彼女と緊張
「ゲーム開始でーす」
れいちゃんの掛け声と共に、一部屋に集められた参加者は次々に部屋の端々へ移動する。
この人達は……何なんだろうか。
逃げたら殺される何て思ってる人はどこにも居ないだろう。
だからといって警戒するようにそれぞれ散らばるという事は、いつか誰かを殺して自分の『お願い』を叶えようとしているのか。
それでも、れいちゃんに文句一つ言わないのは、……皆れいちゃんが特別なんだろうか。
「鈴村くん……どうだった?」
梅井さんは、帰ってきたなり話しかけたい様子でソワソワとしていたので、一応答えてあげる事にした。
「……『お願い』なら、教えてくれるみたいですよ」
ちょっと意地悪に言ってみると、
「そうか……でも困った。鈴村くんは興味深くてとても殺せない」
と、結構真面目に答えられて、この人も自分の為に他人を殺す事を厭わない人だと思い知る。
それに思わず顔を顰めていると、梅井さんは言葉を続ける。
「そんな怖い顔して、真に受けないでよ。僕は君を殺さないから」
「はいはい、分かりましたから……」
「……もっとも、君が僕を殺す事はあるかもしれないけどね」
「はぁ……そろそろ怒りますよ」
僕がさすがに突き放すと、梅井さんは「まぁまぁ」と笑う。
ここで謝らない辺り、本気でそう思われてる様な気がして……冗談じゃない。
僕は確かにグロ耐性のある変な奴かもしれないけど……殺人願望なんてないし、そんな奴らと同じ扱いをされるなんて心外だ。
「僕、……栄村さんとこに行ってきますから」
誰でも良かったけど、同級生の桃井さんが死んでしまった今、栄村さん以外にまともに話した人が居ない。
もちろんれいちゃんも居るんだけど……さっきちょっと気まずくしちゃったし。
「……栄村さん」
「あぁ……おはよう、鈴村くん。……お陰で寝不足だよ」
そんな気持ちで話しかけたからかは分からないけど、話しかけた栄村さんはどこかぎこちなかったし、
「……」
一晩の間にいつの間に仲良くなったのか、栄村さんと同じ教室だった女の人も一緒だった。
「……あぁ、鈴村くん。この人は……
「柿本です……」
「あっ、鈴村です……」
それに、反射的に僕も自己紹介を返す。
「柿本ちゃんはいい子だから……無いと思うけど、殺したりは……しないでね」
「……する訳ないじゃないですか」
「分かってる!分かってるけど……やっぱりこんな状況だから、一応言っておきたくて」
「まぁ……分かりますけど」
……やっぱり、疑われてる気がする。
しかも梅井さんとは違って、勘とかではない方向で疑われてる感じだし。
「……」
そうだからか、栄村さんがあまり話そうとしないせいで……そのまま永遠に続くんじゃないかってくらい沈黙の時間が訪れた後、それは耳に慣れた声で簡単にかき消される。
「……いやー、頭を冷やしたよ。思った事、何でも言って良い訳じゃないって……長年生きて分かってるハズなのにさ、どうしても止められないんだ」
それは……梅井さんの声。
あくまで疑ってかかる考えは変えない様だったけど、自分の言動に関してはちゃんと反省しているのか、縮こまりながら梅井さんは僕に話しかけてきた。
「……まぁ、良いですよ。この際」
「良かった……ありがとう、鈴村くん!」
そして、梅井さんは人馴れした性格だから、三人組で輪になってる僕に話しかけたのなら、他の二人にも介入していくのは自然な事で。
「えーっと、貴女は確か……栄村さん。こちらの女性は……お名前は……?」
「えっ、あ、柿本です……」
「柿本さんね。……柿本さんは彼女……潮汐さんとはどういう繋がりで?」
「あっ……私は、潮汐さんの学校……小学校の時の、担任なんです……」
「ほう……先生でしたか」
「えっ」
まさかそんなに明確な知り合いが居るとは思わなくて、横から聞いていた僕の方もちょっと反応してしまう。
そこから、この性格で小学校の先生は大変そうだな……とかいう寄り道をしながらも、れいちゃんについての思考に辿り着く。
「あの、僕も良いですか?」
「……何ですか?」
「れいちゃんって……どんな子でしたか?」
私が聞くと、柿本さんは少し考え込む。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「か……いえ、健気な子でしたね。何事にも真面目に取り組む子で、いつもニコニコしている子でしたよ」
「なるほど」
「え、えぇ……」
「……でも、何年も前の一生徒だというのに、良く覚えてらっしゃいますね?」
「……」
いつの間にか話の主導権を握っていた梅井さんが詰めると、柿本さんはすぐ黙り込んでしまう。
さすがに可哀想だなと思っていると、栄村さんもそう思ったのか庇うように前に出た。
「えーっと?梅井さん?でしたっけ。探偵気取りか知りませんけど、教師が教え子の事を覚えているのが、そんなにいけませんか?」
「い、いえ……ね、あくまでそうも考えられると言うだけであって……」
「……それ、あなたの反省していた『言わなくていいこと』なんじゃないですか?」
「う……これに関してはぐうの音も出ませんです……すんません……っ!」
強気に出られると弱いのか、梅井さんはすっかり小さくなって顔の前で手を合わせ、ヘコヘコとお辞儀を繰り返していた。
「はぁ……気をつけてくださいね?」
「ハイです……」
……僕の時はそこまでヘコむ様子でなかったのを見るに、女の人に強く出られるのにめっぽう弱いんだろうか。
とにかく今度から梅井さんが暴走したら栄村さんに止めてもらおうかと得策を考えついていると、不意にれいちゃんが声を上げた。
「……誰も何もしないの?」
あんまり急に、突拍子も無く言うもんだから、僕らの会話も中断されて……多分全員の目線が彼女に集まったと思う。
「一日目は『お願い』の事話したら、すぐ殺し合ってくれたのに」
れいちゃんはつまらなそうに積まれた机に座っていたのから立ち上がり、教室の真ん中の方まで歩いて来た。
「魚住ー」
「はいっ!」
れいちゃんはさっきのれいちゃんに近づいて行っていた男を呼びつける。
「魚住、イス」
「はぁい」
そしてその男……魚住さん?を、その一言で四つん這いにさせ、その上にとすんと座る。
「……でも、私は考えてました」
そして、れいちゃんはその特別なイスに座りながら口を開く。
「もしかしてみんな、二日目は殺さない人が多いんじゃないかなーって」
まぁ、確かにそうだろう。
狂人の様に見えたれいちゃんがそれに気づいていたのはちょっとびっくりだけど、今残っているのは何かキッカケが無ければ殺さない人かそもそも殺す気がない人だけだ。
「そこで!いい事を考えてみました」
れいちゃんは得意げに言って笑う。
それからぐるっと一周見回して足を組む。
……いい事って何だろう。
考えようとしたけど、れいちゃんが見回した時に目が合った時のドキドキがちょっと残っていて、上手く考えられなかった。
もう付き合って日は経ってるのに、まだこの段階って結構な事だな……なんて思っている間に、れいちゃんは途端に冷静になって口を開いた。
「……あと一時間で誰も死ななければ、この魚住が一人殺しまーす」
……れいちゃんは薄ら笑みを浮かべながら、いつの間にか手に持っていたタイマーのスイッチを押した。
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