彼女と狂気
彼女は十分過ぎる程飛田さんを滅多刺しにした後、動かなくなった彼には気にも止めず、ゆっくり立ち上がって口を開いた。
「……ルールその四、殺す時は首を切って殺す事」
そう言うれいちゃんはちょっと嫌そうな顔をしていて……飛田さんの断末魔がうるさかったのが嫌だったのかなぁって、何となく思った。
……人をぐちゃぐちゃに刺してる時点で、何も言えないんだけど。
「……」
れいちゃんはそれっきり黙って壇上に戻ってしまった。
こんな状況に吐きそうになっているのは栄村さんと……あとは端に居る名前の知らない人で、
「これは……グロいねぇ……」
……梅井さんとかは吐きそうまではいかないけど、当然気分は良くなさそうだった。
「……でも、丈夫だね。鈴村くんは」
「別に……普通に酷い状況だって思いますけど」
「いやいや。別に僕は……君がおかしいって思ってるとは、言ってないじゃないか」
「……その聞き方は疑ってるとしか思えないので」
「ん?……待って待って、仮に鈴村くんがそういうのに耐性ある人だとして、なにか都合が悪い事があるかい?」
「そんなの……」
キーンコーンカーンコーン…
軽く言い合いになっていると、また……朝の時と同じ様なチャイムの音が鳴った。
「はい、おしまーい」
すると、れいちゃんはそう声を張り上げる。
「今日のデスゲームはおしまいでーす。……でも、明日もあるので帰らないでくださーい」
そのままれいちゃんがそんなことを言うと、途端にバッと立ち上がる影があった。
「……サチ様!」
「あっ……」
僕が何か考えつく前に、その男はそう言ってれいちゃんの元まで走って行った。
れいちゃんが軽くあしらうこの男は……さっき『サチ様!』と暴走していた男だ。
よく分からないけど、れいちゃんの事を変な名前で呼ぶし、多分今日のゲームが終わったんだと思うけど、その途端にれいちゃんにベタベタし出して……。
……ん?いや、デスゲーム中とはいえ僕がれいちゃんの彼氏なんだし、止めたければ止めていいんじゃないの?
「……れいちゃん」
けど、よく分からない人に急に絡むのもアレだったので、とりあえずれいちゃんの方にはなしかけると、れいちゃんはこっちの方を見る。
「えーっと……その人、誰?」
何だか束縛する彼氏感が出てしまったけど仕方ないだろう。
僕が聞くと、れいちゃんはチラッと男の方を見てから、
「
とだけ言った。
「……?あっ、名前?」
「うん」
「そう、なんだ……」
僕の聞き方も悪かったと思うけど、何だかはぐらかされている様な答え方をされて、ちょっと不満に思ってしまう。
「……」
男は汚い身なりで、くしゃくしゃのTシャツに伸びすぎなくらいの黒髪で……清潔感の欠片も無い様な人物だった。
「サチ様!この人も僕と同じなの?」
その男……魚住さん?は、僕の方を指さして無邪気に言う。
歳は多分僕やれいちゃんより上そうなのに、僕より子供みたいな言動で……何だかおかしくなりそうだ。
「……同じじゃないよ。この人はしき」
「へぇー。しきくん?」
「鈴村です……」
れいちゃんは……多分意図は無いんだろうけど名前の方で紹介して来たので、一応苗字で名乗る。
が、そこまで興味は無いのか話は続かない。
タイミングを逃してしまったので彼氏の権限で近付くなともいえなくて、そのまま三人で固まっていると、
「あのー、質問良いですか?」
梅井さんが来て、やっと時間が動いたようになる。
「何?」
「いや、ね。これからどうするのかなーって」
れいちゃんは少し考えているのか黙り込んでから、一つの扉の方を指さした。
「ここ……体育館はもう使わない。教室の方に行こう」
「使わない……というと?」
「デスゲーム、一日目おわったから、二日目は教室のとこでやるから」
梅井さんの質問に答え、れいちゃんは壇上から降りて歩き出す。
それに僕らはぞろぞろついて行って、波止場さん辺りの声掛けでみんなれいちゃんに続いて教室のエリア……廊下の所につく。
「……今何人だっけ?」
「えーっと……十三人居て四人死んだから……九人?れいを入れたら十人だけど」
「へぇ。……じゃあ、その九人の寝る部屋を決めまーす」
れいちゃんはそう言って振り返る。
すると、それに応えるように、後ろの方に居た波止場さんが歩いて来て口を開く。
「そうだね……何部屋使えるんだっけ?」
「んー……三が良いかな」
「じゃあ、……うん。こうしよう」
そう言った後、波止場さんはパンと大きめの音を立てて手を叩く。
僕含めそこに居た十人の目線を一瞬で集めた波止場さんは、そのまま話し続ける。
「女性二人は一番奥の教室。……後の六人は半数に分かれて手前のとこの教室。……それでどうかな?俺は兄妹だかられいの所で」
そうだねなどと反応する様な人はここには居ないらしく、彼の言葉には反応こそ無いものの、否定はしないという事はみんな概ね賛成という事に等しかった。
個人的にはいくら兄とはいえ年頃の女の子のれいちゃんと二人きりにするのはちょっとあれだったけど……僕が意見したからって「だから?」となるだけだろう。
変に一人にさせたり栄村さんとかの部屋に行かせても危なそうなので、それが一番いいのかなと思って部屋分けに参加した。
「お!同じ部屋だね、鈴村くん」
……まぁ、確率的にも二分の一だから、梅井さんと一緒の部屋になるのも当然おかしい事では無いということだ。
「……はぁ」
僕はため息をつきながら、自分の教室に入っていった。
****
キーンコーンカーンコーン…
「……?」
深夜。
確かに、チャイムの音が鳴った気がする。
こんな時間なのに。
「……」
……こんな時間に起きちゃうなんてなぁ。
「よっ……と」
僕は地べたに寝ているというのに熟睡している梅井さんやらを起こさないようにゆっくり起き上がると、そのままトイレへと向かった。
寝る前に水も飲んだし、ここは何故か水道が通っているのでトイレだって使える。
廃校にしては綺麗だったし……デスゲームする為にれいちゃんが頑張って掃除したんだとすれば、ちょっと可愛いな……なんて思ってしまいつつも、水を流して手洗い場の蛇口をひねる。
……それにしても、四人も死んだ後にあんなにぐっすり眠れるなんて、やっぱり狂ってるよなぁ……。
「……」
そのまましばらくぼーっと手を洗って、ポケットから出したハンカチで手を拭いていると、どこからかふと声がする様な気がして耳を澄ます。
「……っく……ぅ……」
いつの間にか蛇口を締めても聞こえる水の音と共に、しゃくり上げるような声が聞こえた。
……幽霊?
いやいや、そんな訳……。
「っ……」
唾を飲み込む。
音が聞こえるのは……位置的に女子トイレからだ。
「あの!」
外に出て、……バカみたいに大きい声では無いけど、ほどほどに大きい声を上げると、その声はピタリと止んだ。
「……誰?」
そこから出てきた人物は……僕の目の前に来ると目を見開き、サッと視線を逸らした。
「私は……私はサチ。貴方とは関係ない」
そして、それだけ言って……もう目も合わせずに、走り去って行ってしまった。
……その『サチ』と名乗った、目元を腫らして酷い格好で居た人物の姿や声は……れいちゃんそのものだった。
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