースの動画では、最近頻繁する怪物騒ぎとそれと戦う謎の少女戦士の報道がなされていた。

「この怪物は一体何なんだろうな。まあ、俺の楽しみを奪わなければどうでもいいか。それよりもこの女共だ。魔法少女だかなんだか知らねえが、希望に溢れたなんて顔しやがって、気に入らねえ。正体が分かれば狙うんだが、さすがに分からねえか。」

悪態をつきながら黙々と準備を進める。




遊園地に到着し、堂々と入場する。

観光客で賑わう売店やジェットコースターの柱など、計画通りに設置していく。

監視カメラがあって設置しにくい場所にはジュースの紙コップの中に爆弾を仕込んでポイ捨てを装って設置する。すぐに帰ると怪しまれるかもしれないので昼過ぎまで遊園地で過ごし、帰路に着く。


「本当は実際の様子を見たいんだが、安全を最優先するならこのやり方の方がいいんだよな。それじゃあ、ポチッとな」

その瞬間数十個もの爆弾は一斉に起爆し、その場を阿鼻叫喚の地獄へと変貌させた。

笑いを堪えきれずに転げ回るその姿は今まさにたくさんの人の命を奪ったとは思えないほどの満面の笑みを讃えていた。

「いいね、いいねぇ。また奪ってやった!ギャハハ!あー、この瞬間のために生きてる!」

とても幸せそうに、そして残忍な顔で喜びを表現する。



それから数日、大規模な爆弾テロのせいで警備が厳しくなり、少しの間は自身の趣味を控えていた俺は貯金通帳と睨めっこしていた。

「金が無くなったな。めんどくせえが、また働くか。」

その時、インターホンが鳴った。

のそのそと、玄関に出て行く俺。

「はい、新聞ならお断りなんですけどぉ」

「どうも、○○さんですよね。警察なんですけど。」

そう言って目の前の男が行った言葉で俺の頭は真っ白になった。

(なんで警察が?捕まえに来たのか?いや、証拠なんて何も無いはずだ!)

目の前の男は一瞬戸惑いで歪んだ俺の表情を見逃すような無能では無かったようで、その時の事を詳しく聞いてきた。

俺はしどろもどろになりながらもコミュ障だからという事でなんとか乗り切ったのだった。


「はぁ、やっと帰ったか。あれは俺の事確実に疑ってる目をしていたな。どこかに逃げないと。」

とりあえず証拠になりそうな物を全てまとめ近くの河原にでも捨てる事にする。

その後行方を眩ませれば警察も動けないはずだ。

そうと決まったのならば善は急げだ。

リュックにゴミを詰め込み足早に家を出る。

かなり気に入っていた住処だったが、こうなっては仕方ないだろう。


そうやって近くの河川敷に到着すると俺はリュックを捨てようとする。

だが、俺に声をかける人物がいた。

「どうも○○さん。奇遇ですね。」

「アンタは、さっきの刑事…さん」

「不法投棄とは感心しませんな。その中身見せてもらっても?」

「いや、そういうのは困ります。」

「なぜです?どうせ捨てる物でしょう。」

ジリジリと下がる俺との距離を少しづつ詰めて行く刑事。

ある程度近付いた所でリュックを放り投げ、逃げる。

「おい!待て!」

「クソ!ふざけんな!」

刑事は年配だった事もあり、俺の方が速く走る事が出来た。

だが、やはりというべきか、後輩らしき若い刑事が回り込んで来ており、挟み撃ちにされてしまった。

「○○!もう逃げられんぞ!」

「観念したらどうだ!」

「クソ…」

こんな所で捕まる訳にはいかない。俺はもっと…!

そう思った時だった。不意に頭上に影が差し、何かが建物の屋根に降り立った。

「イーヴィルやってしまいなさい。」

「GYAOOO!」

それは巷を騒がせている怪物とそれを操る怪しい女だった。

「ねえ、あなた。私達の仲間にならない?」

「仲間だと?」

「そう、他者の幸せを奪うの。そして世界を闇で覆い尽くす。それが私達の組織、アスター。爆弾魔みたいなセコい真似をする必要は無くなるわ。」

「お前は誰だ。名前も知らない相手と組むつもりはない。」

「あら、失礼。私はアポフィス。アスターの3人いる幹部の1人よ。」

「お前の仲間になれば、あの怪物を使役出来るのか?」

俺は銃弾を何発も受けてなおまったく効いていない怪物を指さした。

「そう。そしてあなたも人間を超越した存在に進化出来るのよ。」

「なるほど。いいだろう。どの道俺はあの刑事に捕まっていた。なら悪魔でもイーヴィルでも利用してやる。」

「契約成立ね。」



そうして連れてこられた俺は手術台の上に寝かされた。

俺の周りを手術衣を着た人間が取り囲んでいた。

「それじゃあ今からダークエナジー適合化手術を始めるわ。あなたが起きた頃には世界は一変しているわ。」

「楽しみだ。」

麻酔をかけられた俺はそのまま目を閉じた。


再び起きた時俺の目の前には女が経っていた。

「起きたわね。調子はどう?」

「悪くない。いや、最高だ。」

「それなら良かった。あなたの名前は?」

「名前は捨てた。あんなゴミ共が付けた名前を後生大事に使うつもりはない。」

「なら、あなたの名前を付けてあげるわ。そうねぇ…アフリはどうかしら?」

「名前なんてどうでもいい。」

「じゃあこれで決まりね。誰かに名前を聞かれたらアフリと名乗るのよ?」

「分かった、分かった。」

念押ししてくる女に辟易した俺は適当に返事をしたのだった。



ちなみに刑事達は駆け付けてきた魔法少女に助けられたらしい。残念だ。

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