彼女と花火
「間に合ったー!」
僕はそう言いながら、勢い良く屋上に出る。
「うるさい」
れいちゃんは僕の後に続いて屋上に出て来て冷たくそう言う。
「だって……花火、楽しみなんだもん」
「そんなに好きなの?」
「うん。……れいちゃんと見たいなって思ってて……ずっと誘おうと思ってたんだよ」
「へぇ。……よかったね」
「うん、よかった」
僕らはそんな風な会話を交わしながら、少し歩いた所で座り込む。
「あっ、そういえば……れいちゃん、僕思い出したんだよ」
「思い出した?」
「うん。昔……二人でここ来たよね?」
僕が言うと、れいちゃんはちょっとだけ目を見開いた。
「……それも忘れてたんだ」
「あっ……ごめん、僕……」
「まぁいいよ。思い出したんでしょ?」
「うん」
れいちゃんは呆れた様な、ちょっと驚いた様な声を出す。
……まぁ、そりゃそうか。
今まで昔の話なんてしなかったし、してなかったからこそ……れいちゃんはずっと分かってるって思って、僕と一緒に居てくれたんだ。
それって何だか……ちょっとくすぐったいな。
「れいちゃん、僕……頑張るね」
「うん。待ってるよ」
れいちゃんの望むことは分かってる。
『お願い』だって、まだ足りない。
きっと……全部終われば、れいちゃんは幸せになれる。
そういうことなんでしょ?
だって、そうじゃなきゃ……僕以外の人達を呼ぶ意味が無い。
僕がやるんだ。
僕が……れいちゃんを助ける。
だって僕は、れいちゃんに助けられたんだから。
「あっ」
そんな事を考えていたら、
ドンッ…
れいちゃんの声と共に、花火が上がった。
「わぁ……」
花火……結構大きいし、綺麗に見える。
こんな絶景スポットがあったなんて。
「あっ、この音……」
「ん?」
「……覚えてない?しきが怖がってた」
「えっ……僕が?」
「うん。誰かが床叩いてるって」
「へぇ……」
そういえば……れいちゃんと昔会ってたのは思い出したけど、結局怪我の過程は思い出せなかった。
……れいちゃんにもう一度して貰えれば思い出せるのかな。
そもそも、梅井さんの言ってた「印が消えないように」ってのも、まだ確定じゃないんだし。
……ドンッ
まぁ、今はいいや。
「……」
れいちゃんはさっきから、釘付けになる様に次々と上がる花火をじっと見続けている。
「……楽しい?」
僕が聞くと、れいちゃんは無邪気に、
「珍しいから」
と言っていた。
連れて行ってくれる人も一緒に行きたいと思う人も今まで居なかったから、わざわざ見に行った事なんて無かった。
れいちゃんもそうだと言っていた。
……意外と皆そうなのかもなぁ。
僕とれいちゃんが似てるってだけかもしれないけど。
「たまやー!」
大きな花火が上がった時、僕は無邪気にそう声を張るけれど、れいちゃんはそれに明らかに嫌そうに顔を歪める。
「……うるさ」
「えぇー……せっかくやったのに」
……でも、れいちゃんには不評だったみたいだ。
やっぱり夜に生きる人としては、うるさいのは嫌いなんだろうか。
「でも、せっかく花火なんだから……」
……僕がそう言いかけた時、
「待って……誰か来た?」
何やら下の方が騒がしい。
やっぱり花火の絶景スポットだったんだろうか。
「うわ、眺め良〜!」
「だろ?こんな山、誰も上んないから」
「てかなんか匂わね?ここ」
「うわ、お前マジで空気読めてないな」
「いや、マジでさ……」
「……いっぱい居る」
「だね……」
せっかく静かに楽しんでたのに、大学生くらいかのグループが、下の所で騒いでる。
僕らはそれを並んで見下ろしながら、どうしようかと目を見合わせる。
「……しき」
「あっ、れいちゃんも思った?」
「うん。……脅かしてやろうよ」
「だよね。僕達こんな格好だし、絶対びっくりして逃げ出すよ」
僕らは互いの格好を見せ合って悪い顔で笑う。
……僕らの時間を邪魔する奴は、みんな腰を抜かして逃げてけば良いんだ。
「じゃあなんて言う?」
「んー、じゃあ……」
そんな風に僕らが考えていると、
「ひっ、あれ……!」
……脅かす前に見つかってしまった。
「えっ、ガチじゃん」
「待って待って、無理無理無理……」
「きゃあっ……!」
こんな遠くからでも、僕らを見た途端グループの人達はすぐに山を降りていく。
「……あははっ」
「あはは!怖がってる!」
れいちゃんはその様子があんまり面白かったのか、見た事ないくらい無邪気に笑い転げている。
僕も面白くなって一緒に転がって笑っていると、最後の一つがドンッ……と大きな音を立てて、僕達の真上で咲いた。
「あははっ、綺麗」
「……れいちゃんって、綺麗とか言うんだね」
「言うよ?……何で?」
「何となく……綺麗とか可愛いとか、あんまり言わなそうだったから。……ごめん」
僕が思わず言ってしまうと、れいちゃんは不思議そうな顔をする。
……当たり前だ。
変な事を言ってるのは、僕の方だ。
「……でも、確かにあんま言わないかも」
れいちゃんはそう言って、上半身だけ身を起こして僕の方を向く。
「でしょ?……僕、れいちゃんがそういうの言ってるの、聞いた事無い」
「うん。……でもね、」
「……?」
れいちゃんはゆっくりと僕の方に近づき、片手を僕の頬にやって言った。
「しきの事は、可愛いと思うよ」
……一瞬、思考が止まった。
「……でも、しきは覚えてないんでしょ」
「ぇぁっ……な、なにを……?」
「じゃあ良いや」
れいちゃんはそう言って、僕の頬から手を離してしまう。
……何?
何か僕、間違えた?
いや、でも……可愛いって言ってくれたし……。
……?
これ、褒め言葉?
ダメだ、分かんなくなる……。
「帰ろ」
「えっ……もう?」
「だって花火、終わってるじゃん」
そうだ。
花火が終わったって事は……僕の『お願い』ももう終わり。
「……れいちゃん」
「なに?」
ズルだけど、引き留めたくて声を掛けると、れいちゃんはちゃんと答えてくれる。
それが逆に僕を惨めにさせて……あぁ、結局終わっちゃうんだ。
「次は……魚住さんをやるよ」
「ん?……うん、頑張って」
「……いいの?れいちゃんのなのに」
僕が試しに言ってみると、以外にもあっさり承諾されてしまう。
……それなら、それまでだけど。
「次のお願い、何にしよっかなー……」
「……何にするの?」
「えー……まだ内緒」
僕がそんな風に言うと、れいちゃんは露骨に嫌そうな顔をした。
あれ……れいちゃんが可愛いって言うから、可愛げを出してみたのに。
難しいなぁ……。
れいちゃんは……『お願い』以外だとかなり機嫌によって態度が左右するから、今は機嫌が良くないんだろう。
……と思ったら大きくあくびしていたので、多分眠いんだろうな。
眠いと機嫌が悪くなっちゃうの、子供みたいで可愛いな。
……っていうか、可愛いはれいちゃんの方なんじゃないかな、ほんと。
「……じゃあ、おやすみ」
「うん。……おやすみ」
僕ら参加者の生活空間は二階に上がって、れいちゃんは立ち入り禁止の事務室で寝るので、階段の所で手を振って別れる。
「……よし」
今日は早く寝て、明日に備えよう。
もういつの間にかあと三人になったし、明日魚住さんと栄村さんを殺せば、きっとれいちゃんは幸せになれるんだから。
『頑張って』
……だから、僕が頑張らなくちゃ。
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