第14話 主人公とヒロインが付き合ってるという噂が広まる教室の雰囲気
翌日の学校は朝からザワザワとしていた。二年B組の教室に関してはもうソワソワとしていた。
そんな中でも特に浮ついているのはもちろん、俺の隣の席に座る、
「くぅ~っ! ヒリヒリするね! たまんないね! 好奇心とか緊張感とか羨望とか嫉妬とか落胆とか諸々がない交ぜになった、学園ラブコメだけが生み出せるこの空気……袋に詰め込んで持ち帰りてぇ! いやぁ、さすが熊虎ちゃん、いい仕事するわぁ……」
京子は夏の風呂上りにビール一気飲みしたみたいな顔をしていた。そりゃ教室で一人こんな顔してる奴、友達できんわ。ぼっち過ぎてモブキャラとしても登場させられんわ。
それはそれとして、京子の独り言の通り、あの後輩ちゃんが、原作通りきっちりと「拓斗と黒木屋さんが部室でエロいことしてた」説を広めてくれたようだ。
そんな風にホッと胸を撫でおろしていると、教室後方の扉がガラッと開き――金髪の黒ギャル、黒髪ハーフツインの美少女、前髪眺めの地味男子に、中性的なクール系男子――メインキャラ四人組が連なって入室してきた。おそらく、姫歌演じるVTuberが前夜に行った生配信の反省会を部室でしていたのだろう。って、京子が言ってた。
「……ん? 何ですか、この空気。何で教室中の視線が拓斗さんと瑠美さんに?」
姫歌さんが頭に疑問符を浮かべて小首を傾げる。ほっぺに指を添えての動作が相変わらずあざとい――というのは置いておくとして。彼女が違和感を覚えるのも当然だ。四人の入室とともに、ざわついていた教室が一瞬で静まり返り、空気が一気に張り詰めたのだから。さすがはラブコメのモブキャラたち、メインキャラに対するリアクションがわかりやすい。
にしても、(おそらくSNSなどを通じて)学校中に噂が広まっているというのに、姫歌さんの耳には届いていなかったんだな。
「さっすが姫歌ちゃん! 良くも悪くも我が道を突き進む子だからね。男どもを従えてチヤホヤされることに全てを賭けてるから、女子には疎まれていて女友達ゼロだけど、それを全く気にしてないのがカッコ可愛い……! 今はもう、理解してくれる人が近くにいるって分かってるもんね……! でもそれが故に、こーゆー情報が入ってこないんだよね」
俺の疑問に京子が勝手に答えてくれた。何だこいつ、アレクサかよ。黒オタ関連の質問にしか反応してくれないけど。頼んでも絶対電気とかつけてくれないけど。
そんなカッコ可愛い姫歌さんとは対照的に、拓斗と黒木屋さんは気まずそうに苦笑いを浮かべて、そそくさと自分の席についていた。頬を染めて、顔を合わせようとすらしない。思春期だなー、こんな青春味わったことねーわ、俺。
そして、そんな三人の様子を見て、今度は中性的なイケメン友人キャラ、友利がやれやれと肩をすくめる。
「まぁ、気にすることじゃないよ、姫歌。どうせまた女子の間で君の悪評が広まってるだけだから」
「むぅ、またそうやって友利さんは意地悪なこと言うんですからっ」
こちらは、全ての事情を知った上で、面倒ごとを避けるための言動なのだろう。友利は四人の中でバランサーの役目も果たしている、有能な友人キャラって位置づけだったもんな。そうだよな、京子?
「相変わらず、観察眼に優れてるよねー、友利君は! クールでドライぶってるくせに、実は三人のことを一番よく見てるのも友利君だからね! 話題の逸らし方もスマートでカッコいい……でも漫画とはちょっとセリフ変わってるね。やっぱ結構影響出ちゃってるのかな……あっ、拓斗君が友利君に『悪いな』ってアイコンタクトを……! これは紙面では描かれなかったシーン……! いやぁ、この二人の絶妙な友情関係もまた、」
拳を握って熱く語り出した京子の言う通り、男キャラ二人が視線を交わして微苦笑しているが――
「…………っ!?」
それとは別の点で、その教室後方の光景は、俺の肝を冷やしてきた。
黒木屋さんが、チラと一瞬、俺に視線を送り、チロっと舌を出してきたのだ。
「――――っ」
すぐさま黒木屋さんから目を逸らし、恐る恐る京子の様子を確認する。
「思えば65話で拓斗君が友利君の小学校に転校してくる回想シーンが描かれたわけだけど、あの二人は当時から決してベッタリ大親友って関係でもないわけじゃん? 悪友って評されるけど、どちらかってゆーと腐れ縁って表現の方が私的には、」
よし、未だに拓斗と友利の関係についての考察披露してたわ。全然気付かれずに済んだわ。
しかし、危なかった……。黒木屋さんめ、事の重大さを理解してないんだな。俺たちが余計な関わり合いを持っちまったことが京子に知られたらどうなると思ってんだ。俺が殴られるんだぞ。さらに、その経緯にまで突っ込まれれば、芋づる式にこの世界がNTR同人誌だということまでバレて、俺が殺されちゃうんだぞ。うん、黒木屋さんがここまで理解してるわけないんだわ。
マズいな。これ以上俺に関わらぬよう、さらに念押ししておく必要があるのかもしれない。
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