彼女と悪意
「こんにちは。……
「えっ、はい……何ですか?」
「……ちょっと話しませんか?」
梅井さんとまぁまぁの時間の会話が終わって、僕は早速ある人に話しかけに行っていた。
……十三人居た参加者も、もう僕入れて六人にまでなってしまった。
僕、栄村さん、梅井さん、魚住さんと、知らないのはあとの二人だけ。
……そのうちの一人が、この深山さんだ。
「……ずっと、れいちゃんの事見てましたね」
「えっ、あっ……いや!違くて……!」
「あ、責めてる訳じゃないんですよ。可愛いですよね、彼女」
「?は、はぁ……」
僕は深山さんに話しかけながら、隣に座ってみせる。
多分警戒されてるけど……まぁ、そりゃそうか。
この人は僕が柿本さんを殺したのも見ていたし、れいちゃんになでなでを願ったのも、「だいすき」も、当然聞いていただろう。
この人の中で、僕がれいちゃんの彼氏かそれに相当する存在だって認識は、きっと出来てる。
なら、あとは僕の考えが正しければ良いだけだ。
「協力しませんか?……深山さん」
「……協力?」
「そう」
僕は悪い顔で笑う。
そして、もったいぶりながら口を開いた。
「僕らで二人殺して、願いを叶えるんですよ」
僕の言葉に深山さんは目を見開いてから、小さい声で反応する。
「そんなの……どうして僕なんですか?」
拒否している感じは出しつつも、ダメだとは言わないこの感じ……いける。
「まぁ、聞いてください」
僕はそんな事を言いながら、他には聞こえない声量で、深山さんに耳打ちする。
「二人でなら殺せるんですよ。……梅井さんは僕を信用し切ってるし、栄村さんはさっき殺されかけたのと、知り合いが死んだダメージで焦燥し切ってる」
「……」
深山さんは何も言わないものの、僕の言葉の意味は分かるんだろう、静かに息を飲んでいる。
……そうなれば、僕が背中を押すまでだ。
「どうですか?僕が梅井さんを呼び出して別の部屋に連れて行きますから、その間に深山さんは栄村さんを……」
「……ちょっと、ちょっと考えさせて」
「じゃあ、考えてる間に一つ教えてください」
「……何?」
「『お願い』どうしますか?」
僕が聞くと、当然深山さんは不信な顔をする。
「……それは、ゲームを終わらせて……自分が死なない様にするんじゃないですか。死にたくないから、そうやって僕に協力しようって言ってきたんじゃないんですか?」
確かに、深山さんの言うのも一理ある。
まだ彼は、僕が自分の為に仲間を売った奴だと思ってるだろう。
けど……『僕』を見たのなら、それは違うって分かるハズだ。
「深山さん、知ってると思いますけど……僕は既に一人、殺してるんですよ」
「あっ……」
やっぱり、れいちゃんしか見ていなかったんだな、この人は。
僕の言葉に目に見えて焦る彼に、僕は追撃すべく口を開く。
「れいちゃんは、『何でも』叶えてくれるんですよ。彼女の出来ることなら、何だって……」
「……」
「……昨日、自殺した人が居ましたよね。その人は、れいちゃんに自分を滅多刺しにさせる事さえ出来たんです」
僕が語る中で、深山さんは何となく僕が言わんとしている事が分かってきたんだろう、表情をゆっくりと変えていく。
でも……やっぱり僕に言うには、まだ口が固いか。
僕は決定的な言葉が聞ければそれでいいのに。
……引き出さなくちゃ。
「どうせ何もしなけりゃ、あなた……僕が殺しますから。それなら死ぬ前に、いい思いしたいって思いません?」
「……やっぱり、僕を殺すんですか」
「そうですよ。今死ぬか、願いを叶えて死ぬかなんですから」
「……」
だから、早く……。
「……そんなら、最後に犯してやりますよ。僕は……あの人に人生を狂わされたんだから」
……来た。
「文句は言わないでくださいよ。……あなたがそうさせようとしたんですから」
そう言う彼に向かって、僕は笑顔で「もちろんですよ」と答えた。
間違いない。
この人は……れいちゃんに危害を及ぼす、『悪』だ。
****
「えっ……いいけど、質問って?」
僕の言葉が意外だったんだろう。
すっかり水を飲んで満足そうにしていた梅井は、案の定興味深そうに聞いてきた。
「梅井さんって、色んな人と話してましたよね」
「ん?……うん」
「参加者の中で、僕……知らない人が二人居るんです。梅井さんは知ってるでしょう?……その二人について、教えてください」
僕がそう言うと、梅井さんは少し唸る。
「良いけど……どうして?」
……そんなの、簡単な事だ。
「さっきれいちゃんが殺されかけて……把握しておきたいって思ったんです。れいちゃんに危害を加えようとする様な、『悪い人』を」
前の様に『お願い』を使えば、れいちゃんは簡単に殺されてしまう。
……殺されまではいかなくとも、それでもれいちゃんに害がある可能性のある事には、違いないんだから。
だから僕は、知っておかなきゃいけないんだ。
そんな『悪』を。
「……ま、いいよ」
梅井さんはしばらく考え込んでいたものの、やがてそう口を開いた。
「僕が話すのは……目黒くんと深山くんの事で合ってる?」
「……はい」
それから、梅井さんは知ってる事を全て語ってくれた。
ちょっと迷いはあったみたいだけど……何が後押ししたのかは、この際どうでもよかった。
「まず、目黒くん」
最初に梅井さんは、目黒さん……一緒に死体埋めをした人について教えてくれた。
「潮汐さんは、目黒くんにとって命の恩人らしい」
……若干度が過ぎる事もあるものの、れいちゃんに心酔している様だと梅井さんは言う。
それなら……れいちゃんに危害を加える事も無いだろう。
「君の言う『良い人』が、潮汐さんにとっての『良い人』なら……彼は間違いなく良い人だ」
梅井さんも、そう結論づけた。
「……じゃあ、深山さんは?」
それなら、目黒さんの方は良い。
問題はもう一人……深山さんがれいちゃんにとって悪いやつかどうかだ。
「深山さんは……」
****
「深山さん。あなたは……れいちゃんにとって『悪』だから」
僕はれいちゃんを守る為に、その手に持った凶器を振るった。
洗ったばかりの服が、またびしゃっと汚れる。
「れいちゃんの為に、死んでください」
首を切ったんだから、当然もう深山さんの声は出ない。
僕の目の前で静かに崩れて行く彼を適当に見送って、僕はれいちゃんの居る方に振り向いた。
「……れいちゃん、これで安心だよ」
僕がそう言って笑いかけると、れいちゃんも笑ってくれた。
……良かった。
やっぱりこれが正しかったんだ。
世界にとってじゃない、れいちゃんにとって。
れいちゃんにとって正しければ……もうそれは、僕にとっての正解だから。
『深山さんは……色々訳はありそうだけど、自分から行動出来る人には見えなかったから、『悪い人』とも言えないんじゃない?』
……違ったよ、梅井さん。
誰かに唆されて、あんな事言っちゃう様な人は……遅かれ早かれ、れいちゃんに危害を加える存在になってもおかしくない。
だからその前に……第二の柿本さんが生まれる前に殺したまでだ。
殺すのは心臓が痛いし怖いけど、……これはれいちゃんの為なんだから。
「また殺したね」
……そんな僕を見て、れいちゃんはいつも通りに口を開いた。
「しき、『お願い』は?」
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